第5話:ゴミ山の奥底で眠るもの~欠損した機巧天使~
「……ん? 何か埋まってるのか?」
ロイドは名水で手を洗い、音のした瓦礫の山へと近づいた。
そこは、数百年前の旧文明の遺跡から掘り出され、現在の技術では解析不能としてそのまま遺棄された特級危険廃棄物エリアだった。崩れ落ちた巨大な鋼鉄の装甲板が幾重にも折り重なり、黒いタールが接着剤のように隙間を埋めている。
「《局所解体》」
ロイドが装甲板に触れると、数トンはある鉄板が瞬時に乾いた砂となってサラサラと崩れ去った。
現れた空洞の奥底に――それは、静かに横たわっていた。
「これは……オートマタ(機巧人形)か?」
ロイドは思わず息を呑んだ。
そこに埋もれていたのは、等身大の少女の姿をした機械仕掛けの人形だった。
しかし、その状態はあまりにも痛ましいものだった。
右腕は肩口からもぎ取られて内部の魔導配線が千切れ、両脚も膝から下がひしゃげて金属骨格が露出している。純白だったはずの装甲は黒いサビとタールに覆われ、胸部の中央装甲は鋭利な刃物で抉り取られたように大穴が開いていた。
銀色の美しい髪は泥と油でガチガチに固まり、顔の左半分は分厚い酸化皮膜に覆われている。
だが、そんな無残な破壊痕の隙間から覗く造形は、息を呑むほどに精緻で美しかった。
現在の帝国の最新魔導工学を百倍洗練させても足元に及ばない、失われた古代旧文明の最高傑作――『古代機巧天使』。
ジジ……ジジジ……。
ロイドが近づくと、少女の右目の奥に埋め込まれた瑠璃色のレンズが、微かに明滅した。
ひび割れた内部スピーカーから、掠れた電子音声が漏れ出す。
『……警告……主魔力炉残量……ゼロ点零一パーセント……』
『……基幹フレーム……七十八パーセント欠損……思考回路……機能停止シークエンスヘ移行……』
『……認識……外部生体反応……一名……』
人形の首が、油の切れたギシギシという悲鳴を上げながら、ゆっくりとロイドの方へ向けられた。
『……質問……貴方は……本機の……廃棄執行者……ですか……?』
無機質でありながら、どこか震えるような弱々しい声。
数百年もの間、暗いゴミ山の底で誰にも顧みられず、朽ち果てるのをただ待っていた機械の悲哀が、その短い問いに凝縮されていた。
ロイドはそっと膝をつき、少女の泥まみれの頬に優しく手を添えた。
「まさか。俺はただの掃除屋だよ。……こんなに美しい細工をゴミ捨て場に放り出すなんて、前の持ち主はとんだ節穴だな」
『……美しい……? 本機は……すでに機能不全の……粗大ゴミ……です……』
「ゴミかどうかは、俺が決める。――ちょっと痛むかもしれないが、じっとしててくれ」
ロイドの瞳に、職人としての静かな炎が宿った。




