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第51話:敵兵数千人の「エデン環境美化ボランティア」雇用~

三十隻の無敵艦隊が空中で音もなく部品へと解体され、青空に咲いた五千の純白のパラシュートが、エデンの中央大広場へと舞い降りてから一時間。

 広大なエメラルドグリーンの芝生の上には、完全武装を解除された五千名もの元帝国軍北方精鋭歩兵たちが、肩を寄せ合って小さくなり、ガタガタと恐怖に震えていた。

 彼らの周囲を取り囲むのは、白亜の美しい摩天楼の街並みと、誇らしげに警備に就くエデンの住民たち。

 兵士たちの中には、敗戦捕虜として過酷な拷問を受けるのか、あるいは広場の中央で一列に並ばされて見せしめに首を刎ねられるのかと、青ざめた顔で絶望に耐えている者が大半だった。

 オルディス帝国の苛烈な軍規において、捕虜となった敗残兵は人間としての権利を完全に剥奪され、鎖で繋がれて死ぬまで危険な鉱山や毒素地帯で使い潰されるのが常識だったからである。

 そこへ、湯気を立てた幾つもの巨大な寸胴鍋を乗せた荷車を引いて、青い作業着姿のロイドが穏やかな笑顔で歩み寄ってきた。

 彼の後ろには、セリス、ルシア、アリア、そしてフェンネルが、山盛りの清潔な木製食器と焼きたてのパンを抱えて続いている。


「みんな、空から落ちてきて怖かっただろう。風に吹かれて身体が冷えていないかい? 怪我をした者はいないかな?」


 ロイドの穏やかで温かい声が広場に響いた瞬間、兵士たちは信じられないものを見るように目を見張った。

 復讐の刃でも、侮蔑の罵声でもない。

 ロイドが大鍋の分厚い木蓋を開けると、ふわりと初夏の風に乗って立ち上ったのは、空腹で悲鳴を上げていた兵士たちの胃袋を狂おしいほど刺激する、極上のポトフシチューの芳醇で甘やかな香りだった。

 エデンの名水オアシスで獲れた瑞々しい甘藍、黄金のニンジン、ホクホクのジャガイモ、そして《原質解体》によって極限まで柔らかく煮込まれた最高級燻製肉の旨味。

 仕上げにロイド特製のグラニュー糖が微量に加えられた至高のスープが、セリスとルシアの手によって、一人一人の兵士の震える手へと惜しげもなく山盛りに手渡されていく。

 さらに、薪窯で焼き上げられたばかりの、湯気立つふかふかの白パンが二個ずつ配られた。


「さあ、遠慮しないで食べてくれ。温かいハーブティーのおかわりもたっぷりあるからね」

「え……? お、俺たちを……殺さないのか……? 俺たちは、あんたたちの街を砲火で焼き払い、女子供ごと灰にしようとした侵略者なんだぞ……!?」


 歩兵部隊の小隊長を務めていた青年兵士が、木製の器を抱え、涙で滲んだ瞳で掠れた声を絞り出した。

 ロイドは困ったように優しく微笑み、首を横に振った。


「あんたたちだって、あの身勝手な元帥に命令されて、逆らえずに戦艦に乗せられていただけなんだろう? 上官の命令に逆らえば家族が処刑される……そんな恐怖の中で戦わされていたのを、ぼくは知っているよ。お腹が空いているのに戦わされるなんて、世界で一番辛いことだ。罪を償うのは大事だけど、それはお腹いっぱい食べて、身体をしっかり温めてからでいいよ」

「う……うぅ……! あ、あったけぇ……! こんなに美味くて温かい飯、軍隊に入ってから一度も食ったことがねぇよ……!」

「母ちゃん……俺、生きてる……! 殺されないで、こんなに甘くて美味いスープを腹いっぱい飲ませてもらってるよ……!」


 一口スープをすすった瞬間、五千人の屈強な男たちの瞳から大粒の涙が滝のように溢れ出した。

 過酷な軍律で犬のように使い捨てにされ、飢えと暴力で支配されていた帝国軍の兵士たち。

 温かなスープが胃袋と五臓六腑に染み渡るたび、絶望と恐怖で凍りついていた兵士たちの心が、ロイドの底知れぬ慈悲によって解きほぐされていく。

 パンにスープを浸して貪り食い、大鍋三杯分のおかわりが綺麗サッパリ空になった頃、兵士たちは全員が正座し、ロイドの前に頭を垂れていた。

 ロイドは広場の中央で、彼らに向けて優しく語りかけた。


「みんなに提案があるんだ。帝国に戻っても、三十隻の戦艦を失った責任を問われて軍法会議で処刑されるか、毒ヘドロに沈んだ帝都で野垂れ死ぬだけだろう。もし帰る場所がないなら――このエデンで、一緒に働いてくれないかい?」

「へ……!? お、俺たちが、この美しい楽園で働いていいのか……!?」

「ああ。戦艦から解体された頑丈な鉄骨や装甲板を運んだり、街の道路を掃除したり、新しい畑を開墾する仕事がたくさんある。もちろん、奴隷労働なんかじゃない。エデンの正式な住民と同じように三食昼寝付き、清潔な集合住宅の個室と天然温泉大浴場への自由入浴、そして毎月の正当な給与も支払うよ。職務名は『エデン環境美化ボランティア(正規採用)』だ!」


 その瞬間、五千人の帝国兵たちが弾かれたように立ち上がり、地鳴りのような歓喜の雄叫びを上げた。


「「「働きます!! 喜んで働かせていただきますッッッッ!!!!」」」

「ロイド様! 俺たちのこの命、これからはエデンの清掃と発展のために一生捧げます!」


 兵士たちは自発的に軍服の階級章を引きちぎって足元に投げ捨てると、広場の噴水の脇の泥土に頭から突っ込んでいたゼノ大元帥の足を引っ張り抜いた。

 水玉模様のトランクス一丁で泥まみれのゼノを、筋骨隆々の兵士たちが十人がかりでガッチリと取り押さえる。


「き、貴様ら、反逆か! 大元帥であるこの我に何をする気だ!」

「うるせぇ、このクソ元帥! お前なんかの野望のために命を捨てるのはもう御免だ! 俺たちは今日から、世界一優しくて偉大なロイド様の清掃員になるんだ!」


 こうして、五千人の帝国精鋭兵士が一人の死者も出すことなく、エデンの最も頼もしい環境美化部隊へと生まれ変わったのである。

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