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第58話:五大ヒロインの全方位支援~愛の連動結界~

エデンの白亜の外壁から南へ三キロ。

 かつて緑豊かだった広大な荒野は、迫り来る厄獣『エントロピー・ウロボロス』の放つ死の波動によって、一面の黒い砂嵐が荒れ狂う地獄絵図へと変わり果てていた。

 天を覆う紫黒色の暗雲が太陽の光を完全に遮断し、地上には万物を凍結・腐食させる絶対零度の死の冷気が立ち込めている。

 地平線の向こうから迫り来るのは、全長数キロメートルにおよぶ漆黒の巨躯。

 ウロボロスは数万年分の産業廃棄物と毒ヘドロを山のように盛り上がらせた醜悪な巨体をうねらせ、大地を削り取りながら轟音とともに進撃してくる。

 その巨大な口腔から、大気を激しく震わせる不吉な低周波の唸り声とともに、数億トンもの腐食性エントロピーの黒波が、天を突く巨大津波となってエデンへ向けて一気に押し寄せてきた。

 触れたものすべての分子結合を瞬時に崩壊させ、存在そのものを黒い砂へと不可逆的に還元する、絶対的な死の波。

 直撃すれば、エデンの街など一秒と保たず砂漠の塵と消え果て、世界樹すら枯れ果てるであろう絶望的な一撃。

 だが――その破滅の津波の前に、毅然として立ちはだかる五人の影があった。

 ロイドを背後にかばうようにして完璧な五芒星の陣形を展開したのは、彼を心から愛し、彼の背中を信じる五大ヒロインたちだった。


「皆様! ロイド様がお掃除に専念できるよう、この汚らわしい泥水を一滴たりともロイド様に触れさせてはなりませんわ!」


 セリスが凛とした美しい声を響かせ、黄金の神聖祈祷杖を両手で天へと掲げた。

 彼女の碧眼から溢れ出したのは、神聖教会に伝わるいかなる秘儀をも凌駕する、純粋無垢な祈りと慈愛の輝き。

 かつて教会から捨てられ、絶望の底にいた自分を優しく救い出してくれたロイドへの、魂の底からの感謝。

 ――《極大聖樹調和結界(グランド・ハーモニー・シールド)》。

 エデンの世界樹から直接送られた莫大な生命エーテルが、巨大な半透明のエメラルドグリーンの光壁となって大地の前に立ち塞がる。

 そこへ、ルシアが即座に瑠璃色の瞳から数千万系統の演算コードを空中に展開した。


「セリス様の結界波長を同期。対象の腐食波動の空間崩壊周波数を完全解析。逆位相の対消滅グリッドを展開……マスターの安全マージンを極大化します。マスターに傷一つ負わせることは、私の存在理由が許しません」


 ルシアの超高速魔導演算が、光壁の表面に幾何学模様の防魔装甲を幾重にも編み上げていく。

 しかし、押し寄せる黒波の質量はあまりにも天文学的だった。

 バリバリバリッ……!と光壁の表面がきしみ、黒い飛沫が隙間から漏れ出しかけた、その瞬間。


「ご主人様の邪魔をするなあああああっ!!」


 フェンネルが銀狼の耳をピンと立て、全身から神速の銀色闘気を爆発させた。

 かつて闘技場で四肢を折られ、ゴミのように捨てられていた自分に、温かいご飯と新しい名前、そして生きる誇りをくれた最愛のご主人様。

 フェンネルが振るった爪の連撃が、大気を切り裂く無数の真空刃となって、飛び散る黒い飛沫を空中で塵芥へと微細に切り刻んでいく。

 さらに、後方からアリアが両手に抱えた超大型魔晶石の山を掲げ、豪快に魔力を解き放った。


「資本の力、思い知りなさいませ! エデン連邦の全国家魔力備蓄……ロイド様のためにすべて注ぎ込みますわ! 私の全財産も、私の命も、すべてロイド様にお預けいたしましたのよ!」


 アリアの莫大な魔晶石ブーストが五人の魔力リンクに無尽蔵の燃料を注ぎ込む。

 そしてトドメに、幼女竜姫ヴェルザがロイドの肩からフワリと宙へ舞い上がった。

 小さな背中から神々しい黄金の竜翼を大きく広げ、胸いっぱいに神聖フォトンを吸い込む。


「悪いゴミの波さん、パパの街に来ちゃめーーーーっっっ!!!!」


 ゴオオオオオオオオオオッッッ!!!!


 ヴェルザの口から放たれたのは、太陽そのものを凝縮したかのような眩い黄金の神聖浄化ブレス。

 セリスの聖樹結界、ルシアの論理装甲、フェンネルの神速刃、アリアの魔晶石、そしてヴェルザの神聖ブレス。

 ロイドへの深き愛と絆によって五人の心が一つに融け合い、天を突くほどの巨大な七色の防護障壁が完成した。


 ドガアアアアアアアアアアンッッッ!!!!


 漆黒のエントロピー津波が七色の障壁へと真っ向から激突する。

 天地を揺るがす轟音が響き渡り、黒い腐食の飛沫が周囲の大地に飛び散るが――五人の愛の結界は、ミクロン単位の揺らぎすら見せることなく、凶悪な津波を完全に弾き返した。

 濁流は左右へと綺麗に割れ、ロイドの立つ中央の道だけが、青空の木漏れ日を浴びるように清らかに照らし出されたのである。


「ロイド様! 道は開かれましたわ!」

「行ってください、ご主人様! 世界で一番かっこいいお掃除を、見せてやってください!」


 少女たちの誇らしげな笑顔に見送られ、ロイドは竹箒を手に、軽やかに大地を蹴ったのだった。

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