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第57話:掃除屋の誇り~「ゴミの不法投棄は見過ごせない」~

バルコニーへと姿を現したのは、飾り気のない青い作業着に身を包み、右手に一本の竹箒を手にした青年――ロイド・クレインだった。

 彼の穏やかな蒼い瞳には、皇帝たちに対する憎悪も、過去の虐げに対する復讐心も、何一つ浮かんでいなかった。

 ロイドの姿を目にした瞬間、門前で土下座していた皇帝アルブレヒトとレオンの瞳に、すがるような狂気じみた希望の光が宿った。


「ロ、ロイド殿! おお、ロイド様ぁぁぁっ! お願いです、あの化け物を倒してください! 貴方を帝国の宮廷最高魔導卿に任命します! いや、余の娘を嫁にやり、皇帝の座そのものを貴方に譲位いたしましょう! 帝国の富も権力も、すべて貴方の思いのままです! だからどうか……!」


 額から血を流しながら喚く皇帝に対し、ロイドは困ったように眉尻を下げ、静かに首を横に振った。


「皇帝の座なんていらないよ。権力にも、富にも、最初から興味はないんだ。ぼくはずっと、ただの掃除屋だからね」

「そ、そんな……! なら、何を望むのだ!? 何を差し出せば、あの怪物を倒してくれるのだぁっ!? 金か!? 領地か!? 何でも言ってくれ!」


 レオンが血の涙を流しながら絶叫する。

 ロイドはゆっくりと城門の柵へと歩み寄り、南へと迫り来る全長数キロメートルの漆黒の巨獣――エントロピー・ウロボロスを見据えた。

 空を焼き、大地を黒い砂へと腐食させ、数万年分のヘドロと悪臭を撒き散らしながら進撃してくる、星の最悪の老廃物。

 その腐食の衝撃波は、すでにエデンの外壁から数キロの地点にまで達し、大気がチリチリと焼けつくような異臭を放っている。

 ロイドは手元の竹箒を軽く握り直すと、ふっと深く息を吐き、静かに語りかけた。


「世界を救うなんて、大層なことは考えていないよ。英雄になりたいわけでもない。……だけどね、見てごらんよ、あの姿を」


 ロイドの指差す先で、ウロボロスの這った大地が、ドロドロの黒いコールタールと荒れ果てた砂漠へと成り果てている。


「数万年分の産業廃棄物やヘドロを溜め込み、自分たちで処理できないからって地下に埋めて見ないふりをして……最後はあんな巨大な粗大ゴミにして星に不法投棄するなんて。……そんなの、掃除屋の美学が絶対に許せないよ」

「え……? そ、粗大ゴミ……!?」


 皇帝もレオンも、呆然として口を開けた。

 神々すら倒せず、一国を一撃で消滅させた終末の厄獣を、目の前の青年はただの『不法投棄された粗大ゴミ』と呼んだのだ。

 ロイドの瞳に、宿命の解体士としての強い意志の光が宿る。


「誰かが散らかしたなら、誰かが片付けなきゃいけない。綺麗な大地を汚され、みんなの笑顔が奪われるのを黙って見過ごすなんて、ぼくにはできない。掃除っていうのはね、失われた調和を取り戻して、みんなが前を向いて笑って暮らせる場所を守るためにあるんだ。……だから、あの大掃除……ぼくが引き受けるよ」


 その言葉には、一切の打算も、英雄としての誇示もなかった。

 ただ目の前にある汚れを放っておけないという、純粋で高潔な職人の魂。

 かつて帝都のゴミ山で蔑まれながらも、誰よりも大地を愛し、黙々と手を動かしていた青年の変わらぬ真実の姿だった。


 ワァァァァァァァァァッッッッ!!!!


 城門の周囲を取り囲んでいたエデンの数万人の住民、名匠ゴラン率いる職人たち、そして五千名の元帝国兵たちが、地鳴りのような歓声と落涙の叫びを上げた。

 誰もが胸を熱く焦がし、拳を天へと突き上げる。


「ロイド様! いってらっしゃい!」

「世界一の掃除屋の晴れ舞台だ! 目に焼き付けてやるぞ!」

「俺たちのエデンは俺たちが守ります! 背後は絶対に安心してください!」


 地位のためでも、金のためでもない。

 ただ世界を愛し、大地を清らかに保つという『掃除屋の誇り』のために立ち上がる青年の姿に、その場にいた全員の魂が震えた。

 ロイドが振り返ると、五人の美少女たちが、満面の信頼と深い愛をたたえて力強く頷いた。


「ルシア、全方位生体スキャンおよび解体座標リンクの準備を」

「了解、マスター。マスターの背中は、このルシアが百パーセント守護いたします。いかなる汚泥も通しません」

「ロイド様、我が神聖結界の全エーテルをあなたに捧げますわ! 光の加護をその御身に!」

「ご主人様! 私の爪と牙で、露払いはお任せください! 一番槍は私が務めます!」

「経済的支援も、補給も、後方支援もすべて完璧に整えてありますわよ! 思いっきり暴れていらっしゃいませ!」

「パパ! ヴェルもパパと一緒に行く! 悪いゴミさん、綺麗にお掃除しようね!」


 五大ヒロインの固い絆と、数万の民の祈りを背に受け、ロイドは竹箒を手に、星の未来を賭けた最終決戦の荒野へと力強く歩みを進めたのだった。

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