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第47話:帝国の狂気~軍閥貴族の浮遊魔導戦艦三十隻~

帝都が毒ヘドロの海へと沈み、怒れる市民暴徒と反乱軍によってバルト伯爵と勇者レオンが豚箱牢獄へと叩き込まれたその頃――。

 オルディス帝国北部、雪深き山岳地帯に聳え立つ巨大軍事要塞都市『アイアンガルド』の作戦司令室には、重々しい金属の足音と、冷酷な怒気の混じった舌打ちが響いていた。

 豪奢な漆黒の軍服に身を包み、胸元に無数の血塗られた戦功勲章を佩用した初老の大男――帝国北方方面軍総司令官にして、軍閥貴族の頂点に君臨するゼノ・ヴァルハイト大元帥である。

 これまで十以上の反乱都市を地上から完全に消滅させ、『焦土の鉄槌』と恐れられてきた男の灰色の瞳には、冷徹極まりない光が宿っていた。

 ゼノは手元の通信魔導水晶から流れる帝都崩壊の報告書を、握り潰すようにして灰皿へと放り投げた。


「ふん……! 無能なバルトめ、贅沢三昧に溺れて帝都のインフラ一つ維持できず、平民の暴徒ごときに捕らえられるとは貴族の面汚しめが。レオンとかいう金髪の偽物勇者も、口先だけのただのゴミクズであったか。神聖教会も宮廷貴族も、平和ボケした豚どもの集まりに過ぎん」


 ゼノの言葉には、皇帝や帝都の文官貴族に対する哀れみなど微塵もなかった。

 彼ら軍閥貴族にとって、帝都の貴族など所詮は自分たちに巨額の軍事予算を回すだけの金庫番に過ぎない。

 真に世界を支配し、歴史を動かすのは、小賢しい法や血筋ではなく、圧倒的な暴力――『軍事力』のみであると信じて疑っていなかったのだ。

 そこへ、副官の青年将校が蒼白な顔で進み出て、一枚の羊皮紙を恭しく差し出した。


「ヴァルハイト閣下、国境の廃棄谷……旧帝国のゴミ捨て場に突如建国された『エデン自由クリーン連邦』に関する、最新の偵察報告書が入りました。……信じがたいことに、わずか数ヶ月前まで死の荒野であったあの谷底に、いまや数万人が快適に暮らす白亜の摩天楼都市が立ち並び、神話の世界樹が芽吹き、さらには王侯貴族垂涎の『神聖白ワイン』なる奇跡の特産品まで無尽蔵に湧き出ているとのことです!」

「なに……? 死のゴミ捨て場に、白亜の摩天楼と神聖白ワインだと……!?」


 ゼノは分厚い眉を吊り上げ、羊皮紙を奪い取って目を通した。

 そこには、かつて無能として追放されたただの『ゴミ拾い』ロイド・クレインが、規格外の能力でオアシスを開拓し、帝都から流出した最高峰の大工や鍛冶屋を抱え込み、大陸最強の生産基盤を築き上げているという事実が克明に記されていた。

 ゼノの口元が、醜悪な欲望と野心に歪んだ。


「くっ……くくく……! ハッハッハッハ! 天がこの我に味方したか! 帝都がヘドロに沈んだいま、我が軍閥が独立し、大陸全土を支配する新たな覇権帝国を打ち立てるための莫大な軍資金と不落の要塞拠点が必要であったのだ! あの白亜の摩天楼も、無尽蔵に湧き出る奇跡の神聖ワインも、世界樹の莫大なエネルギーも……すべて我が軍閥が武力で接収すれば、大陸全土の国家を我が軍門に降伏させることができるぞ!」

「し、しかし閣下、エデンには神聖教会の元聖女や、反乱を起こした熟練の職人たちが集まっております。周辺諸国への輸出も始まっており、いきなり攻撃を仕掛ければ国際的な批判を招くのでは……」

「黙れ、腰抜けめが!」


 ゼノは鋼鉄の軍靴で床を踏み鳴らし、副官を一喝した。


「泥水をすすっていたゴミ拾い風情が、偶々手に入れたオアシスで王様気取りをしているだけだ! 批判など、全土を武力で平定した後に力でねじ伏せればよいのだ! 我が軍閥が誇る最新鋭の空戦兵器の前に、平民どもの砂上の楼閣など一撃で塵と消えるわ!」


 ゼノはマントを翻し、要塞の地下にある巨大空中ドックへと向かった。

 そこに鎮座していたのは、帝国が国家予算の半分を注ぎ込んで極秘裏に建造していた、大陸史上最強の空中要塞群だった。

 全長三百メートルを超える超ド級浮遊魔導戦艦『アイアン・ゴライアス』を総旗艦とし、その周囲を取り囲む重巡洋艦、対竜魔導駆逐艦、総計三十隻の大艦隊。

 各戦艦の舷側には、ドラゴンの硬質外骨格すら一撃で貫通する百二十ミリ対城魔導主砲が隙間なく配備され、艦内には完全武装した五千名もの精鋭魔導歩兵が搭乗している。


「全艦隊、浮上機関始動! 進路を南方、廃棄谷へ取れ! 反逆者どもの楽園を砲火で焼き払い、富と女と食糧をすべて我が軍の糧とするのだ!!」


 ブォォォォォォォォォン……!! ゴオオオオオオオッ!!


 要塞の警報サイレンが鳴り響く中、三十隻の浮遊戦艦が重魔導機関を唸らせ、黒煙を吐き散らしながら大気中へと浮上を開始した。

 空を埋め尽くす漆黒の鋼鉄の大群。

 帝国軍閥の傲慢と侵略の狂気を乗せた死の大艦隊が、エデンの美しい青空を目指して電撃進撃を開始したのである。

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