第62話:旧帝国の完全解体と新時代の幕開け~
厄獣ウロボロスの解体と大地新生の奇跡から三日後。
抜けるような真っ青な青空の下、初夏の心地よいそよ風が吹き抜けるエデンの中央大広場には、大陸中の主要国家の元首、特使、豪商、そして旧オルディス帝国の各都市の代表者たちが、一堂に集結していた。
自由都市同盟の元老院議員たち、聖王国の教皇と大司教たち、西方商業連合の大豪商たち、砂漠の首長国連邦の首長たち。
かつては領土争いや利権を巡って血で血を洗う争いを繰り返していた者たちが、いまや全員、エデンの圧倒的な徳と奇跡の生産力の前に、深く敬意を表して整列していた。
広場の中央、世界樹の木漏れ日が燦々と降り注ぐ白亜の大演壇。
真紅の壮麗なドレスを身にまとったアリア・ゴールドマンが壇上に立ち、手にした金箔の公文書を高らかに掲げた。
「大陸各国の代表の皆様、ならびに市民の皆様! 本日、ここに全会一致をもって決議された重大事項を発表いたします! 民を虐げ、大地を汚し、数万年分のゴミを地下に隠蔽して自滅した腐敗の旧国家『オルディス帝国』は――本日この時をもって、領土、法体系、階級制度を含め、完全に『解体』されたことを宣言いたします!」
ワァァァァァァァァァッッッッ!!!!
広場を埋め尽くした数十万の民衆から、地鳴りのような割れんばかりの拍手と歓声が爆発した。
もはや身分による理不尽な差別も、貴族による搾取も、重税に怯える暮らしも存在しない。
アリアは群衆を見渡し、鈴を転がすような凛とした美声を響かせた。
「そして――旧帝国の領土および周辺諸国を統合し、環境の保全、労働の尊厳、清潔な生活基盤の共有を最優先とする新たな国際調和共同体……『新世界環境クリーン連邦』の樹立を、ここに高らかに宣言いたします!」
ウオオオオオオオオオオッッッ!!
連邦万歳! クリーン連邦万歳!!
各国の元首たちが全員起立し、惜しみないスタンディングオベーションを捧げた。
アリアが起草した『新世界環境クリーン憲章』には、誰もが清潔な水と豊かな食糧を享受する天賦の権利、産業廃棄物の分子無害化処理の義務付け、他国の領土や自然環境を汚染する行為への厳罰、そしてすべての労働者の尊厳と健康の絶対的保障が明確に刻まれていた。
覇権争いのための軍事同盟ではなく、すべての生命が笑顔で暮らすための、世界で最も平和で進歩的な新時代の幕開け。
壇上へと招かれたのは、もちろんこの奇跡の国を創り上げた張本人――ロイド・クレインだった。
アリアは満面の笑みでロイドに歩み寄り、黄金の月桂冠を恭しく捧げ持った。
「ロイド様。各国元首ならびに全人民の満場一致の嘆願により、あなた様にこの新連邦の初代『最高国家総裁』への就任をお願いしたく存じますわ。大陸全土の頂点に立ち、この世界をお導きくださいまし」
「え……? 最高国家総裁……?」
ロイドは目を丸くし、いつもの青い作業着の胸元をぽんぽんと払って、困ったように頭を掻きながら手を振った。
「いやいや、アリア。何度も言っているけれど、ぼくは王様にも総裁にもなるつもりはないよ。政治や法律、経済の難しいことは、頭の良いアリアや各国の代表のみんなに任せるよ。ぼくはずっと、ただの掃除屋でいたいんだ」
「ロイド様……ふふ、やはりそう仰ると思いましたわ」
アリアは愛おしそうに目を細め、月桂冠の代わりに、新連邦の最高栄誉を象徴する一枚の純銀の身分証を手渡した。
「ならば、こちらの役職はいかがでしょうか? 新世界環境クリーン連邦・終身名誉最高環境顧問……兼『現場清掃総責任者』ですわ!」
「うん! それなら大歓迎だよ。現場でホウキを持てるのが、一番落ち着くからね」
ロイドが爽やかな笑顔で身分証を受け取ると、広場からは「ロイド隊長!」「世界一の掃除屋バンザイ!」という地鳴りのような大歓声が巻き起こった。
大工棟梁ゴランも、鍛冶屋の親方たちも、五千名の元帝国兵たちも、全員が涙を流して笑顔で手を振っている。
かつて帝都のゴミ捨て場に追放された孤独な青年は、世界で最も多くの人々に愛され、尊敬される『最高の現場監督』となったのだ。
アリアはロイドの横顔を誇らしげに見上げ、胸の奥を温かい幸福感で満たしながら、大陸全土へ向けた通商条約の締結書に、最初の一筆を力強くサインした。
権力を欲せず、名声を誇らず、ただ目の前の世界を清らかに保ち続ける男。
その高潔な魂を中心に据え、世界はかつてない平和と希望に満ちた新時代へと、力強く踏み出したのである。
不法投棄と差別の闇は去り、すべての民が青空の下で笑い合える、真実の楽園の歴史がここに始まったのだ。
それは、ただのゴミ拾いから始まった青年が、世界中のすべての命の心を洗い清めた、奇跡の夜明けであった。




