131話 コルブロ君のおねだり[2/2]
「……ありがとうございます。ルシウス殿」
「ルシアがいると言いづらい事ってことは、デキムスさん関係?」
未だ汚れを知らぬコルブロ君からすると、デキムスさんへの無茶ぶりの連絡をデキムスさんの娘であるルシアの目の前でするのは抵抗があるだろう。
現状ドミさんの息子にしては妙にまっすぐに育っているだけあって、現状フラウィウス家の良心と言っても過言ではないしねコルブロ君。
なお、実際のところルシアは別にデキムスさんに無茶ぶりが来ても特に思うところはない(むしろすでに無茶振りをする側)のだが、コルブロ君がそれを知っているわけもない。
「いえ今回はそういう話じゃなくて……えっと、なんて言ったらいいか」
しかしそんな俺の予想に反し、コルブロ君の反応はルシアに出て行ってもらう前と同じような歯切れの悪い反応。
ん? デキムスさんへの無茶ぶりでもないのか?
だとしたらなんだろう?
「とりあえず……座ったら?」
「……はい」
疑問に思いつつもコルブロ君を先ほどルシアが座っていた長椅子に座るように促すと、大人しく座ってくる。
そして椅子に座った後に少し少し逡巡したかと思うと、意を決したようにコルブロ君は俺に予想外の用件を切り出してきた。
「ルシアさんを僕に下さい!!!」
「????」
コルブロ君????
◇
「……?」
なんか娘さんを僕に下さい見たいなノリでルシアを要求された意味を理解できず、俺は一瞬固まる。
「僕は……あのお腹が焼け落ちるような病気でしにそうになったあのとき、ルシアさんに救われ……女性の身でありながら疫病に果敢に挑むその姿を見て、好きになったんです」
そんな状況が理解できない俺を置いてけぼりに、なぜルシアが欲しいのかを熱弁するコルブロ君。
良心枠とはいえコルブロ君もフラフィウス一族。
本当フラウィウス一族ってそういうところあるよね。
「気高く、貴賤の分け隔てなく人を救う姿はまさに僕の理想の女性」
どこの誰の話をしてるんだろ?
あ、ルシアか。……ルシアか?
まあ対外的にはそう見えるように振る舞ってたし、そうかルシアか。
コルブロ君の口ぶりからするに、勘違いモノなどでよくある従者として欲しいとか側近として欲しいとかそういうすれ違い的な物ではなく、異性としてルシアに惚れてルシアを欲しているようだった。
要は献身的に治療されたことで脳がこんがり焼かれてしまって恋焦がれるようになってしまったと、そういうことらしかった。
「ルシウス殿とルシアさんがどのような関係かはわかってます。それでも、僕はルシアさんが欲しいんです!」
「その場合まず話を持っていくのはルシアの父であるデキムスさんでは?」
何でルシアの恋人である俺の所に話を持ってくるの?
「? はい、もちろんデキムス殿にも話は通します。しかしまず愛人であるルシウス殿に話を通すべきでしょう?」
「想い人の恋人に正面切って『恋人を譲ってください!』って言うのってどうなのかな?」
「妻を友人に譲った小カトの故事もあります。ならば妻ではない愛人であればなんの問題もありません」
「問題しかないよ?」
「それに、父ドミティアヌスは母を略奪愛で手にいれましたが、僕はそう言うことはしたくありません。僕も正面切ってルシウス殿に願うのが筋」
「ねえ俺の話聞いてる?」
ドミさんの時もちょっと思ったけど、古代ローマ人(特に上流階級)の倫理観どうなってんの????
恐らくその故事はお嬢様を政治お化けにしたネルウァ様から得た知識なのだろうが、自信満々に過去のノー倫理な故事を引用して大義名分にするコルブロ君を見ながら、俺はそんな疑問を内心で投げかける。
しかし、どうするかこれ……。
俺だけの感情で言えば断りたい。
何が悲しくてみすみす恋人を他人に譲らなくちゃいけないのか。
が、一方でこうも思うのだ。
……実際のところルシアはどうだろうか? と。
一応覚醒後の数か月のやり取りで覚醒前と同じく俺に好意を持ち続けてはいてくれるようだが、現代日本の記憶も持ったルシアにとって妾という立場は政治的な妥協の産物な気もする。
今は良い関係とはいえ、そもそもの始まりだって打算的な物だったし。
もしかしたらコルブロ君とくっつく方がルシアにとってもよいかもしれない。
そう考えると俺の一存で断るわけにもいかないが……。
「……」
コルブロ君をちらりと見る。
確かコルブロ君はまだ7歳くらいだったはず。それなのにその目は本気だ。
フラウィウス一族の業(推定)である変な性癖も今の所特殊な正面突破型NTLスキーくらいしか目覚めてない気もするし、なんとなくルシアなら矯正できない気がしないでもない。
本人は明言してないが、多分ルシアは前世医者だしそういう性癖も矯正できるでしょ。しらんけど。
というかこれ、そもそも政治的にどうなんだ?
コルブロ君は皇族。
このまま順当にいけばウェスパシアヌス帝の直系として、ドミさんの次にほぼ確実に帝位が回ってくる立場にある。
ルシアが上手くコルブロ君の性癖を矯正できればフラウィウス朝の安定化にもつながるかもしれない。
ちなみにルシアの話を聞いた限りではドミさんは既に重度の人妻スキーを発症しており、史実では人妻になったばかりの姪っ子のユリアって人と不倫してるらしいので、もう手遅れらしい。
たぶんそれはこの世界線でもやってると思う。
疫病が起こる前の雑談でなんかルクレティアお嬢様がそんなことを言っていた気がするし。
共通するのは人の女に惚れたという実績。そして奪える立場。
二代続けてそれだとなんとなく略奪愛で政権不安定化フラグが立つ気がする。
それを考えると良いとも悪いともすぐに返答するのは……うーん。
というかそもそも俺からルシアを奪う時点でコルブロ君の評判地に落ちない?
譲られるならOKなら小カトとかいう人の故事を引用できるのか?
どうなんだ?
「それで、どうでしょうか!」
「ちょっと一旦保留にしていい?」
うん、だめだわからん!
ルクレティアお嬢様に相談しよう。
色々と考えてどう答えるかの判断がつかなくなった俺は、取り合えず餅は餅屋ということでお嬢様にぶん投げることにした。
■フラウィウス一族の業おさらい
・ウェスパシアヌス:匂いフェチ(にんにく>>>>香水エピソードより)
・ティトゥス:年増スキー ※史実
・ドミティアヌス:人妻スキー ※史実
・コルブロ:NTLスキー ←NEW!!
■安心して!九束の作品は基本ギャグだよ!
唐突なNTRの気配にざわついてるルシア推しの方が居そうなので予告。
NTRエンドはありません。
ネタバレになるから予告するか迷ったけど無予告NTRは南極条約違反だからね。しかたないね。




