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奴隷スタートの古代ローマ転生で成り上がりRTA(実質強制)  作者: 九束
3章 黄金の指輪獲得RTA 外付けアクセルを添えて

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132話 まずいことになったわよ

フラフィウス病(特殊性壁もち。コルブロ君は人妻スキーの亜種?)を発病したコルブロ君の渾身のおねだりに対し、玉虫色の回答でなんとかその場を切り抜けた俺は、ようやく久方ぶりの自宅――デキムス邸に戻ってきた。


そのまま中庭(ペリステュルム)まで進むと、柱廊の脇にあるテーブルでいつものハーブティを嗜みながら難しい顔で片手で頭を抑えるルクレティアお嬢様の姿。


その様子に少し疑問に思いながらも視線を浴室がある方向に移すと、ちょうどルシアが風呂から上がってきたようで、ガラスコップに入った氷入りの何かの果汁を飲みながらこちらに歩いてきているところだった。


「ルシア、貴女ね……行儀が悪いわよ。ちゃんと椅子に座ってから飲みなさいよ」


「過労死寸前の疫病との闘い明けなんですよぉー? ちょっと位いいじゃないですか」


「まあローマを救ったと言っても過言でもないからね、ここ数か月の貴女の活躍は。まさか貴女がルシウスみたいによくわからない叡智を授かるなんてね」


「でしょぉ? なので私は今だらけることでバランスを取ってるんですよぉ。あ、ルシウス君おかえり~」


「……まあいいわ。ちょうどルシウスも帰ってきたようだし二人ともそこに座りなさい」


そう言って俺の方をもちらりと見ながら自らがいるテーブルの対面にある椅子を指差すルクレティアお嬢様。


「はぁ……」


そしてお嬢様から吐き出される特大のため息。


「何かあったんですか?」


「だいぶまずい流れになってるわ……」


「「?」」


「……下手したらルシア、貴女(あなた)ルシウスの妾になるの無理になるかも」


「「えぇ!?」」


ルシアと一緒にテーブルを挟んだお嬢様から見て真向かいの椅子に座るなり、お嬢様は本題となる爆弾情報を投げつけてくる。


「い、一体どう言うことですかお嬢様! お嬢様は私にお気楽妾ライフを約束してくれたじゃないですか!」


ルシア、まだそれ諦めてないの?


今回の疫病対策で名声が極まっちゃったから妾ライフはともかく、お気楽ニートライフに戻るのは難しいのでは?


もしかしてニートライフ諦めるって言ったの期間限定だったりする?


「確かに私は貴女にそう言う約束をしたわ」


「なら!」


珍しくお嬢様に約束の履行を求めるような口調で問い詰めようとするルシア。


「でもねルシア。その前提を崩したのは貴女なのよ?」


それに対し、ルクレティアお嬢様は頭を抱えつつルシアをジト目で睨む。


「えっ!? 私!?」


「一言でいうと名声を得過ぎたのよ」


「どういうことですかお嬢様?」


俺がお嬢様に聞くと、ルクレティアお嬢様は詳しい話を俺たちに説明し出す。


「春の黄金宮殿大学の学長という新しい顕職(けんしょく)にデキムスが就いたでしょ? それだけならギリギリなんとかなったのだけど、そのデキムスの学長就任直後にルシア、貴女の活躍よ。今や貴女の家――サギッタ家はローマの注目の的なのよ」


「名声を得るのは『愛と忠義と寛容』の物語的に好都合だったんじゃないの?」


ルシアの言う通り、そもそもルクレティアお嬢様の婿になるためにはルシアそのものの高潔な名声と言うのも必要だったはずだ。


「それにお嬢様は元老院階級の人たちへの対策も打ってるって……」


ルシアに続いて俺もルクレティアお嬢様に確認する。


そして主に名声が高まる俺に対してアプローチが予想される元老院階級への牽制も計画には盛り込んでいたはず。


元々ドミさんを皇帝に押し上げるための策謀の途中では俺が発生源の様々な新技術を使うので、俺が元老院議員階級に取り込まれる懸念はあり、それに対しての対策はもちろん行なっていたはずだ。


具体的には俺の既存の評判である「筋を通す頑固な奴隷」という評判で俺への元老院階級からの特権や栄誉の付与はあらかじめ防いでいた。


今更それで何か懸念が出るとは思えないのだけど……。


「ルシウス、貴方の対策はしてたわよ? でもルシアとデキムスの方は想定外なの。特にルシアの名声はただの『人柄』由来の名声しか想定してないわよ」


「今は何か違うの? 私が高潔って評判は変わらないんじゃ? それにお父ちゃんだってやってることは変わらないと思うけど」


「全然違うわよ! デキムスは皇帝直轄の黄金宮殿大学の学長、ルシアはローマの救世主!! 滅茶苦茶『実』をともなってるでしょ!?」


確かに改めて言葉にされるとそういう気もする。


「あんたら親子の名声が上がり過ぎた結果、元老院議員の一派がサギッタ家の方を取り込もうと動きだしてるのよ……」


お嬢様の言葉に、俺はそうきたかーとお嬢様の懸念の内容を理解する。


確かに俺への元老院階級からのアプローチには防止策を張っていた。


だが、デキムスさん、サギッタ家への対応はそれほどでもなかったのだ。


「そりゃ多少の名声を貴女やデキムスが得るのは想定してたわよ? でも多少なら問題はなかったの。デキムス、つまりサギッタ家は今は実質的な力関係が逆転しているとは言えルクレティウス家の被保護者(クリエンテス)。そしてルクレティウス家の相続人たる私の庇護者はドミティアヌス殿下よ。サギッタ家の名声が極端に上がらない限り、特に対策は要らなかったのよ」


