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第38話:廃棄物からの超高層建築資材錬成~白亜の摩天楼~

無様な元勇者レオンと悪徳貴族バルトを泥沼へと容赦なく蹴り飛ばし、エデンに再び清々しいそよ風が吹き抜けた。

 青空の下、満開の花壇に囲まれたテラス席で、ロイドは淹れたてのハーブティーを一口飲み干すと、ゆっくりと立ち上がった。

 彼の視線が向けられたのは、エデンの美しい緑のさらに外側――果てしなく広がる廃棄谷の広大な窪地だった。

 そこには、過去数百年にわたってオルディス帝国の贅沢と浪費の果てに投棄され続けてきた、天文学的な量の産業廃棄物と都市瓦礫が、まるで死んだ巨人の骨のように幾重にも折り重なって山を成していた。

 地震や戦火で崩落した旧帝都の城壁の巨大な外壁石、大火災で焼け落ちた大聖堂の巨大な大理石柱、雨風に晒されて黒ずんだ花崗岩の瓦礫、そして酸化して赤黒く錆びつき、危険な残存魔力をチリチリと放つ旧式魔導合金の塊。

 常人の目から見れば、それは大地を永遠に汚染し尽くす絶望的なゴミの海、近づくことすら忌避される死の領域にしか見えない。

 だが――あらゆる物質の分子結合と原質の輝きを見通すロイドの蒼い瞳には、それらは世界で最も贅沢で、もっとも美しく強靭な『至高の建築資材の宝庫』として燦然と輝いて映っていた。


「ロイド様、先ほど申し上げました、国境付近の避難民に関する緊急の調査報告書が上がってまいりましたわ」


 軽やかな足音とともに、アリアが羊皮紙の分厚い書類の束を胸に抱き、真剣な面持ちで歩み寄ってきた。

 風に揺れる金の巻き毛、整った理知的な顔立ちには、商人としての冷徹な計算と、ひとりの人間としての深い憂慮が同時に刻まれていた。


「帝都の毒ヘドロパニックと、重税を課して私腹を肥やす腐敗貴族たちの暴政から逃れるため、いまや数千、数万という平民や下層労働者、そして職人たちが、決死の覚悟で国境の荒野を越え、この廃棄谷の周辺へと押し寄せておりますの。……驚くべきことに、その避難民の中には、かつて帝都のインフラと経済を陰で支えていた一流の大工ギルドの棟梁や、神聖魔導具の加工を手がけていた鍛冶親方、熟練の治水技師、農業従事者、仕立て屋、そして宮廷を追われた学者たちも多数含まれていますわ。彼らを正式にエデンの住民として受け入れることができれば……我がエデンは単なる快適なオアシスを超えて、大陸屈指の高度な生産性と文化を誇る、自給自足の巨大な都市共同体へと一気に飛躍できますわ!」


 アリアは熱弁を振るいながらも、ふっと困ったように眉をひそめ、深いため息をついた。


「ですが……現実的な問題として、収容能力がまったく追いつきませんの。数千、数万人もの人々が凍える夜をしのぐ住居、衛生的な上下水道、工房や炊事場を短期間で建設するなど、いかに私が全財産を投じて周辺諸国から良質な木材や石材を買い集めたとしても、早くても半年、下手をすれば一年以上の歳月と莫大な輸送人手が必要になりますわ……! このままでは、冬が来る前に大勢の避難民が荒野で凍死してしまいます……!」

「木材や石材を買い集める必要なんて、最初からどこにもないよ、アリア。ほら、あそこに山ほど転がっているじゃないか」

「えっ……? あ、あそこって……まさか、あの数十万トンもある不気味な瓦礫と赤錆のゴミ山をお使いになるおつもりですの……!?」


 驚愕して目を丸くするアリアをよそに、ロイドは心地よさそうに作業着の袖をまくり、数百年分の瓦礫が堆積する広大な窪地の中央へと軽やかな足取りで歩みを進めた。

 その背後へ、音もなく寄り添ったのはルシアである。

 透き通るような白磁の肌を持つ魔導人形の少女は、ロイドの意図を完璧に察知し、瑠璃色の瞳から網目状の精密走査光(スキャンレイ)を窪地全体へと放射した。


「マスター、空間スキャン完了。対象エリア内に堆積する廃棄石材および金属廃棄物の総質量、およそ三百四十万トン。内訳:高密度石灰岩四十二パーセント、玄武岩および花崗岩三十一パーセント、劣化ミスリル合金十一パーセント、粗悪鉄鋼九パーセント、不純珪素化合物七パーセント。内部クラックおよび酸化腐食による構造的欠陥率は七十二パーセント。……解体再構築シークエンスの構造座標および分子配列グリッドを展開します」

