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第52話:アリアの商業網制覇とエデン通貨の誕生~

ゼノ大元帥の艦隊が空中分解され、五千名もの兵士が環境美化ボランティアとして雇い入れられた翌週。

 エデンの行政庁舎の商工会議所では、アリア・ゴールドマンが豪奢な真紅のドレスを翻し、壁一面に広げられた巨大な大陸全図を前にして、猛烈な指揮を執っていた。

 彼女の執務机の上には、帝国軍の三十隻の戦艦から丁寧に解体・回収された、天文学的な量の超一級軍事資材の目録が山のように積まれていた。

 傷一つない最高純度の防魔鋼鉄装甲板数万トン、超高密度ミスリル合金インゴット、旧文明の失われた古代魔導動力コア百二十基、そしてロイドの精密解体によって完全に整備された状態の百二十門の対城魔導主砲。


「ふふふ……! あの大元帥閣下には、足を向けて寝られませんわね。これほどの超一級素材、正規の市場で買い集めれば帝国全体の国家予算すら軽く吹き飛びますわ!」


 アリアは即座に、大陸中の主要国家――自由都市同盟、聖王国、西方商業連合、砂漠の首長国連邦の元首たちへ向け、特使と親書を急行させた。

 オルディス帝国で最も恐るべき武力を誇っていた北方軍閥の三十隻の無敵艦隊が、エデンへの侵略の途上で完全に無力化され、艦隊そのものが消滅したという驚天動地のニュースは、瞬く間に大陸全土の国家中枢を駆け巡っていた。

 軍閥の軍事的脅威に怯え、毎年莫大な上納金をむしり取られていた周辺諸国の元首たちは、エデンの圧倒的な防衛力に腰を抜かすと同時に、エデンに対して絶大な信頼と敬意を抱いたのである。

 商工会議所の大広間に集結した各国の大使や豪商たちを前に、アリアは扇子を優雅に広げ、堂々たる美声を響かせた。


「各国の代表の皆様、エデンへようこそ。我がエデン自由クリーン連邦は、先日の防衛戦において回収いたしました最高級の防魔鋼鉄および魔導装甲を、各国の平和維持と国土防衛のための資材として、適正価格でお譲りいたしますわ。……ただし、取引に使用できるのは、帝国の旧通貨でも、金塊でもございません。本日より発行される、我が連邦の独自通貨『エデン・クラウン』のみとなります!」


 アリアが壇上のベルベット布を引くと、そこに現れたのは、ロイドが《原質解体精錬》によってオリハルコンと高純度ミスリルを奇跡の比率で結晶化させた、至高の銀貨と金貨――『エデン・クラウン』だった。

 表面には神話の世界樹が精緻に彫り込まれ、偽造が絶対に不可能な神聖エーテルの燐光を放っている。

 だが、この通貨の真の恐ろしさは、その美しい外見ではなかった。

 通貨の価値を裏付けているのは、他国の紙切れのような政治的信用ではない。

 世界中が渇望する『エデンの奇跡の名水』、一杯で難病を癒やす『世界樹の蜜茶』、そして王侯貴族が喉から手が出るほど欲しがる『神聖白ワイン』との完全兌換保証であった。

 水と食糧、そして至高の特産品を無尽蔵に生み出すエデン通貨は、瞬く間に大陸中の豪商たちから「世界で最も安全で、最も価値のある絶対通貨」として絶大な信認を勝ち取ったのだ。


「同盟を結ばせてくれ! 我が自由都市連合の全貿易決済を、エデン・クラウンに移行する!」

「聖王国もエデン連邦を正式な主権国家として承認する! 我が国の特産農産物と、エデンの建材を交換していただきたい!」

「砂漠の全石油利権を担保にする! どうか我が国にもエデンの名水と神聖白ワインを最優先で輸出してくれ!」


 各国の大使や代表商人たちが、我先にと契約羊皮紙にサインを求め、エデンの中央銀行の窓口には天文学的な規模の国際資本と金銀財宝が雪崩のように流入した。

 かつて帝都の貴族院で冷遇され、一商人の娘として侮られていたアリアは、いまや大陸全土の富と物流の生殺与奪の権を握る、絶対的な『経済の女王』として君臨していたのである。

 アリアは執務机に置かれた淹れたてのエデン名水ハーブティーを優雅に口に含み、ふっと満足そうに微笑んだ。


「ふふ……これで、ロイド様が気兼ねなくお掃除とお昼寝を楽しめるための、恒久的な国家財政基盤が完成いたしましたわ。……ロイド様を支えるのが、私の最大の幸せですから」


 一方――北方軍閥の無敵艦隊を失い、街中が毒ヘドロの海に沈んだオルディス帝国は、軍事的にも経済的にも大陸から完全に孤立した。

 帝国の旧紙幣は薪の焚き付けにもならない紙屑同然に暴落し、ハイパーインフレーションによってパン一つにトランク一杯の旧紙幣が必要となった。

 商人や職人は一人残らず帝都を見捨ててエデンへと移住し、かつてロイドを「ゴミ拾い」と蔑んでいた傲慢な宮廷貴族たちは、全員が破産して豪邸を差し押さえられ、自らの手で家の前のドブ泥を掻き出すしかなくなったのである。

 ロイドの愛する掃除と解体の技術が、アリアの天才的な商才と結びついた結果――武力による侵略を一切行うことなく、エデン自由クリーン連邦は、大陸全土の経済、資源、そして秩序の頂点へと堂々たる君臨を果たしたのだった。

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