第45話:特製ミルクプリンの爆食~竜姫の至福~
地下の神話地層から地上へと戻ったロイド一行を出迎えたのは、初夏の爽やかな木漏れ日と、エデンの豊かな大自然だった。
木造二階建ての広々としたログハウスのダイニングルーム。
中央の大きなマホガニーのテーブル席で、小さな金色のツインテールを揺らすヴェルザは、ロイドの膝の上にちょこんと陣取ったまま、一度たりとも離れようとしなかった。
膝の上で、ヴェルザは小さな両手でお腹をぽんぽんと叩き、大きな黄金の瞳を潤ませてロイドを見上げる。
「ぱぱ……ヴェル、もう限界だよ……。お腹と背中がくっつきそう……。あまーいおやつ、まだぁ……?」
「ふふ、もうちょっとだけ待っててね。今、一番おいしいのを作っているからね」
ロイドは優しくヴェルザの頭を撫でると、エプロンを身につけてキッチンへと立った。
数千年間も地下の暗闇で眠り続け、飢えに耐えてきた幼い竜姫の空腹を癒やすため、ロイドが腕によりをかけて挑むのは、エデンの至高の素材を惜しみなく注ぎ込んだ特製スイーツ――『極上黄金ミルクプリン』だった。
調理台の上には、厳選された最高峰の食材がずらりと並べられている。
エデンの名水オアシスで育った乳牛から朝一番で搾られた、濃厚でコクのある新鮮なミルク。
広大な草原で放し飼いにされ、薬草の種をついばんで育った純血グリフォンの新鮮な極上有精卵。
そして、ロイドが廃棄砂糖キビから分子レベルで不純物を除去し、極限の純度へと昇華させた純白のグラニュー糖。
「ルシア、火加減と蒸気の温度スキャンを頼む」
「了解、マスター。蒸し釜の内部温度を九十二点五度に固定。タンパク質の熱変性カーブをミリ秒単位でモニタリングします」
「よし、いくぞ――《原質分子解体調合》」
ロイドはボウルの中で卵とミルク、砂糖を優しく混ぜ合わせながら、指先から微細な解体波を放った。
常識的な菓子作りでは、卵液に混ざる微小な気泡や、タンパク質分子の不均一な凝固が、プリンの舌触りを粗くしてしまう。
だが、ロイドの神技は、卵液の中に含まれる分子の結合を最も滑らかで均一な網目構造へとリアルタイムで再配列していく。
気泡は一つ残らず消滅し、液体はまるで黄金色のシルクのように滑らかな輝きを帯びた。
さらに、銅鍋でじっくりと煮詰めた砂糖が、芳醇で香ばしい琥珀色のカラメルソースへと変化していく。甘みの中にほのかな苦味と華やかな香りを閉じ込めた至高のソースを器の底に流し込み、その上から黄金のプリン液を注ぎ入れる。
蒸し釜に入れ、ルシアの完璧な温度管理のもとで蒸し上げること数分。
粗熱を取って名水で急冷したプリンの型を、ロイドは大きな深皿の上にコロンと裏返した。
「できたよ、ヴェル。ロイド特製・至高の黄金ミルクプリンだ」
フワリと部屋中に満ちたのは、濃厚なミルクの甘い香りと、ほろ苦く香ばしいカラメルの芳香。
皿の上でぷるぷると魅惑的に揺れるそのプリンは、スプーンを差し入れることすら躊躇われるほど、水晶のように滑らかで神々しい琥珀の輝きを放っていた。
しかも、器の大きさはヴェルザの上半身ほどもある超特大サイズ。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!! ぷるぷるしてる! きらきらしてる! これ、ヴェルの……!?」
「ああ、全部ヴェルのものだよ。さあ、召し上がれ」
「いっただっきまーーーーすっ!」
ヴェルザは大きな銀のスプーンを両手で握りしめると、山盛りのプリンをすくって、あーんと開けた小さな口いっぱいに放り込んだ。
その瞬間――。
ヴェルザの黄金の瞳が、限界まで見開かれた。
口の中に広がったのは、噛む必要すらない、舌の上でフワッと淡雪のように溶けていく奇跡の口溶け。
グリフォン卵の濃厚なコクと、絞りたてミルクのミルキーな甘みが口いっぱいに押し寄せ、直後に上品なカラメルのビターな香りが全体を完璧に引き締める。
数千年の飢えを一撃で吹き飛ばす、圧倒的な幸福のエデン。
「んんんんんんんーーーーーーっっっっ!!!! おいひい! おいひいよパパぁぁぁぁっ!!」
ヴェルザの小さな背中の竜翼がパタパタパタッと高速で羽ばたき、お尻の尻尾がプロペラのように回転する。
「あまくて、あったかくて、とろとろで……ヴェル、こんなにおいしいもの、生まれて初めて食べたぁっ! パパ、世界で一番しゅごい! だぁぁぁいすきっ!」
ハフハフと歓喜の声を上げながら、ヴェルザは猛烈な勢いでスプーンを動かした。
特大ボウル一杯の巨大プリンが、まるで魔法のようにわずか三分で綺麗サッパリ空っぽになる。
「ぷはぁ~……! ごちそうさまでした! ……パパ、おかわり!」
「ふふ、いくらでも食べていいよ。まだまだいっぱい作ってあるからね」
結局、ヴェルザは特大プリンを五杯連続で平らげ、お腹をまん丸のタヌキのように膨らませると、「ふにゃぁ……パパ、お腹いっぱいでしあわせ……」と満足そうに呟き、ロイドの膝の上でスヤスヤと可愛らしい寝息を立て始めたのだった。