「ありがとう、ルシア。完璧な解析データだ。……よし、それじゃあ始めようか。遠くから逃げてきたみんなが、安心して足を伸ばして、笑顔でぐっすり眠れる最高の街を作ろう!」


 ロイドは両腕を天に向かって大きく広げ、自身の体内に脈打つ無限の魔力――あらゆる物質の原初を司る『解体』の根源力を、足元の大地へと一気に解き放った。


「――万物の鎖をほどき、真なる調和を以て結び直せ。《原質超広域解体再構築(グランド・ディスアセンブル・リビルド)》ッッッッ!!!!」


 ズズズズズズズズズズズズッ……!! ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 天地がひっくり返ったかのような、凄まじい地鳴りが廃棄谷全域を揺るがした。

 ロイドの掌から放たれたのは、新緑のエメラルドグリーンと白銀の粒子が織りなす、天を突くほど巨大な光のドームだった。

 その光の奔流が、三百四十万トンにおよぶ巨大な瓦礫の山を瞬く間に飲み込んでいく。

 常識的な分解魔法ではない。

 ロイドの解体波は、分子、さらには原子の結合力そのものへと直接干渉し、数百年かけて岩石に染み付いた汚水、油煙、煤、タール、酸化した赤錆の不純物分子を、ミリ秒単位で完全に剥離・分解していった。

 分離された不純物は、無害な炭酸ガスと水分へと還元され、天に向かって爽快な蒸気となって霧散していく。

 そして――不純物を極限まで削ぎ落とされた超高純度の珪素、カルシウム、炭素、ミスリル、そして古代の建築材に微量に含まれていた神話金属オリハルコンのエーテルが、空中で眩い純白の結晶となって再結合を開始した。


 カチャカチャカチャカチャッ! キィィィィィン! ズズズズズッ!


 空中で組み上げられていくのは、ダイヤモンド以上のモース硬度を誇り、完全防魔・半永久耐久・断熱保温性能を兼ね備えた、人類史上かつて存在したことのない奇跡の新素材――『超神石ブロック』。

 その純白のブロックが、ロイドの頭脳に描かれた完璧な都市設計図に従って、磁石に引き寄せられるかのように空中で精密に組み合わさっていく。

 見る見るうちに姿を現すのは、陽光を浴びて神々しく輝く白亜の多層集合住宅群。

 各住戸にはたっぷりと柔らかな光が差し込む大型ガラス窓が嵌め込まれ、室内は常に快適な室温を保つ自動調温結界が組み込まれている。

 さらに、地下には下水中のアンモニアや有機物を瞬時に浄化して無害な肥料水へと変える最先端の分解下水道が網の目のように張り巡らされ、地上には子供たちが安全に駆け回れる緑豊かな大広場、頑丈な耐火耐震工房街、そして名水オアシスから澄んだ温水が引かれた巨大な共同大浴場が立ち並んだ。

 作業開始から、わずか半日。

 かつて悪臭と毒煙が立ち込め、誰もが目を背けていた死の瓦礫捨て場だった窪地に、数万人もの市民が即座に快適に暮らせる、白亜の美しい摩天楼都市の基盤が忽然と完成していたのである。


「な……なんという美しさですの……! 神話の時代に存在したとされる天空都市ですら、これほど洗練されてはいませんわ……!」


 アリアは開いた口が塞がらない様子で、白亜の摩天楼を見上げて震えていた。

 セリスもまた、聖女としての祈りも忘れてその場にへたり込み、涙ぐみながら呟いた。


「数百年分のゴミが……こんなに清らかで温かい、人々を救う街に生まれ変わるなんて……。ロイド様のお力は、破壊ではなく、真の命の再生そのものです……!」

「ふふ、喜んでもらえてよかったよ。さあ、次は温かいご飯を用意して、遠くから歩いてきたみんなを迎え入れよう!」


 ロイドは汗一つかかぬ爽やかな笑顔で、街の完成を祝う仲間たちに優しく微笑みかけたのだった。

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