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第63話:悪役全員に対する「無期限終身清掃刑」~一生ゴミを拾え~

新世界環境クリーン連邦の樹立宣言の翌日。

 エデンの中央大広場には、十数万人の市民や各国の大使が見守る中、白亜の石畳の上に特設の公開特別法廷が設置されていた。

 壇上の裁判官席には、真紅の法衣に身を包んだアリア・ゴールドマン。

 検察官席には、神聖なる真実の法典を胸に抱いた元聖女セリス。

 そして法廷の周囲を取り囲むのは、銀狼の耳をピンと立てて威嚇するフェンネル、瑠璃色の瞳から警告ビームを明滅させる魔導人形ルシア、そして屈強な五千名の元帝国兵たちだった。

 法廷の中央、鉄の手枷と足枷を嵌められて引き出されたのは、かつて大陸全土で権勢を誇り、民を虫けらのように踏みにじってきた旧帝国の支配者たちだった。

 金糸のガウンを奪われ、泥まみれの囚人服を着せられた元皇帝アルブレヒト三世。

 前歯をすべて失い、折れた右腕を情けなく吊り、涙と涎で顔をグシャグシャにした元勇者レオン。

 肥え太った贅肉を恐怖で波打たせ、ガタガタと歯の根を鳴らす元伯爵バルト。

 白地に赤い水玉模様のトランクス姿のまま連行された北方軍閥の元大元帥ゼノ。

 さらに、かつて帝都でロイドへの物資販売を拒否し私腹を肥やしていた悪徳商人ギルド長のガストンや、民衆を弾圧していた元近衛騎士団長ブラッドレイの姿もあった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ! 頼む、助けてくれぇぇぇっ!」

「死刑か!? ギロチンなのか!? 首を刎ねられるのかぁぁぁっ!?」


 かつてロイドを「臭いゴミ拾い」「無能の平民」と嘲笑っていた者たちが、いまや小便を漏らさんばかりの勢いで床に額を擦りつけ、見苦しい絶叫を上げていた。

 カンッ、カンッ!とアリアが木槌を鳴らし、法廷に静寂をもたらした。

 セリスが一歩前に進み出て、金文字の羊皮紙を冷徹な眼差しで読み上げる。


「罪状認否。被告人アルブレヒト、およびバルト――国家予算の横領、都市インフラの意図的放棄、および数万年分の有害廃棄物の地下隠蔽による世界滅亡危機の招来。被告人レオン――神聖武具の横領および破壊自爆、職務放棄、虚偽の武功報告、ならびに不当なるロイド様追放扇動罪。被告人ゼノ――民間都市への不法空爆および国家反逆罪。被告人ガストン、ブラッドレイ――物資独占および市民虐待罪。……以上、いずれも国家反逆および人道に対する重大なる罪刑に該当します」


 セリスの冷ややかな告発に、悪役たちは「もうおしまいだ……八つ裂きにされる……」と白目を剥いて卒倒しかけた。

 そこへ――ギコギコと木製の荷車を押しながら、広場の中央へと一人の青年が歩み寄ってきた。

 青い作業着の袖をまくり、腕には『現場清掃総責任者』と刺繍された腕章を巻いたロイド・クレインである。

 ロイドが荷車から取り出し、悪役たちの足元へとドサリと山積みにしたのは――。

 処刑用の鎖でも、ギロチンの刃でもなかった。

 使い古された大量の『竹箒』、頑丈な『チリトリ』、真鍮製の『ゴミ拾いトング』、そして背中に【エデン環境美化奉仕団】と太い黒文字で書かれた、ド派手な蛍光イエローの清掃用ビブスだった。


「…………え?」


 レオンが間抜けに口を開けた。

 アリアが扇子をバチンと閉じ、壇上から冷徹にして痛快な判決を言い渡した。


「主文! 被告人アルブレヒト、レオン、バルト、ゼノ、ガストン、ブラッドレイを含む主犯格全員を――無期限の【終身清掃刑】に処しますわ!」

「「「へ……!? し、清掃刑……!?」」」


 悪役たちが呆然と叫んだ。

 アリアはニヤリと極上の嗜虐的な笑みを浮かべ、木槌を力強く振り下ろした。


「甘ったれるんじゃありませんわ! 死んで楽になれるなどと、都合の良いことを考えないことです! かつて貴方たちが『無能のゴミ拾い』『卑しい下民の仕事』と罵ったその労働の尊さと重みを、その骨の髄まで刻み込むために――本日より貴方たちには、大陸中のすべての街道、側溝、ドブ川、そして公衆便所を、一生涯ホウキで掃き清め続けていただきますわ!」


 ワァァァァァァァァァッッッッ!!!!


 傍聴席を埋め尽くした数十万の民衆から、大地を揺るがす爆笑と万雷の拍手が爆発した。


「ざまぁみろぉぉぉっ!」

「一生ゴミを拾って、俺たちに詫び続けろ!」


 ロイドが竹箒を一本ずつ、震える元皇帝と元勇者の手に手渡した。


「毎朝四時半起きだよ。サボったら朝ご飯抜きだからね」

「う……嘘だろ……!? この光の勇者様が、一生ドブ掃除ぃぃぃっ!?」

「わ、余は皇帝だぞ……! 余が馬糞をホウキで掃くなど……ぎゃあああああっ!」


 喚く皇帝の尻に、フェンネルがガブッと鋭い牙を突き立てた。


「うるさいです! ご主人様の言う通りに掃きなさい! サボったらお尻のお肉を噛みちぎりますよ!」

「反抗的態度を検知。作業効率向上のため、サボり防止の電撃スタンショックを常時待機させます」


 ルシアがバチバチと指先から高圧電流を放ち、ヴェルザが横から「おじちゃんたち遅ーい! ほら、もっと腰を入れて掃くの!」と手箒で頭をペシペシと叩く。

 蛍光イエローのビブスを着せられ、泣きながら地面の落ち葉や馬糞を掃き集める元皇帝、元勇者、元伯爵、元元帥たちの情けなくも笑える姿に、エデンの青空にはどこまでも爽快な笑い声が響き渡ったのである。

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