幕間――迎えの準備
一人の女が訪ねてきたのは、生活具の不調や力を失った聖具が増え始めた頃だった。女はどこか疲れた顔をしており、更には切迫したような眼をしていたという。
「子どもが精霊と話をしていた」と聞いた神官は、聞き取りを行い必要な書類を用意した。それらの書類を手渡された黒衣の神官は一番上の書類に目を通す。それは、その子どもの出生記録だった。
「出生記録に奇妙な点があり、お持ちいたしました」
手渡された古びた紙の束は、何度もめくられ擦り切れており、いくつもの追記が書かれていた。
「……父親の名は?」
「明かしませんでした。ただ、高貴な血、とだけ」
黒衣の神官は母親の項目を指でなぞる。
――元・王宮勤務。
「母親は王宮メイドだったとか。退職理由も明かしませんでしたが、退職と出産のタイミングを考えると……」
顔を上げないまま紙面をなぞっていた指が止まる。そこには髪と目の色が書いてあった。とある特徴と一致している。
「正式な認知はありませんが、可能性は高いと思われます」
「精霊が見えるというのが本当であれば、血は疑いようがないだろうな」
部屋に沈黙が落ちる。外から聞こえる祈りの声が、やけに大きく聞こえた。黒衣の神官はしばし考えたあと、脇に置いてあった袋を手に取る。中には幾ばくかの金貨が入っていた。
「これを前金として渡しなさい。そして、明朝子どもを連れてくるように、と。確認の準備はこちらで整えておく」
「かしこまりました」
袋を受け取った神官は一礼すると、部屋を出て行った。黒衣の神官は、書類を一瞥し、低く呟く。
「アエルの血……。これも神の導きか」
それは祝福か、あるいは――。
だが、迷いはない。
その顔にはどこか満足気な笑みが浮かんでいた。




