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第4話:奇跡の《原質解体》~猛毒ヘドロから生まれるミスリルと名水~

谷底の足場は、まさに地獄そのものだった。

 底なし沼のように足をとられるタール状のヘドロ。周囲には、酸性雨でドロドロに溶けた鉄骨が牙のように突き出し、魔力を帯びて青白く発光する危険な結晶がパチパチと放電している。


「よし。まずは足場を固めて、清潔な作業スペースを作るとしよう」


 ロイドは腰の雑のう袋を地面に置き、麻シャツの両腕をたくし上げた。

 そして、躊躇うことなく、その素手を目の前のどす黒いヘドロの沼へと突き入れた。


「――《原質解体(デコンストラクト)》、全開」


 ゴォォォォォォッ……!!


 ロイドの全身から、エメラルドグリーンの光の波動が爆発的に解き放たれた。

 光は同心円状に広がり、足元のドロドロの沼を、そして眼前の巨大なゴミ山を包み込んでいく。

 次の瞬間――信じがたい奇跡が起きた。


 解体とは、破壊ではない。

 あらゆる物質を構成する「原子」と「分子」の結びつきを見極め、あるべき純粋な状態へと解きほぐす、究極の整理整頓術である。


 ヘドロに含まれていた硫黄、鉛、水銀といった有害重金属は、ロイドの意識の中で原子番号ごとに瞬時に選別され、毒性を完全に剥奪されていく。

 有機物の腐敗成分は炭素と純粋な水へと還元され、大気中へ向けて清らかな酸素のシャワーを放出した。

 そして――。


 キィィィィィン……!


 澄み渡る心地よい金属音が荒野に響き渡るとともに、ヘドロや瓦礫の中にわずかに溶け込んでいた希少金属のイオンが、ロイドの足元に猛烈な勢いで集束していく。

 眩い光が収まった時、そこにあった光景は――。


「おお……。思ったより埋まってたな」


 ロイドの周囲半径百メートルが、鏡のように磨き上げられた純白の大理石フロアへと劇的な変貌を遂げていた。

 足元のヘドロは一滴残らず消え去り、そこには、青い燐光を宿した銀色の金属インゴットが、人の頭ほどもある巨大なサイズで、数十個も整然とピラミッド状に積み重なっていた。

 不純物ゼロ、純度百パーセントの、正真正銘の『ミスリル鋼塊』である。


「帝都の軍部め、魔導兵器の壊れた装甲をそのまま捨てていたな。不純物を完全に抜いて結晶構造を再配列すれば、これだけの純ミスリルが採れる。帝都の市場に持っていけば、これ一個で豪邸が三軒は建つな」


 だが、ロイドにとって金などどうでもよかった。

 それよりも彼の心を躍らせたのは、大理石フロアの中央から、コンコンと勢いよく湧き出し始めた清らかな泉だった。


「地中の汚泥層を分子分解して、地下深層の水脈に穴を開けたから……うん、水質も完璧だ」


 ロイドは両手で泉の水を掬い、ゴクリと喉を鳴らして飲み干した。

 ひんやりとした清涼感が喉を滑り落ち、五臓六腑に染み渡っていく。

 ただの真水ではない。地殻のミネラル成分を完璧な黄金比で再構築した、細胞の隅々まで活性化させる『至高の名水』だ。


「うまい……! 帝都の薬品臭い水道水とは比べ物にならないな。これなら、極上の料理も作れそうだ」


 ロイドが満足そうに息を吐いたその時。

 ミスリルを採掘した先の瓦礫の山から、カチリ、と硬質な金属が擦れ合う微かな音が響いた。

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