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斬術士  作者: 実茂 譲
2.紫苑
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優しく、無力な

 その日の夜、ジュセッペは射撃場に夜食用のサンドイッチとコーヒーを入れた魔法瓶、それに三つのサブマシンガンを用意した。第一のサブマシンガンは比較的簡単に手に入る銃で〈ネオ・ウージー〉と呼ばれていた。ストリート・ギャングたちが自動車から九ミリ弾を乱射したくなるとき使われる銃で、発展途上国ではこれが制式装備だった。頑丈で手入れも簡単ではあったが、狙い撃つというよりはばら撒くタイプの銃で精密さに欠けた。第二のサブマシンガン〈ヴァルキリー〉は強化樹脂とプラスチックでできていた。世界じゅうの特殊部隊が使う銃で民間では販売されていない。四・五八ミリ・パルス弾を発射できて、フル・アーマー装備の相手と戦うときにあれば、非常に心強い銃だった。一方でサイレンサーと亜音速弾を併用すると隠密性に優れ、引き金を引くときのカチッという音と弾が銃身をこすれるシュッという音が合わさった、キシュッという音しかきこえなくなる。この音はつけっぱなしのテレビや大音量で音楽をかける隣の部屋、かわいらしいくしゃみや懐メロの鼻歌で容易に掻き消えるほど小さな音だった。第三のサブマシンガンは一番大きかった。なめらかな木材と削り出しの鋼材からできたアンティーク・サブマシンガンで〈トミーガン〉と呼ばれていた。重さはディスクみたいな弾倉と合わせて十キロ近くあり、とても携帯に向く大きさではないが、重さゆえに発射したとき銃身が跳ね上がることがなかった。誰も思い出せないほどの大昔にはこの銃がギャングたちのお気に入りであり、また、これをさらに簡素化されたM1A1モデルは世界をファシストの毒牙から救ったこともあった。

 三つの銃を撃ち、ヴァルキリーの使い方を教えてもらうことに決めた。隠密性と攻撃力の両方に優れることもあったが、人体力学を応用した銃のフレームが気に入ったのもあった。ヴァルキリーの設計者はバスケット選手並みの大男から子ども兵士(チャイルド・ソルジャー)まで、誰でも簡単に扱えるように銃を設計したのだ。子ども兵士(チャイルド・ソルジャー)が使う前提での設計はいろいろ倫理上の問題があったが、道義上の責任に怯えていては優れた銃はつくれない。ヴァルキリーは確かに使いやすかった。ボルトを引いたり、安全装置を解除したり、後方装着式(ブルパップ)のバナナ型弾倉を取り替えたりなどの動作は紫苑の小さな体でもスムーズに行えたし、発射時の反動は樹脂フレームと遅滞ローラーバックのなかに消え去って、銃身が暴れることもなかった。

「夢を見ることはある?」ヴァルキリーを分解清掃しながら、紫苑はたずねた。「殺した相手が出てくる夢とか」

「何度もある」ジュセッペはアルミ・フレームにビニールクッションをつけた安物の椅子に座り、ポケットVTRから目を離さずにこたえた。クッキング・チャンネルでは成形オキアミで本物そっくりのサーロイン・ステーキをつくるという非常に野心的な試みがなされていて、ジュセッペもその成否に興味があったのだ。「昨日はフィスケッティが出てきた。わたしに頭を撃たれて以来、偏頭痛に悩まなくて済んだと言っていた。男で偏頭痛になるやつはほとんどいないから、この痛みを共有するものがだれもいなかったんだそうだ。だいたいみんな脳みその風通しがよくなると世界の新しい一面が見えると言っていた。だが、所詮は夢だ。銃というものは慈愛とか倫理とか道徳といったものに反する。だが、法律とだけは馴染むことができる。誰かが間違ったことをしていて――たとえば、ロードローラーで赤ん坊をつぶそうとしていて、それを止めさせたいと思うなら、そいつの頭を撃つ以上に手っ取り早い制止法はない」

「わたしは殺した相手の夢を見ない」

「見ても得するわけではない」

 紫苑は薬室を固定しようとした手を止めて、首をふった。

「わたしの見る夢は――みんなが見る夢だった。そこは平和できれいで、夢でしかありえない町だった。そこでわたしはまったく違う自分になっている。天体観測会で気になる男の子と一緒に星を見たりして。でも、あんなの、わたしじゃない。わたしは、化け物だから……」

「夢のなかで気づいているのかね? これは夢だって」

 紫苑は首をふった。「気づいていない。夢のなかのわたしは、その平和な日々がずっと続くと信じている。それがひどく哀しい」

「うらやましいとは思わないわけだ」

「思わない。軟弱すぎる」

「軟弱でも生きていけるのなら、それは優しい世界だ」

「でも、優しいのは……怖い」

「胸に二発、頭に一発(モザンビーク・ドリル)だって、優しさの一種だよ」

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