第25話:音もなくバラバラになる鎧と馬車~指先一つの《瞬間全分解》ザマァ~
「ロイド様!」
「マスター、迎撃します!」
「いいよ、二人とも下がっててくれ。……あんな連中に、君たちの手を汚させる必要はない」
ロイドは静かな足取りで、前へと一歩踏み出した。
突進してくる五十名の重装装甲歩兵。
全身を分厚い黒鉄のプレートで覆い、手にした両手剣の切っ先が、ロイドの眉間と喉首めがけて一斉に振り下ろされる。
常人であれば、次の瞬間にはミンチ肉となって四散しているはずの必殺の刺突。
だが、ロイドの瞳には、恐怖も動揺も欠片もなかった。
ロイドは、パチン、と小気味よい音を立てて右手の指を鳴らした。
「――《瞬間原質全解体》」
カチャチャチャチャチャチャッッッッ!!
大気中に、数万個の精密な留め金が一斉に弾け飛んだような、乾いた甲高い金属音が響き渡った。
次の瞬間。
「…………え?」
先頭を走っていた大柄な兵士が、ぽかんと間抜けな声を漏らした。
ロイドの喉首に突き刺そうとしたはずの巨大な両手剣の刀身が――忽然と姿を消していたのだ。
手元に残っているのは、滑り止めの革紐が巻かれた木製の『柄』だけ。
そして――異変はそれだけに留まらなかった。
バラバラバラバサァァァッッッ!!
「「「ぎゃあああああああああっっっ!?!?!?」」」
五十名全員の重装甲鎧を繋ぎ止めていた、数万本のリベット、ボルト、革ベルトの留め具、肩当ての蝶番が――分子単位で完全に結合を解除され、一瞬にして音もなく足元に崩れ落ちたのだ。
ドサドサと鈍い音を立てて足元に積み上がる、ただの平らな鉄板の山。
そして、白日の下に晒されたのは――。
全身の重装甲を一瞬で奪われ、白いブリーフやトランクス一丁の姿で立ち尽くす、五十名の筋骨隆々な男たちの無惨極まりない下着姿だった。
「な、なんだぁぁぁっ!? 俺の鎧が!? 装甲がぁぁぁっ!?」
「す、涼しい……じゃなくて、パンツ一丁だぁぁっ!?」
「お、俺の大剣の刃はどこへ行ったぁぁぁっ!?」
前代未聞の怪現象に、兵士たちは股間を両手で押さえながら、情けない悲鳴を上げてパニックに陥った。
その光景を見て、ガストン子爵は目を血走らせ、顎髭を震わせた。
「ば、化け物め! 退け、貴様ら! 我が最新鋭の鉄鋼戦車馬車の魔導連装機関砲で、ミンチにしてくれるわぁぁぁっ!」
ガストンは自慢の装甲戦車馬車へと飛び込み、ハッチを閉めようとした。
ロイドは、逃げ込もうとする十トンを超える巨大な鉄鋼馬車に向けて、スッと右手の人差し指を向けた。
「――解体」
ストン……。
耳を澄まさなければ聞こえないほど、静かな音が一つ。
次の瞬間、分厚い魔導装甲板を繋いでいた数千本の高強度ボルト、車輪の車軸、エンジン機関のギア、緩衝スプリングのすべてが、まるで手品のようにスルスルと抜け落ちた。
支えを完全に失った最新鋭の鉄鋼戦車馬車は――。
グシャァァァァンッ!!
一瞬にして、ただの平らな鉄板と歯車のクズの山へと、自重でペシャンコに圧壊した。
「ぎゃべぇっ!?」
潰れた鉄板の隙間から、這う這うの体で這い出してきたガストン。
自慢の金ピカの高級鎧も、将官の軍服もすべて弾け飛び、トレードマークのブリーフすら破れ果てて、真っ赤な水玉模様の猿股一丁の姿をさらけ出していた。
土埃まみれの猿股姿でガタガタと震えるガストンの元へ、ロイドがゆっくりと歩み寄る。
「ひ、ひぃぃぃぃっ! な、何なんだ貴様はぁぁぁっ!? どんな魔法を使ったぁぁぁっ!?」
「魔法なんかじゃないですよ、子爵閣下」
ロイドは冷ややかな目で、足元に這いつくばるガストンを見下ろした。
「俺はただの清掃員です。あんたたちの持ち物が全部『ゴミ』に見えたので、綺麗に分別解体しておいただけですよ。……帝都へ帰って、皇帝にそう伝えてください。『俺はもう帝国市民じゃない。今さら泣きついてきても、あんたたちのゴミは二度と回収しない』ってね」
「ヒィィィィィッ!!」
ズドォォォォンッ!!
ルシアが上空に向けてミスリルバスターの威嚇砲撃を一発放つと、爆風でガストンの猿股がさらにズリ落ちかけた。
「ひ、引き上げだぁぁぁっ! 退却ぅぅぅぅっ!!」
ガストンとパンツ一丁の五十名の兵士たちは、股間を必死で押さえながら、泣き叫んで帝都の方角へと一目散に逃げ去っていったのだった。




