133話 秒で売られるデキムスさん
「そんな! 約束が違うじゃないですかお嬢様!」
そして、ようやく自分の立場がどういう状態なのか理解したルシアはお嬢様に縋りついた。
「わかってるわよ! 貴女に一歩引かせた借りがあるから私としても貴女とルシウスの関係を維持するために頭抱えてるんでしょうが!!」
「なんとかしてくださいお嬢様! 私ののんびり生活は!?」
「……ルシア、アンタさっきからのんびり生活だのなんだのって……その言い方だと重要なのはそののんびり生活とやらだけに聞こえるんだけど?」
「ルシウス君と離れ離れになるのは嫌ですけど約束されたのんびり生活が反故になるのはもっと嫌です!」
ジト目でルシアを睨むルクレティアお嬢様に対し、ルシアも負けずと我を通す。
「念のために聞くけど、ルシウスとそののんびり生活とやらだったらどっちが大事?」
「……………………ルシウス君」
だいぶ迷ったなルシア。
ルシア君? 君、もしかしてスローライフ出来る可能性が出てきたらそっちに転ぶとか、ない?
……そういえばコルブロ君ルートならルシアが上手く立ち回ればスローライフルートもできるんじゃない?
ルシアはローマ史詳しいっぽいし、そういう有閑マダム的な皇后のムーブも知ってそうだし。
そう思った俺はせっかくなので持ち帰っためんどくさい案件をここにぶち込んでみることにする。
「あ、ちなみにルシア。ついさっきコルブロ殿下からルシアが欲しいって相談を受けたんだけど。コルブロ君ならそういうルシアの理想を叶えられるのでは?」
「あー……あの子やっぱりそっちいったの……?」
そして、ネルウァ様の授業を一緒に受けている関係でコルブロ君に近い立場のルクレティアお嬢様はコルブロ君の動きを察知していたらしい。
「あのねぇルシウス? いくらルシアが現金な性格してるっていっても、恋人からそんな条件提示されてうなずくわけないでしょ……?」
そして、驚く様子もなく俺に苦言を呈してくる。
まあ、ルシアが前世を思い出してもまだ変わらず現金な性格とはいえ、流石にちょっと言っちゃいけない提案だったか。
「ルシアごめ――」
「………………おねショタ……いいかも」
おい。
「……ルシウス。おねショタって何?」
「年上の女性がまだ成長しきってない少年に欲情する性癖のことです」
俺の説明に、ルクレティアお嬢様のルシアへの視線が絶対零度になった。
「コルブロ殿下との婚姻案でいくわね。喜劇作家に『私とルシウス』の名声に傷が付かないような建付け作ってもらうわねルシア」
そしてスッと席を立って出ていこうとするルクレティアお嬢様。
「え? あのお嬢様?」
「そこそこ仲良くなれたと思ってたのに残念よ」
その目は全ギレしている目だった。
「冗談です冗談!! 皇族と婚姻なんか政治闘争ど真ん中のストレスフルじゃないですか! 私普通の女の子! 一般通過モブなんですぅぅぅ!!」
お嬢様の逆鱗に触れたことに気づいたルシアは、再びお嬢様に縋りつく。
というかローマの救世主が自認モブは流石にきついぞルシア。
でもお嬢様に縋りつく姿は救世主っぽくないからセリフには合ってるなルシア。
「後半何を言ってるのかよくわからないけど、好きな男を取り合った誼で政治的なあれこれはなるべく降りかからないように私も影から支援してあげるわ。はい解決」
「すいません嘘ですルシウス君のことが好きなんです一緒に居たいです見捨てないでぇぇぇぇ」
これがローマの救世主の姿か……。
「……最悪なタイミングで最悪な冗談言うの止めなさいよ本当に」
「ごめんなしゃい……」
「次はないわよ? コルブロ殿下の件は時間かけて私の方で何とかするから一旦忘れなさい」
まったく、と一旦怒りを収め、ルクレティアお嬢様は再び椅子に座りなおし、俺の方を向く。
「……策ならあるわ」
えっ!? 今からでも入れる保険があるんですか!?
「要は騎士階級や元老院階級入りを避けて、それでいて元老院階級を怒らせることなく対外的にデキムスがこの功績相応の扱いを受けて、最終的に収まるところに収まればいいのよ」
「いやいやいや……そんなのがあるんですか?」
「前提厳しいけど、ある」
そういうと、お嬢様はこの状況を打破するための案のために必要な前提条件に付いて確認を始めた。
「ルシウス……ちょっと無茶を言うわよ」
「はい」
「ダキア遠征。来年中に終わらせること、できる?」
お嬢様の前提は初手で結構な無茶ぶりを前提としていた。
ダキア遠征を来年中ときたか。
たしか、ドミさんに以前聞いた話では、この規模の大規模な遠征は通常数年がかりで行うもので、今回もそれを想定して計画を組んでいるとのことだった。
遠征そのものは火力が違いすぎるので難なく勝てるとは思うが、1年以内となると技術面でもっと首を突っ込む必要がある。
が、短期で終結させるための案はなくはない。
それにお嬢様とルシアを両取りするには無茶を通さなければいけないのなら、俺の返答はひとつしかない。
「……お嬢様がやれと言うならば」
「さすが私のルシウスね。じゃあ問題の一個は解決。あともう一つ」
俺の返答に満足したお嬢様はそのまま視線をルシアへと移す。
「ルシア」
「はい出来ます!!」
「……話聞いてから返答しなさいよ貴女」
「ルシウス君と一緒に居られるかがかかってるんですよ? なんだってしますよ」
「デキムスに惨いことしていい?」
「煮るなり焼くなり磔にするなり好きにしてください!」
一切の躊躇なくデキムスさんを売るルシア。
「デキムスに惨い事をする私が言うのもなんだけど、貴女、人の心とか無いの?」
流石に少しは抵抗するかと思っていたのか、言っておいた側なのに非難の視線をお嬢様はルシアに向けてくる。
「大丈夫! だってお父ちゃん強いから!」
これが高潔な精神でローマを救った救世主の姿か?
「……まあいいわ。じゃあちょっとデキムスには百年ぶりの民衆派を極めてもらおうかしらね」
なんだろう、なんかよくわからないけどデキムスさんに過去一酷い位打ちが待ってそうな気がする。
えっ!? 今からでも入れる保険が(デキムスさんを犠牲にすれば)あるんですか!?




