第9話:最高級ヒノキログハウスの爆速クラフト~ゴミ木材が宮殿の床に~
帝都が汚泥の海に沈み、貴族たちが悪臭で失禁しながら逃げ惑っていた頃。
最果ての廃棄谷に身を置くロイドとルシアは、実に清々しく、クリエイティブな夜を迎えていた。
「ルシア、今夜は野宿を覚悟していたんだが……せっかく土地も綺麗になったことだし、ちゃんとした家を建てようか」
「大賛成であります、マスター。本機の論理演算ユニットによれば、雨露を完全に遮断する防壁、およびマスターが心身ともにリラックスできる清潔な生活空間の確保は、生活基盤構築における最優先ミッションです。……しかし、建築資材はどうなさいますか?」
「資材なら、ほら。そこら中に山ほど転がってるだろ」
ロイドは、周囲に乱雑に積み上げられていた巨大な廃木材の山を指差した。
数十年前の国境砦が解体された際に不法投棄された、防腐剤とコールタールまみれの松や杉の丸太の山だ。泥水に浸かって内部まで腐敗が進み、白アリが巣食ってボロボロに朽ち果てている。
だが、ロイドがその腐った木材の山に歩み寄り、素手をそっとかざすと――。
「――《原質解体・純化再構築》」
シュララララララ……!
夜の荒野に、光の粒子が粉雪のように舞い上がった。
木材に染み込んでいた有害な防腐剤、カビ菌、コールタールの分子が原子レベルで綺麗に剥離され、夜空の彼方へと消滅していく。
残されたのは、緻密で美しい年輪を持つ、淡い桜色の極上木材。
ロイドのスキルによって繊維組織が極限まで密に再結合され、防虫・防湿・防魔の結晶配列が組み込まれた、樹齢千年を超える『最高級神代ヒノキ』の角材へと生まれ変わったのだ。
あたり一面に、清々しく甘やかなヒノキの芳香がふわりと広がる。
「驚異的な芳香成分を検知。森林浴と同等の精神鎮静パルスを確認いたしました」
「よし、土台から一気に組んでいくぞ。ルシア、そっちのミスリルボルトを締めてくれ」
「了解いたしました、マスター!」
神話の解体士による、常識破りの爆速クラフトが始まった。
廃棄されていたレンガの瓦礫を解体し、断熱性に優れた純白の防魔タイルを錬成して基礎に敷き詰める。
ヒノキの角材をミクロン単位の狂いもなく組み上げ、壁には珪藻土の性質を持たせた調湿白壁を塗り込める。
屋根には、錆びた銅板を分子研磨して再構築した、エメラルドグリーンに輝くピカピカの銅瓦を敷き詰めた。
さらに、地下から引き込んだ名水の泉を利用し、蛇口をひねれば適温の湯が溢れ出る『全自動セルフクリーニング機能付き檜風呂』まで完備した。
作業開始から、わずか四時間。
見渡す限りのゴミ山の真ん中に、広々とした吹き抜けのリビング、温もりあふれるレンガの暖炉、二階に星空を眺められる寝室を備えた、宮殿顔負けの二階建て豪華ログハウスが堂々と完成したのである。
「……ふう! いい汗かいたな」
「マスターの建築能力、まさに神話級です。本機も室内の清掃およびベッドメイキングを完璧に完了いたしました」
ルシアがメイド服のエプロンを整え、瑠璃色の瞳を誇らしげに細めた。
木の温もりに包まれたリビングに足を踏み入れると、柔らかなヒノキの香りが全身を優しく包み込んでくれた。




