表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名を交わす精霊の森  作者: 葉月
第三章 奪われたものの行方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/28

第十六話 番号の生活

 連れて行かれた先は、外から鍵のかかる小さな部屋だった。天井は高く、上の方に明り取りが一つある。部屋の中にはベッドと簡易机が一つ。寝食はここでするらしい。


「ここが103の部屋です。明日からやってもらう作業があるので、休息を取るように」


 灰衣の神官はそれだけ言うと、扉に鍵を掛けて去って行った。ユノはそのままベッドに倒れ込む。頭の中ではまだ、精霊の音が響いている。


「あたま……いたい……」


 ユノは自分を守るように丸くなりながら、眠りに落ちた。


 翌日から、新たな生活が始まった。朝は決まった時間に起こされ、朝食が出される。食べ終わったら部屋から出され、作業部屋に連れて行かれた。

 作業部屋では、聖具と呼ばれるものの調整を行わされる。机の上に置かれた聖具は様々な形のものがあったが、共通していた点は淡く光る結晶がはめられていたことだ。それは初めて教会に来た時に見せられた杯と同じく、精霊の叫び声が聞こえた。


「触りなさい」


 灰衣の神官の短い指示。検査の時と同じく、理由も説明もない。ただ言われたことをこなすだけ。


 見ているだけでも頭が割れそうだったが、触れた瞬間、精霊の力と一緒に感情のようなものが流れてくる。苦しみ、悲しみ、怒り。色々な感情がごちゃまぜになって、吐き気がした。自分のものではないはずなのに、胸の奥が軋む。


「共鳴完了。出力、安定しました」


 耐えきれずに膝をつく。すると、すぐに叱責が飛んだ。


「103、立ちなさい」


 ユノは机に手を付いて、何とか立ち上がる。相変わらず吐き気はあったが、聖具が目の前から片付けられると、頭痛は幾分か楽になった。


「隣の部屋で昼食を摂るように」


 まだ胃の中がぐるぐるしているというのに、こんな状態で食べ物を入れたら全て戻してしまいそうだ。それでも、ここでは指示に従う以外の選択肢はなかった。

 部屋には数人の子どもたちがいた。どの子も上の部屋で見たことのある顔だ。その胸には自分と同じく、番号の書かれた札を付けている。

 やはり、救済なんてものはなかった。初めから期待などしていない。


 子どもたちは、皆一様に目が虚ろだった。ただ言われたから、機械的にご飯を口に運ぶ。会話はない。食べ終わると時間が来るまでぼーっと過ごす。そして、午後の作業に戻って行った。


 夕方になると身を清める。神の前では、いつでも身綺麗にしていなければいけないらしい。その後は夕食を摂って就寝だ。その頃にはもう体も重く、ベッドに横になるとすぐに瞼を閉じた。

 瞼の裏で、結晶に閉じ込められた淡い光が揺らめいている。耳の奥にこびり付いた声。そして、音。夜中に何度も起きて、それでもまた朝が来ればいつもの一日が始まる。


 そんな日を繰り返し、番号で呼ばれるのも慣れた。番号で呼ばれる度、自分の中の何かが削られる気がしたが、些細なことだ。呼ばれたら返事をし、言われたことをこなせば叱責もない。母は何に対し怒り出すか分からなかったが、ここではとても簡単なことだ。

 調整作業も、もう吐き気を感じない。それでも耐えきれない子もいるのだろう。昼食を摂る部屋の子どもたちの中には見かけなくなった子もいた。103になった日、神官に運ばれていた小さな担架を思い出す。


「……壊れなければ、いい」


 そうすれば、捨てられない。それが、ここで生きていくために必要なことなんだ。そう思うしか、なかった。


 ふと、視界の端で淡い光が動いた気がしたが、こんなところに精霊がいるはずないと、ユノはそのまま目を閉じた。明日もまた、同じ一日が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