↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/66

第30話:忠犬モフモフ護衛フェンネル~「ご主人様、頭撫でて!」~

エデンのログパレスへと連れ帰られたフェンネル。

 まずはナノ霊薬温泉の清潔なお湯で、長年の闘技場の砂埃や油煙を洗い流すことになった。

 浴室では、セリスとルシアが優しくフェンネルの身体を洗ってやる。


「フェンネルさん、背中をお流ししますね。痛むところはありませんか?」

「あ、ああ……痛くない。痛くないけど……なんだか、くすぐったいな」

「本機の超音波洗浄ブラシにより、毛並みの奥に残留した微細な埃を完全除去いたします」


 お湯から上がったフェンネルの毛並みは、まるで最高級のシルクのようにふわふわで、光を浴びてキラキラと白銀に輝いていた。

 ルシアから貸してもらった柔らかなコットンのチュニックを身に纏い、リビングへとやってきたフェンネルの目の前には、目も眩むようなご馳走が並んでいた。

 ロイドが腕によりをかけて作った、名水のポトフシチュー。

 新鮮な野菜と柔らかな肉がゴロゴロと入り、湯気とともに豊かなハーブの香りが立ち上っている。

 さらに、焼き立てのふかふかの白パンと、ロイド特製の純白グラニュー糖をふんだんに使った甘い野イチゴのジャム。


「フェンネル、お腹が空いているだろう。遠慮しないでいっぱい食べてくれ」

「こ、これ……あたいが食べていいのか……? 闘技場では、腐ったパンの耳と泥水しか貰えなかったのに……」

「もちろん君のご飯だよ。好きなだけ食べていいんだ」


 フェンネルは恐る恐るスプーンを手に取り、シチューを一口口に運んだ。

 その瞬間――!


「…………っっっっ!?」


 フェンネルの銀色の耳が、ピーンと垂直に直立した。

 口いっぱいに広がる、暴力的なまでの旨味と優しい温もり。

 野菜の甘み、肉のジューシーさ、そして五臓六腑に染み渡る澄み切ったスープのコク。

 イチゴジャムを塗ったパンをかじれば、サクッとした食感の後に、天国のような甘美が口いっぱいに弾けた。


「んんんんんっ……! う、うまい……! うまいよぉぉぉっ……!」


 フェンネルは涙をボロボロと流しながら、夢中で器を抱え込んで料理を平らげた。

 大鍋いっぱいのシチューと五人分のパンが、あっという間にフェンネルの胃袋へと消え去っていく。

 そして、お腹いっぱいになり、プハァと息をついたその瞬間――。

 ドスンッ!


「ぶふっ!?」


 ソファで紅茶を飲んでいたロイドの膝の上に、フェンネルがいきなり勢いよく飛び乗ってきた。

 両手でロイドの首筋をぎゅっと抱きしめ、頬をスリスリとすり寄せてくる。

 白銀の豊かな尻尾が、ブンブンと猛烈な勢いでプロペラのように左右に振られ、風圧で部屋のカーテンがバサバサと揺れるほどだった。


「お、おいフェンネル!? どうしたんだ急に!?」

「ご主人様! あたいの命は、全部あんたのもんだ!」


 フェンネルは爛々と輝く緋色の瞳で、ロイドを真っ直ぐに見つめ上げた。

 そこには、先ほどまでの鋭い警戒心など微塵も残っていない。

 あるのは、全身全霊の忠誠と、狂おしいほどの甘え心だけだった。


「銀狼族の戦士は、命を救ってくれた最強の主に一生の忠誠を誓う掟なんだ! あたいの故郷の村は、昔、帝国の兵士たちに焼き払われて、あたいは奴隷として売られた。誰も信用できなかった……人間なんて全員大嫌いだった! でも……あんたは違った! あたいを苦痛から救ってくれて、こんなに優しくしてくれた人間は、あんたが初めてだ! あたい、一生あんたの傍を離れない! 誰があんたに手を出そうとしても、あたいが全員噛み殺してやる!」

「か、噛み殺さなくていいから! 物騒なことを言うんじゃない!」

「えへへ……ご主人様、いい匂いするな。……あたいの頭、撫でてくれよ。な? ご主人様の手、すごく温かくて大好きなんだ」


 フェンネルは銀色の三角耳をペタリと倒し、ロイドの大きな手に自ら頭をすり寄せてきた。

 まるで甘えん坊の子犬そのもの。

 ロイドが苦笑しながらワシャワシャと耳の付け根を撫でてやると、フェンネルは「くぅ~ん……」と喉を鳴らしてとろけそうな恍惚の表情を浮かべた。

 だが――その平和な空間に、背後から凍りつくような冷気が漂ってきた。


「警告。フェンネル個体のマスターに対する過剰なスキンシップは、風紀紊乱およびマスターのパーソナルスペース侵害に該当します。……直ちにマスターの膝上からの退去を要求します」


 ルシアが腕のミスリルブレードをシャキンと抜き放ち、無表情のまま冷徹な視線をフェンネルに突き刺していた。

 さらに、セリスもお盆を抱えながら、頬を真っ赤にしてぷくーっと膨らませている。


「そ、そうですフェンネルさん! ロイド様のお膝の上は……い、いえ、ロイド様にお甘えするのは、抜け駆けです! 私だって、まだロイド様にお膝枕をしていただいたことがありませんのに……!」

「あぁん? なんだよ二人とも! あたいはご主人様の専属護衛だぞ! 護衛が主人の傍にいて何が悪いんだよ! あっかんべーだ!」


 フェンネルはロイドの腕にさらにぎゅーっと抱きつき、二人のヒロインに向かってペロッと舌を出した。


「マスター、害獣の毛羽立ちを検知。物理的切除を推奨」

「抜け駆けは許しませんっ!」

「わーっ! みんな仲良くしなさいって!!」


 ロイドの絶叫がログパレスに響き渡り、エデンの日常はますます賑やかさを増していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。