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第46話:神話級浄化ブレスの奇跡~有害ガス層が【極上ワインの泉】へ~

心地よいお昼寝から目を覚ましたヴェルザは、満タンにチャージされた生命力で元気いっぱいに跳びはねていた。

 金色のツインテールを揺らし、ロイドの作業着の裾を小さな手できゅっと引っ張る。


「パパ! ヴェル、パパのお手伝いしたい! ヴェルね、こう見えてすっごく強いんだよ! パパのために何かお仕事する!」

「お手伝いかい? ありがとう、ヴェル。気持ちはとっても嬉しいよ」


 ロイドが優しく微笑みかけると、アリアが執務机から一枚の地図を広げて歩み寄ってきた。

 その琥珀色の瞳には、連邦の運営を司る者としての真剣な光が宿っていた。


「ロイド様、ちょうどよろしい案件がございますわ。エデン東部の地下水脈採掘区画において、数万年前の太古の断層から噴出したと思われる『高濃度毒性アルコールガス』の滞留層が発見されましたの。有毒な蒸気により作業員が立ち入れず、下手に魔法の火花を散らせば大爆発を起こして地表が吹き飛ぶ危険性があり、ゴラン棟梁たちも手をこまねいておりますわ」

「なるほど、太古の植物質が地圧で発酵・変質した可燃性の有毒ガス層だね。放置しておくとエデンの水源に引火する恐れがある。よし、見に行こう」


 一行はエデン東部の地下空洞へと向かった。

 頑丈な鉄扉で厳重に封鎖された坑道の前に立つと、扉の隙間からでも、ツンと鼻を突く強烈な揮発臭と、チリチリとした有害な酸性蒸気が漏れ出していた。

 覗き窓から奥を見れば、青紫色の淀んだガスが濃霧のように充満し、視界を完全に遮っている。


「うぅ……くさい……! 鼻がツンツンして、息が苦しいですわ……!」


 セリスがハンカチで口元を押さえ、眉をひそめる。

 その時――ロイドの足元から、ヴェルザがタタタッと前に進み出た。

 小さな胸を精一杯張り、腰に手を当てて仁王立ちする。


「パパ、ここはヴェルにまかせて! 悪いガスさんなんて、ヴェルのブレスでぜーんぶやっつけちゃうもん!」

「えっ、ヴェルザちゃん、お待ちになって! ブレスなんて吐いたら、可燃性のガスに引火して大爆発してしまいますわ!」


 アリアが悲鳴を上げて止めようとしたが、ヴェルザはニカッと無邪気な笑顔を浮かべた。

 幼女の小さな背中から、神々しい黄金の竜翼がバサリと大きく広がる。

 彼女の体内で脈打つのは、破壊の炎ではない。太古の星の環境を清めるために神が授けた、純粋なる『原初の神聖浄化フォトン』。

 ヴェルザが小さな口を大きく開け、肺いっぱいに神聖エーテルを吸い込んだ。


「えぇぇぇぇぇぇいッ! きらきらぽっぽーーーっっっ!!!!」


 ゴオオオオオオオオオオッッッ!!!!


 ヴェルザの口から放たれたのは、炎でも雷でもなく、視界を埋め尽くす眩い黄金の光の奔流――神話級の浄化ブレスだった。

 光の奔流が鉄扉をすり抜け、青紫色の毒ガス層へと真っ向から衝突する。

 爆発は起きない。

 そこへ、ロイドがすかさず右手を掲げ、ヴェルザの神聖ブレスに己の《原質分子解体》をシンクロさせた。


「――毒素の鎖をほどき、大地の豊穣を以て再結晶せよ。《原質調合・分子発酵昇華》ッ!」


 キィィィィィィン……!


 ロイドの解体波とヴェルザの浄化ブレスが共鳴し、地下空洞全体に七色のオーロラが渦巻いた。

 有毒なメタノール分子、硫黄化合物、重金属イオンがナノ単位で分解され、有害物質は完全に消滅。

 そして、太古の植物エーテルが持つ高純度の果糖、酵母菌、そして大地のミネラル分子が、完璧な比率で再結合・熟成を開始したのだ。

 シュワシュワシュワ……! トクトクトクトク……!

 空洞の奥から響いてきたのは、心地よい炭酸の弾ける音と、澄んだ液体の流れる音。

 そして――鉄扉の隙間から溢れ出してきたのは、悪臭などでは断じてなく、嗅いだ瞬間に魂が蕩けてしまいそうなほど、狂おしく華やかで芳醇な果実の香りだった。


「こ……この香りは……!? ぶどう……!? 白桃、洋梨、そして白百合の花のような……!?」


 アリアが目を見開き、鉄扉を開け放った。

 そこに広がっていたのは、悪臭漂う毒ガス溜まりなどではなかった。

 青白い発光鉱石に照らされた地下空洞の底に、黄金色に透き通った美酒が滔々と湧き出る、息を呑むほど美しい【神聖白ワインの大泉】が誕生していたのである。

 アリアは震える手で懐からグラスを取り出すと、泉の黄金の雫をすくい、恐る恐る口に含んだ。

 その瞬間――アリアの琥珀色の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「な……なんという奇跡……! 絹のように滑らかな舌触り、口いっぱいに広がる芳醇な果実味と、喉を潤す気品あふれる酸味……! 帝国の皇族が飲む最高級ヴィンテージワインですら、この足元にも及びませんわ……! これなら……一本あたり金貨五百枚、いえ千枚の値がつきますわ! エデンの新たな特産品として、世界中の王侯貴族の財産を根こそぎ吸い上げられますわよ……!」


 アリアの瞳が金貨のマークになって狂喜乱舞する。

 ロイドは膝をつき、誇らしげに胸を張るヴェルザの頭を優しく抱きしめた。


「すごいよ、ヴェル。最高のお手伝いだったね!」

「えへへ~! パパ、ヴェルすごいでしょ! もっといっぱい褒めてぇ~!」


 ヴェルザはロイドの首に抱きつき、甘えた声で頬ずりをする。

 有毒のガス地帯すら、親子(?)の連携によって無尽蔵の富と至福の美酒を生み出す奇跡の泉へと変えてしまったのだった。

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