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第41話:『エデン自由クリーン連邦』の独立建国宣言~世界樹の芽吹き~

抜けるような真っ青な空の下、心地よい初夏の風が吹き抜けるエデンの中央大広場。

 白亜の美しい石畳の上には、帝都の圧政とヘドロ地獄から逃れてきた数万人の新市民、名匠ゴラン率いる大工や鍛冶屋の職人たち、そして以前からこの地でロイドとともに暮らしてきた仲間たちが、一堂に集結していた。

 広場を囲むように咲き誇る色とりどりの花々と、エメラルドグリーンに輝く芝生。

 かつて世界で最も忌み嫌われた死のゴミ捨て場だったこの地は、いまや大陸のいかなる大都市よりも清潔で、生命の輝きに満ちあふれていた。

 広場の中央に設けられた白亜の演壇へと、真紅の壮麗なドレスを身にまとったアリアが優雅な足取りで登壇した。

 彼女の手には、金箔で縁取られた一枚の羊皮紙――これからの新たな国家の理念を記した憲章が握られている。

 アリアは群衆を見渡し、鈴を転がすような、しかし凛として力強い美声を青空へと響かせた。


「市民の皆様! 本日、この記念すべき日において、私たちは宣言いたします! 民を搾取し、大地を汚し、命をゴミのように使い捨てて自滅した腐敗のオルディス帝国と完全に決別し――誰もが生まれや身分によって差別されることなく、己の誇りある労働と技術によって豊かな幸福を築き上げる新しい希望の国、『エデン自由クリーン連邦』の独立建国を、ここに高らかに宣言いたします!」


 ワァァァァァァァァァッッッッッ!!!!


 天を衝くほどの、地鳴りのような万雷の拍手と歓声が爆発した。

 職人たちは仕事着の帽子を空へと投げ上げ、子供たちは母親の手を引いて跳びはね、老人たちは溢れる涙を拭いながら手を取り合って喜びを分かち合う。

 身分による支配も、理不尽な重税も、不衛生な環境もない。

 誰もが人間として尊重され、清潔な水と豊かな食糧を分かち合える理想郷の誕生を、数万の民が心の底から祝福していた。

 歓声の渦が最高潮に達した時、アリアは優雅に一礼し、演壇の傍らに立つ青年に向かって恭しく手を差し伸べた。


「そして――この奇跡の楽園を創造し、私たち全員の命を救ってくださった、我が連邦の終身名誉指導者にして最高主権者……ロイド・クレイン様です!」


 ウオオオオオオオオオオオオッッッ!!

 ロイド様! ロイド様! ロイド様!!


 割れんばかりのロイドコールが広場を埋め尽くす。

 ロイドはいつもの飾り気のない青い作業着のまま、少し照れくさそうに頭を掻きながら演壇の前へと進み出た。

 彼の両隣には、白銀の聖女装束を纏ったセリス、忠誠の光を瞳に宿した魔導人形のルシア、そして誇らしげに胸を張るフェンリル犬のフェンネルがぴったりと寄り添っている。

 ロイドは民衆の温かい笑顔を見つめ、静かに、しかし一人一人の胸の奥深くまで染み渡る澄んだ声で語りかけた。


「みんな、集まってくれてありがとう。……ぼくは偉大な王になりたいわけでも、世界を征服したいわけでもないんだ。ぼくはずっと、ただの掃除屋だった。誰かが散らかしたゴミを片付け、壊れたものを直して、みんなが気持ちよく暮らせる場所を守りたかった。それだけだったんだ。でも……帝国はぼくの仕事を無能だと切り捨てた。そして、みんなの尊い暮らしや命までをも、ゴミのように踏みにじった。……そんな理不尽な世界は、もう終わりにしよう。このエデンでは、どんな仕事も尊い。泥を払う者も、パンを焼く者も、家を建てる者も、みんなが等しくこの街を支える大切な宝物だ。みんなで助け合って、世界で一番綺麗で、誰もが笑顔で暮らせる温かい国を……一緒に作っていこう!」


 ロイドの飾らない、真心のこもった言葉に、数万人の民衆が熱い涙を流して深く頷いた。

 そして――ロイドは演壇を降りると、広場の中央にある透き通ったオアシスの泉のほとりへと静かに歩み寄った。

 彼が膝をつき、大地に素手を触れたその瞬間。


「万物の澱みを祓い、星の原初の息吹を解き放て――《原質創世解体・大樹覚醒》」


 キィィィィィィィィン……!!


 泉の底から、この世のものとは思えないほど神聖で甘やかな鈴の音が響き渡った。

 ロイドの手から解き放たれた解体エネルギーが、大地と水脈の奥底に数万年かけて沈殿していた微小な穢れを分子レベルで完全に消滅させ、星の核から湧き出る純粋無垢な始原エーテルを優しく励起させたのだ。

 次の瞬間、泉の中央から、黄金とエメラルドグリーンの眩い光の柱が天に向かって真っ直ぐに立ち昇った。

 ザパァァァンッ!

 水面を突き破って現れたのは、一本の神々しい若木だった。

 その樹木は、ロイドの創世の魔力を全身に浴びて、目を見張るほどの勢いでぐんぐんと天を目指して急成長を開始した。

 太く逞しい幹は白銀の樹皮をまとい、幾千、幾万にも枝分かれした壮麗な枝葉が、エデンの街全体を包み込む巨大な緑の天蓋となって空一面に広がっていく。

 葉の一枚一枚が朝露のような清冽な光を放ち、そよ風が枝を揺らすたび、キラキラと輝く星屑のような光の胞子が、淡雪のように街中へと降り注いだ。


「……マスター、生体および環境波長スキャン完了」


 ルシアが無表情のまま、しかしその瞳に確かな驚嘆の色を灯して報告を口にした。


「神話の創世記において星の大気を循環させていたとされる原初概念樹――『世界樹(ユグドラシル)』の完全覚醒を確認。放出される生体活性フォトンにより、連邦全域の病原菌消滅率百パーセント、土壌肥沃度測定不能、住民の自然治癒力三百倍に向上。……これ以上の環境浄化は、理論上不可能です」

「あぁ……なんという奇跡……! 神話の世界樹が、ロイド様の手によって、いまこの地上に蘇ったのですわ……!」


 セリスは両手を組んで祈りを捧げ、頬を伝う歓喜の涙を止められなかった。

 世界樹から降り注ぐ光の粉を浴びた民衆は、長旅の疲れも、過去の病も、心の古傷もすべて瞬時に癒やされ、全身に満ちる生命の力に圧倒されて歓喜の声を上げた。

 かつて大陸で最も絶望に満ちていた死の廃棄谷は、神話の奇跡と民の笑顔が集う、地上で最も清らかで強大な独立国家『エデン自由クリーン連邦』として、全世界に向けて堂々たる産声を上げたのである。

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