第6話:神話のオーバーホール~ナノ単位の超精密解体手術~
「よし……始めるぞ」
ロイドは先ほど錬成した純白の大理石フロアの上に、機巧天使の身体を慎重に運び出した。
作業台代わりのミスリルブロックの上に彼女を寝かせると、ロイドは両手のひらを広げ、彼女の頭部から胸部にかけてかざした。
――《原質超微細解体》。
キィィィィィィィン……!!
大気中に、耳鳴りのような極高周波の共鳴音が満ちる。
ロイドの意識は、肉眼を超え、顕微鏡をも超越した「分子・原子の世界」へと没入していった。
機巧少女の体内に張り巡らされた数億本もの極小魔導神経。
その隙間に入り込んだ黒いタール粒子、歯車の軸受けに焼き付いた酸化皮膜、配線の断線を塞ぐ不純物――それら「不要なゴミ」だけを、ロイドの解体波がピンポイントで正確無比に消滅させていく。
ジュッ、ジュジュジュッ……!
少女の全身から、黒い煤のような煙が一気に吹き上がった。
固着していた関節がカタカタと震え、錆びついていた銀髪から泥がパラパラと剥がれ落ち、本来の白銀の輝きを取り戻していく。
『……あ……ぁ……ッ……!? 回路の……ノイズが……消失……!?』
スピーカーのノイズが澄んだ鈴の音のような美声へと変わり、少女のレンズが激しく明滅する。
だが、ロイドの手は止まらない。
「不純物の除去は完了。次は――《分子再構築》!」
ロイドは傍らに置いてあった純度百パーセントのミスリル鋼塊に手を伸ばした。
鋼塊がドロリと銀色の液体のように融解し、少女の欠損した右肩と両脚へと流れ込んでいく。
ロイドの頭脳に刻まれた旧文明の魔導力学に基づき、ミリ単位、ミクロン単位の狂いもなく、新たな骨格フレームが編み上げられていく。
関節のギアが噛み合い、人工筋肉ファイバーがしなやかに接続され、その表面を白磁のような防魔装甲が滑らかに覆っていく。
そして最後――胸部の中央装甲の奥、空っぽになっていた主動力炉。
「普通の魔石じゃ出力が足りないな。……これでどうだ」
ロイドは、先ほどヘドロの底から抽出した超高純度の古代魔力結晶を、自らの解体波で極限まで研磨し、正八面体の『疑似神核炉』へと再結晶化させた。
それを、彼女の胸の真ん中へとカチリと嵌め込む。
トクン……。
機巧少女の胸部から、力強い鼓動のような魔力の脈動が響いた。
ミスリルの四肢に青い光のラインが駆け巡り、全身の装甲が眩いばかりの純白の輝きを放つ。
傷跡一つない、まるで生まれたての美術品のような美少女の姿が、そこにあった。




