126話 コンゴトモヨロシク
「やー! 私はモブ! あなた主人公! モブを物語に巻き込まないで! 私は辺境で医療チートしながら適度にちやほやされて一生を過ごすの!」
「いままでの経緯的に自認モブはちょっと無理があるでしょ」
君さ、自分が一応100万セステルティウスの恋物語のヒロインだって忘れてません?
大体俺だってルクレティアお嬢様と結婚するために今走っている『黄金の指輪獲得RTA』クリア後は、なんかいい感じにスゥーっとローマの中枢からはフェードアウトして保養地でテキトーに知識チートをローマに流し込み続けながらスローライフを送る予定なのだ。
一方お前は今を時めくデキムスさんの娘。
今のポンコツ具合を見るにすぐに知識チートを持っているのがバレるのは必然。
そうするとフェードアウトは難しいだろう。
デキムスさんはもう歴史に名が残ること確定だろうし、そうすると娘のルシアも活躍すればそう。
つまりルシアはこれから歴史偉人ルートと言って良い。
一方で俺は黄金の指輪で奴隷から騎士階級になってルクレティアお嬢様を娶ったとて、結局一山いくらの騎士階級。
つまりルシアが主人公で俺はモブ! (予定)
というかそれ以前にルシアのスローライフ計画には根本的な欠陥がある。
「大体逃げられたとしてもこの時代、女の子ひとりで生きるのはかなりハードモードだよ? 言っちゃ悪いけど、ローマ脱出さえ成功しないルシアがこの先生き残れると思えないんだけど?」
例えば大金持ったまま公共浴場のほほんと入るとか。
直近の行動だけでもわきが甘すぎる。
浴場の奴隷に貴重品預けても責任者と結託して盗んだりするのがローマクオリティだよ?
どう考えても定住地を見つける前に路銀が尽きて破滅するルートしか見えない。
「うっ」
俺のツッコミにルシアは痛いところを突かれた、と言う顔をする。
それに対して俺はもう一つの重要な確認を被せることにする。
「と、いうかさ」
「?」
「ルシアが言う破滅フラグってさ。本当に立ってる?」
そう。これは絶対確認しなければいけない情報。
本当にルシアが想像したヤバい未来のフラグは立ってるのか?
歴史というのは変えられるというのを、俺は知っている。
ウェスパシアヌス帝の死期しかり、プッさんの死期然り。
すでに俺は歴史を変えているのだ。
その上で、ドミさんがルシアの言うように、史実の暴君になるとは……なんかちょいちょいそういう片鱗はあるけど可能性は低いんじゃないかと俺は思っていた。
というか、そういう片鱗があったら多分政治力お化けのルクレティアお嬢様が俺に対して何か相談してきてると思う。
「いや、だってルシウス君、ドミティアヌス帝の実質的な側近になってるし。あの人が元老院と敵対しだした時に真っ先に狙われるのルシウス君だよ?」
俺の疑問に対し、ウズラのもも肉ミント和えローストを食べながら、食べ終わった骨をフラグに例えるように見せ、例を挙げるルシア。
「現状ドミさん法人制度の制定で元老院と仲いいみたいよ」
その骨をルシアの手から取り上げぽきりと折る。
「息子の死で暴君に変貌するとか。ドミティアヌス帝、即位前に一人息子が死んでいるし」
「息子のコルブロ君は今朝には回復方向になってるね」
ぽきり。
もしかしたらコルブロ君はこのローマ疫病で夭折したのかもしれない。
だが現実には今、西暦80年時点で健康だ。
「あと他人に対して潔癖で不正や不義を見つけたらすぐ処刑する性格で……」
「お嬢様がポンペイで市民見捨てて逃げたポンペイの有力者をカタに嵌めるの、喜々として協力してたね」
それに北ポンペイでのプッさんやヘロンへの対応を見る限り、結構忍耐力も身に着けているように見える。
三つ目の骨をぽきりと折ると、ルシアは少し天井を見上げ俺を再度見る。
「……暗君フラグ全部折れてるくさい?」
「じゃないかなあ……」
「もしかして……ルシウス君のせいで歴史が変わって、ドミティアヌス帝、無毒化したって、コト!?」
そうかもだけどドミさんのデフォ内面を毒扱いするのやめーや。
「……豪奢なローマ富裕層生活……面倒事はお父ちゃんに押し付ければいいし……」
そして俺とのやりとりで実は今の環境はそう危険じゃなさそうと感じたのか、ルシアは算盤を弾きだした。
ナチュラルにデキムスさんを酷使しようとしてるあたり割と畜生だけど。
まあデキムスさんは便利だから仕方がない。
「作るべき薬剤の優先順位はルシアが助言してくれれば、ルシアが考えてるような薬害事故も防げるでしょ?」
「うーん……確かに」
しれっと積極的にお前を巻き込むぞと言う宣言に気づいた様子もなく、ルシアは焼きエスカルゴのガルム掛けをスプーンでつついて食べながら利害計算を続けるルシア。
「ルシウス君」
「はいな」
そして皿に盛られたエスカルゴが半分ほどなくなったくらいで、結論が出たらしくこちらにいい笑顔を向けてきた。
「マラリアの発熱の副作用で一時的に錯乱してたってことで。コンゴトモヨロシク」
どうやら逃亡は断念し、今まで通り俺の元にいることにしたようだ。
「今までみたいなのんべんだらりとしたスローライフはNGな?」
「流石に今まで見たいなニート生活はできるとは思ってないよルシウス君」
ある程度腹を括ったらしく、ルシアは知識を絞られたり能動的に動く覚悟もできたようだった。
よし! コキ使える同郷GET!
医療系は全部こいつに投げたろ!
「貸し一な」
「おk」
「じゃあ早速貸しを返してもらおうか。新しい知識POPする法則の検証しよう」
あの勝手に知識増える奴、そろそろ少しでも法則見つけないと気持ち悪いったらありゃしない。
「いいよー、私も法則もわからず勝手に知識生えてくるのキモイから法則だけでも知りたいし」
そしてそれはルシアも同じだったらしく、あっさりと調査に同意してくる。
「つまり私に好意を持つ人が増えればいいんでしょ?」
「多分そう。なんかある?」
「あるある! ちょーどいいのがあるよ」
「え、マジ? 『愛と忠義と高潔』でルシアはそこそこ好感度ありそうなものだけど、そこからさらに増やす方法あるの?」
「私が腹くくったら、ある」
ルシアの考えている案に予想がつかない俺に対し、ルシアはとても楽しそうな顔でこう言った。
「よーしじゃあとりあえず私、聖女的な奴とかになっちゃおうかなー」
そんなパパ大盛頼んじゃおうかなーみたいなノリで聖女目指すことある?




