第二章終話 名を告げる夜
三人は森の中を歩く。風の音がやけに大きく聞こえた。誰も口を開かない。でもそれは、気まずい沈黙ではなかった。
小屋に着くと、まずは暖炉に火を入れた。話が長くなるだろうと、湯を沸かす。
「君は何飲む?お茶で大丈夫?」
少年は戸口に立ったまま動かない。そこでは寒いだろうと、暖炉の前へと手招きする。
「どうかした?君もこっちに――」
「君、じゃない」
少年はリアの目を真っ直ぐ見つめる。
「僕の名前は、ユノ――ユノアス・ヴェイル」
震える声で、それでもはっきりとした声で名前を告げる。リアは口の中で噛み締めるように、ゆっくりと復唱した。そして、リアは少年を見つめ返して名前を呼ぶ。
「ユノ」
久しぶりに呼ばれた名前は、とても優しい響きに聞こえた。自分の名前が、ストンと心に落ちる。
少年は――ユノは、初めて自分がユノアス・ヴェイルになれた気がした。
リアが二人分のお茶を食卓に置く。リアは何も言わない。ただ、少年が口を開くのを待っている。
ユノは目を閉じる。最初に思い出したのは、教会の白い壁。それから、もっと昔。
確かに名前はあった。けれど、それを大切にされた記憶はない。
どこから話せば良いのか、何を話せば良いのか。話はまとまらない。それでも、心は決まった。
ユノは、目を開けた。
次章からユノの過去話に入ります。




