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第44話:金色の幼女竜姫ヴェルザ誕生~「パパ~!お腹すいた~!」~

地下空洞を満たしていた凄まじい光の奔流が収まり、きらきらと光る金色の粉が、淡雪のように静かに空間を舞い散っていた。

 百メートルを超えていたはずの神話の巨竜の姿はどこにもない。

 代わりに、ロイドが敷いた清潔な毛布の中央にちょこんと座っていたのは――。


「う……ん……ふぁぁぁぁ……」


 小さな小さな両手を目の前に掲げ、可愛らしくあくびをする一人の幼い少女だった。

 年齢は人間の子供で言えば五、六歳ほど。

 膝下まで届く艶やかで柔らかな黄金のツインテール、抜けるような透き通る白磁の肌、そして頭の両脇からは、宝石のように磨き上げられた愛らしい琥珀色の竜の角がちょこんと生えていた。

 背中には、パタパタと小刻みに揺れる手のひらサイズの黄金の竜翼。

 お尻からは、先端にふさふさとした金色の毛が生えた小さな尻尾が、ご機嫌そうに左右へ揺れている。

 身にまとっているのは、ロイドの解体再構築魔力によって金色の鱗から編み上げられた、純白のフリル付きワンピースだった。


「こ……子供……!? 神話の巨竜が、人間の幼女になってしまいましたわ……!?」


 セリスが口元に両手を当てて絶句する。

 名匠ゴランもまた、飛び出しそうな目玉を押さえながら腰を抜かしていた。

 ルシアだけが冷静に歩み寄り、少女の生体スキャンを実行する。


「生体反応、完全安定。精神年齢、幼児期レベルに固定。ただし体内に内包する根源神聖魔力量は、旧帝国近衛魔導師団の全総魔力量の三千倍以上を計測。……極めて安全、かつ極めて愛らしい存在であることを確認しました」


 その時、少女がゆっくりとまぶたを持ち上げた。

 現れたのは、満天の星空をそのまま閉じ込めたかのように眩く輝く、大きな大きな黄金色の瞳。

 少女はキョロキョロと周囲を見回すと、目の前にしゃがみ込んで優しく微笑みかけているロイドの顔をじっと見つめた。

 ロイドの魂から立ち上る、万物を包み込むような温かなエーテル。

 数千年の暗闇から自分を優しく救い出し、冷え切っていた体を温めてくれた、世界でたった一つの愛しい気配。

 少女の丸い瞳が、パァァァッと満面の笑みへと花開いた。


「ぱぱーーーーーっっっっ!!!!」


 タタタッ!と小さな足で毛布を蹴ると、少女はロイドの胸元へと一直線に飛び込んできた。


「わっ、と……!」


 ロイドがしっかりと受け止めると、少女は小さな両腕でロイドの首にしがみつき、すりすりと柔らかな頬をロイドの頬に押し当ててきた。


「ぱぱ! ぱぱ! あったかい! ぱぱ、だぁいすき!」

「え、ええぇぇぇっ!? パ、パパですの……!? ロイド様、いつの間にこんな大きな……いえ、小さな隠し子を……!?」

「いやいやセリス、違うからね!? 今生まれたばかりだよ!」


 慌てるロイドの腕の中で、少女の小さな金色の尻尾がブンブンと風を切るように激しく振られる。

 そこへ、地上の護衛をしていたフェンネルが、地下の異変を察知して猛ダッシュで駆け下りてきた。


「ご主人様! 無事ですか!? ……って、な、なんですかこのチビ助はぁぁぁっ!? ご主人様の首筋に抱きついてスリスリするなんて、私の専売特許なのにぃぃっ!」


 フェンネルは銀色のモフモフ耳をピンと立て、尻尾を逆立ててキーッと抗議の声を上げた。

 だが、少女はロイドの首にしがみついたまま、フェンネルに向かってあっかんべーと舌を出してみせる。


「パパはヴェルのお膝! ヴェルが一番だもん!」

「な、なんですってぇぇぇっ!? 私の方が先にご主人様の従者になったんだからね!」

「まあまあ、二人とも喧嘩しないで……」


 苦笑いするロイド。その時――。


 ぐうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……。


 洞窟全体に響き渡るほど、豪快で可愛らしい腹の虫の音が鳴り響いた。

 少女はぽかんとお腹に手を当てると、大きな黄金の瞳にじわりと涙を溜め、ロイドの服の裾をキュッと握りしめて上目遣いで訴えかけてきた。


「ぱぱ……ヴェル、お腹ぺこぺこ……。なにか、あまーいもの、たべたい……!」

「ヴェル……それが君の名前かい?」

「うん! ヴェルザ! でもパパはヴェルって呼んでいいよ! ヴェル、お腹すいて力が出ないの……ぐすっ」


 数千年間も絶食していたのだから、腹が減るのも当然だった。

 しおれた竜の翼と、ぺたりと垂れ下がったツインテールが、あまりにも庇護欲をそそる。

 ロイドはたまらなく愛おしくなり、ヴェルザの小さな頭を優しく撫でた。


「よしよし、ヴェル。地上に戻ったら、世界で一番甘くておいしい、特製のおやつをたっぷり作ってあげるからね」

「ほんとう!? パパ、やったぁぁぁぁっ!!」


 ヴェルザは飛び跳ねてロイドの首に再び抱きつき、ちゅっとロイドの頬にキスをした。

 その光景を後ろから見ていたセリスが、頬を赤らめながら「くっ……なんという破壊的な愛らしさ……!」と胸を押さえ、ルシアは無表情のままメモ帳を取り出して「パパ概念の登録、および専任甘味給餌プロトコルの策定を開始」と記録していた。

 こうして、エデンに新たな家族――神話の幼女竜姫ヴェルザが加わったのである。

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