「それは今は変わったんですか? お嬢様と殿下の関係に変化はないじゃないじゃないですか。なんで私の家、サギッタ家? の立場がそんな想定外になるんですか?」


「私は多少って言ったでしょ!? 限度ってもんがあるのよ限度ってもんが!!」


「そんなにです?」


「貴女、ローマ市民の大半にとって貴女は恩人って事実、甘く見てるんじゃないの? 貴女という存在――サギッタ家はローマを救ったのよ? そんな存在が私的には一応皇太子である殿下に近い立場なものの、政治的には立場を明らかにしていない。元老院議員連中が何も動かないわけないじゃない!!」


確かに現状ドミさんと元老院における多数派は良好な関係を維持している。


だがそれは元老院議員がドミさんに近い有力人物の取り込みを行わないという話にはならないようだ。


「ピソ様から得た情報だと、ルディ・ロマーニと同時に行われるユピテルの饗宴(エプルム・ヨウィス)で、ウェスパシアヌス陛下に対して『デキムス殿へ黄金の指輪を!』って提案をしようと、ストア派が動いているみたい」


「え? 黄金の指輪ってあれですよね?……実質的に騎士階級になるのと同意の……私の家、騎士階級になっちゃうんですか?」


「それだけならまだしも、それに便乗して『いや、この未曾有の疫病を華麗に収めたサギッタ殿にはそれに加えて執政官の公衆衛生行政を補佐する財務官(クァエストル)に就いて頂くのはどうか』って声すらあるわ」


「デキムスさんが公衆衛生行政を管轄するのは結構いい流れでは?」


「ルシウス、貴方は知らないでしょうけど、財務官(クァエストル)に選出されるってことはね、元老院議員になるってことなの」


騎士階級すら一瞬で通過して元老院かぁー……。


「厄介なのは、これらの派閥は珍しいことにほぼ善意で策謀しているっぽいのよ」


「すんげぇ迷惑ですね」


「今、どういう状態か、ようやく分かったかしら?」


情報を伝え終わったお嬢様は、まずい状況でしょうと言いたげな視線を俺とルシアに向けてくる。


「……えーっと?」


「それ、何が問題なんですか? デキムスさんが元老院階級まで出世する事とルシアが俺がルクレティウス家を継いでからルシアを妾にするのは別問題では?」


しかしそんな現状を頭を抱えながら話すお嬢様に対し、ルシアと俺はイマイチどういう部分がルシアの妾危機に繋がるのか理解ができないでいた。


「あのね。上流階級の常識がなくたってわかるでしょ?」


「すいません。俺もルシアも政治とかそういう方向詳しくないので」


「さっぱりわかんないよルクレティアお嬢様」


「……デキムスが黄金の指輪を授かって騎士階級になるってことはね、サギッタ家がルクレティウス家と同格になるってことなの。元老院議員にまでなられたら、格上よ? 格上の家の一人娘を妾にするとか上流階級において許容されるわけないでしょ!?」


「あ」「あー……」


「そうでなくともアウグストゥス婚姻法における妾というのは元老院階級の娘や騎士階級の娘が他家の妾になるなんてことは想定されてないの」


「で、でもそういう婚姻法には抜け道があるって……」


古代ローマの婚姻法に多少の知識があったのか、お嬢様に『何とかなりますよね?』と言った視線を向けながらルシアは確認する。


「ルシア、貴女のパターンはね、社会常識的にもあり得ないから当然抜け道も開発されてない。つまりルシア、常識でも法律上も、デキムスが騎士階級か元老院階級になった瞬間、貴女はルシウスの妾にはなれないの!」


しかし上流階級として詳しい内容まで知っているルクレティアお嬢様の返答はその希望をバッサリと切り捨てるものだった。

■アウグストゥスの婚姻法

アウグストゥスの婚姻法は女性への出産義務人数の規定や独身者へのペナルティなどがあるが、当時でも当然ながら相当な反発があって実質的には死文化している項目が多く、有効なのは主に財産の相続に関する項目となっている。

(なお、そんな実質的に死文化しており抜け道だらけの婚姻法を厳格に適用して上流階級に大ブーイングを食らった皇帝もいる。そう、ドミさんです。)

また、アウグストゥス婚姻法以前にも、姦通に関する罪などもローマ法は存在しており、ルシアが妾になれないのはどちらかというとこの姦通罪の方。


婚姻法においては女性について貞淑であることを強く求めており、具体的には結婚までは処女であることを求めていた。

その数少ない例外が売春婦と妾であり、特に妾は一般市民が騎士階級や元老院階級との実質的な夫婦関係を望む場合は妾となるのであれば姦通とはみなされなく、むしろ法的な保護もあった。


だがこれは当然ながら『一般市民』が『騎士階級や元老院階級』と妾関係になる場合であって『騎士階級や元老院階級』の娘は妾になる権利はなかった。


■財務官と元老院議員資格

古代ローマの行政における執政官の補佐官僚で上流階級のキャリアにおける出発点とされる。

元々は名前の通り財政担当だったが時代が進むにされて執政官の補佐業務全般を担当する官僚の役職に担当職務が広げられた。

スッラの改革(紀元前81年)により財務官の職に就いたものは自動的に元老院資格も得るとされた。

ここからわかる通り、古代ローマの中央政府における高級官僚職=元老院階級であり、元老院階級とはつまり高級官僚の供給プールでもあった。

なお当然ながら600人程度と言われる元老院議員で帝国全土の行政を回すことは到底不可能なので、実質はこの財務官を始めとする中央官僚の補佐として各種騎士階級が行政を回していた。

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