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名を交わす精霊の森  作者: 葉月
第四章 静かな冬、芽吹く兆し

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第二十話 白に残る足跡

 翌日、雪はすでにやんでいて、地面にはまばらに白が残っているだけだった。まだ溶け切っていない雪が陽の光を反射して、少しまぶしい。

 ユノは、残った雪を見て残念に思いながら、薪を割る。一面が白に染まる景色というのは、どんな感じなのだろうか。そんなことを考えながら、ユノは斧を振り下ろす。昨日の静けさとは違い、薪を割る乾いた音がよく響いた。


「雪、積もらなかったね」


 リアがそう言って、割り終えた薪を拾っていく。不揃いの形の薪は少し抱え辛そうだったが、特に何も言わない。ユノは同意しながら、もう一度斧を振り下ろす。狙いがずれて、木が変な方向に割れた。


「大丈夫?」

「もう少しでコツがつかめそうなんだ……」


 そう言うユノの表情は真剣だった。意外と負けず嫌いな一面もあるらしい。リアは少しずつ表情が豊かになっていくユノを見て、うれしく思う。


「次はいつ降るんだろう」

「またすぐ降ると思うよ。降ったりやんだりを繰り返して、少しずつ冬になるんだって」

「そうなんだ」


 ユノは返事をしながら、再び斧を振りかざした。今度こそ!と意気込みながら振り下ろした斧は、果たしてきれいに二つに割れた。


「わぁ! ユノ、上手に割れたね」


 自分のことのように喜んで歓声を上げるリアに、ユノはちょっと照れ臭くなる。何となくコツが掴めてきたような気がした。今の感覚を忘れないうちに、次の木を用意する。

 真剣なユノを邪魔しないように、リアは手早く薪を集めると、小屋の中へ入っていった。


 昼過ぎになると、再び空が暗くなってきた。雲は重く垂れ込めている。冷え込んで来たため、午後は暖炉の前で読書だ。


「今度は本格的に降りそうですね」


 外を眺めていたミラが、雲の様子を確認してそう言った。ユノは本に目を落としながらも、何度も窓の外を確認する。その様子を見ていたリアは苦笑した。


「雪が降り始めても、そんなに早く積もらないよ。暗くなったら危ないし、雪遊びは明日かな」

「そっか……」


 ユノは残念そうに呟くと、今度こそ本を読み出した。暫くは本を捲る音や、薪の爆ぜる音だけが部屋の中に響いていた。やがて、外がやけに静かなことに気が付く。

 窓の外を見ると、昨日とは違い大粒の雪がしんしんと降っていた。沈み始めた陽の光が、雪をオレンジ色に染める。いつの間にか、土はほとんど見えなくなっていた。


「いつもより積もるのが早そうだね」

「そうですね。二人の雪遊びへの熱意が届いたのかもしれません」

「あはは、何それ」


 ミラの言葉に、リアは苦笑した。しかし、その声はどこか弾んでいる。もし本当にそうなら、このまま明日まで雪が残っているように願った。

 その夜、ユノは何度か目を覚ました。風の音は聞こえない。部屋には、静かに燃える薪の音だけが響く。外の様子が気になりながらも、ユノは努めて目を閉じた。


 待ちわびた朝、扉を開けると、そこは一面真っ白な世界だった。地面も木々も真っ白に染まって、まるで初めて見る場所のようだ。足を踏み出すと、雪がきゅっと鳴る。面白くて数歩踏み締めた。


「やっと積もったね」

「うん……雪が輝いてるみたいで、すごくきれいだ」


 見渡す限り白く染め上げている雪は、陽の光を反射して辺りを照らす。ユノは眩しそうに目を細めながらも、その光景から目を逸らすことはなかった。

 リアはユノの隣りに来ると、しゃがみこんで雪を掬う。それをぎゅっぎゅっと丸めて見せた。ユノも真似してみたが、どうにも歪な形にしかならない。


「これ、どうするの?」

「これはね――」

「こうするんですよ」


 そんな声と共に、雪玉が飛んできて二人に当たる。


「うわっ」

「ひゃあっ」


 柔らかい雪が頭に当たり、雪の冷たさが直接伝わる。リアは首元にも雪が入ったようで、慌ててはらっていた。


「ミラ! 突然投げないでよ!」

「油断しているからですよ」


 おかしそうに笑うミラに、リアはいくつか作っていた雪玉を投げる。しかし、ミラはそれを空中で軽々と避けた。


「避けないで!」

「無茶言わないでください」


 リアは雪玉を作っては投げるが、ミラには当たらない。唐突に始まった雪合戦に、驚きながらもユノは雪玉をもっと作ることにした。投げるのであれば、もっと作っておいた方が良いに違いない。黙々と作っていたユノの肩に、またしても雪玉が当たった。


「あ、ごめん」


 どうやら、リアが投げた雪玉をミラが避けて自分に当たったらしい。ユノはそれなら、と立ち上がる。


「えいっ」


 思い切り投げた雪玉はリアとは全然違う方向に飛んでいく。首を傾げながらも、さらに投げる。


「もう、ユノ! こっちだよ!」


 リアが笑いながら手を振る。そんなリアに、別の方向から飛んできた雪玉が、今度は背中に当たった。


「ミラ、今のは反則でしょ」

「余所見しているのが悪いんです」


 しれっと言うミラに抗議をしようとした時、腕に雪玉が当たった。


「あ」


 見れば、ユノが投げた雪玉がついに当たったらしい。自分でも当たると思っていなかったのか、ユノは驚いた顔をして自分の手を見る。

 リアは思わず吹き出した。いつの間にか自分もリアも雪まみれだ。ユノも釣られて口元が緩むのを感じる。


 楽しい。


 自然にそう思えた。リアとミラを追いかける。雪玉を当てても怒られない。転びそうになって、リアに支えられた。その隙に、またもやミラから雪玉が飛んでくる。


「……ちょっと、あれはずるいんじゃないかな」

「でしょ? ミラって実は大人気ないの」


 ミラは自分の手で雪玉を作っていなかった。手をかざすと、雪が浮かび上がり、勝手に玉の形になるのだ。そして、指を降るとこちらに飛んでくる。リアとユノは顔を見合わせると、一斉にミラに向かって雪玉を投げた。


「……二対一も大人気ないと思いますが」

「大人じゃないからいいんだもーん」


 二人でもやっぱり雪玉は当たらない。作って、投げて、避けて。雪に残る足跡が増えていく。

 雪は冷たいけど、どこか温かくて。こんな風に声を出して笑ったのはいつぶりだろうか。その日は、皆で疲れ果てるまで遊んだ。

私の住んでる地域はほとんど雪が降らないので、雪遊びちょっとうらやましいです。

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