幕間――長い冬の夜に
冬の夜は長い。日が落ちるのも早く、雪に閉ざされているため、ゆっくりと話をするのに向いていた。
三人は暖炉の前で思い思いに過ごしていたが、ユノは薪のぱちっと爆ぜる音で思い出したかのように読んでいた本から顔を上げた。
「あの、リア」
「どうしたの?」
呼びかけられて、リアも編み物をしていた手を止めてユノを見る。
「精霊のこと、もっと教えてほしいんだ」
「うん、もちろんいいよ」
唐突な質問だったが、リアは笑顔で快諾した。精霊の話ならば、とミラも寄ってくる。リアはどこから話そうかと顔に手を当てた。
「まず、精霊は下位精霊のミニマ、中位精霊のメディア、上位精霊のオリジンがいるの。ミニマは魔道具とかに力を貸してる子たちだね」
そう言って、リアは町の方角に目をやる。町の人たちが知らずに使っている生活具も、精霊の力がなければ動かない。森の中でも色々な所で漂っている精霊の大半はミニマたちだ。
「それから、メディアは呼びかけると力を貸してくれる子たち。この子たちの中には名前を持ってる子もいるんだけど……その話はまた今度にしよう」
「そして、教会が精霊具の素材として使っているのもメディアですね」
「……そうなんだ」
リアも初めて知る話に、目を伏せる。メディアには明確な意思があり、願いに応えてくれる。それを無視して、無理矢理力を引き出すのが精霊具だという。少し重くなってしまった空気を払うように、リアは再び口を開く。
「最後はオリジン。実を言うと、私も詳しくは知らないの」
「リアでも知らないんだね」
「ミラがいずれって言って教えてくれなかったからね」
そう言いながら、リアはミラの方を見る。自分も知りたい、と思っている目だ。ミラは小さく息を吐くと、続きを引き継ぐ。
「彼らはそれぞれの元素を統べるものですね。なので、風、水、火、土、光、闇のそれぞれにいます」
「えー、それだけー?」
「基本的には関わることがありませんから」
そう言って肩をすくめる。リアは納得いかなかったが、今日はユノに精霊のことを教える日だと思い、気を取り直す。
「じゃあ次は六大元素についてだね。それぞれの属性で性格が違うの」
「性格というか、性質ですね」
ミラが修正する。あまり違いが分からなかったが、そういうものらしい。
「風の精霊は覚えてる。シルファだよね」
「そう。風は穏やかで流れることを好むの。あと、ちょっと気まぐれ」
自分の話をしていることに気が付いたのか、緑の淡い光をまとった精霊が寄ってくる。確かに、森の中で見かけても一番自由気ままに動いているように感じた。
「それから、水の精霊はウンディア。水は変化を好むから色んな形にもなるし、どんな形にも固定されない。巡って受け止めてくれる」
受け止めるという性質と、雪が音を吸ってくれるという点が繋がった。
「逆に変化を嫌うのは、土の精霊ノーム。大らかでのんびり、急かすと拗ちゃうの」
「精霊って拗ねたりもするんだ……」
いつも優しく寄り添ってくれるイメージだったから、拗ねるというのが中々想像できない。ただ、のんびりと言うのは納得だ。いつも地面のそばであまり動かず漂っているのは土の精霊だろう。
「あと火の精霊のイグナだね。火は感情に素直でちょっと気性が荒いところもあるけど、求めれば応えてくれる」
そういえば、火をおこすときに寄ってきたり、話している時にはミルクを温め直してくれた。いつも率先して動くのは火の精霊だった気がする。
「それで、光と闇は――」
リアはそこで言葉を切って、ミラと顔を見合わせる。そして、二人同時に口を開いた。
「気難しい」
声が重なって、リアが小さく吹き出す。ミラもクスッと笑うが、その後ふと視線をそらすと、どこか遠いところを見るような目をした。
「直接相手をするのは、骨が折れますよ」
「そ、そんなに……?」
ユノが聞き返すが、ミラは曖昧に笑って肩をすくめるだけだった。何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。
「精霊たちの好みや気分によって、願っても力を貸してもらえないこともあります」
「でもさ、人間も同じだよね。むしろ、人間の方が気難しい人多いと思うよ」
その言葉に妙に納得してしまった。精霊も人間も同じ。理解しきれなくても、気難しくても、共に在ることはできる。
「そういえば、ミラは何の精霊なの?」
ユノは、ふと疑問に思ったことを口にする。ミラは他の精霊とどこか違うと思っていたが、今の説明のどこにも当てはまらない気がした。
「私は……一番近いのは風でしょうか。厳密には違いますが」
ミラはそれ以上何も言わない。今は聞くべきではない。何となく、そう感じた。そうして、長い冬の夜は更けていった。
説明回ですね。本編に入れるほどの内容でもないので幕間で。
その内この設定が活かされるお話を書けたら……いいな……。




