未来をつなぐたったひとつの方法
銃砲店のなかには古き良き時代が忘れられないガンマニアのためのフロアがあった。そこは木をいかに美しく磨き上げるかに人生の大半を費やした老人たちの作業場で銃身が二つ並んだ猟銃に夢のようにつやつやした木造部品を組み込んで陳列棚に並べてあった。黒檀のガラス棚のなかに横たわる銃たちには女性的な曲線が宿っていたので、銃に女性の名前をつけてかわいがる手合いが陳列棚の前を通り過ぎると、彼らの顔は赤線地区に迷い込んだように真っ赤になった。職人気質な老人たちに混じって少年が一人、アンティークな騎兵銃につかうクルミ材を必死に磨いていた。扇が見る限り、少年の技術はもう立派に完成しているように見えた。だが、少年本人は自分の腕がまだ老人たちの水準にははるか遠く及ばなかったし、手つきも不器用なことを心が痛くなるほど分かっていた。彼は光と曲線に仕える神殿の神官見習いに過ぎなかったのだ。老人たちは少年を名前で呼ばず、ただ〈未来〉と呼んでいた。
「いらっしゃい」客は滅多に来ないが来た場合は〈未来〉が対応することになっていた。「なにかご用ですか?」
「銃を買いに来たんじゃない。知り合いの付き添いで来た。パルス・ガンの――」
「ああ、ライジンですか? ここ最近リリースされるなかではたぶん一番人気ですよ」
「余程気に入ったのか銃を握ったまま、そいつ幽体離脱したみたいになってな。それで時間つぶしのつもりで来たんだが」
「それなら美しい木目のはっきりしたきれいな銃を眺めるのは最高の時間つぶしになりますよ。このホーランド&ホーランドなんて見事でしょう? もし、よければ、触ってみてください」
だが、扇が先ほどから気になっていたのは単発式の大型狩猟拳銃でグリップの描く曲線や銃床の艶やかな光の跳ね返しは図鑑のなかの川のように美しかった。
「これを触ってみてもいいか?」
「それですか? でも、他の銃のほうがずっといいと思いますよ。この〈アラスカン〉は仕上げがいまいちだし、正直に言えば、ここにある銃のなかで一番駄作で未熟です」
「いや。これがいい」
すらっとした銃身を支える木の銃床は赤く仕上げられていて、グリップのクルミ材はひんやりとして手に馴染んだ。カンパニーにいたころも銃を使っていたが、このアラスカンのほうがずっといい。金属の留め金を押し込むとパチンと音がして銃身が折れて、空っぽの薬室が現れた。
「ここに装填するんです」
〈未来〉は真鍮でできたダミー・カートリッジを薬室に押し込んだ。カチンと音がなるまで銃身を持ち上げて、撃鉄を起こして、引き金を引いた。硬質な金属音がした。このアラスカンにはある種の武器にある魅力があった。ずっと持っていたいと思わせるものだ。ある種の妖刀にある危険な魅力だったが、扇はそれには抗さないことにした。
「これと弾を一箱もらおう」
「え!」
「なにか不都合でも?」
「でも、これは駄作で、本当だったら陳列してるだけでも申し訳なくて――」
「おれには完璧に思える」
「――もう、暴露してしまいますね。それ、ぼくが仕上げたんです」
「それで?」
「もう欲しくなくなったでしょう?」
扇は首をふった。
全部で一五〇〇クレジットだったが、〈未来〉は余程うれしかったのだろう、革製の古風なショルダーホルスターをおまけにつけた。全部まとめて紙袋に入れると扇はそれを小脇に抱えて、フロアを出ていった。
老人たちは満足だった。ひさびさに銃が売れたこともそうだが、なにより〈未来〉が自信を持った。それは自分たちの技術が未来へ伸びる、か細い絹の糸でつながれたことを意味していたのだ。




