第24話:傲慢な帝国査察官の来襲~「すべての財産を帝国へ差し出せ」~
ドガシッ、ドガシッ、ドガシッ……!
大気を震わせる重苦しい鉄の足音と、地鳴りのようなキャタピラの轟音が、エデンの静寂を無惨に引き裂いた。
木漏れ日が心地よい午後。
ログハウスの前庭、木製のテラス席で、ロイドはセリスが淹れてくれた砂糖入りミルクティーを味わいながら、のんびりと読書を楽しんでいた。
ルシアが傍らでクッキーを補充し、セリスが嬉しそうに微笑んでいる。
そんな至福の団欒を破って現れたのは、もうもうと砂煙を上げて乗り込んできた、帝国軍の一団だった。
黒光りする頑丈なフルプレートメイルを身に纏い、抜き身の大剣を掲げた屈強な重装歩兵五十名。
そして、その中央に鎮座する、分厚い魔導装甲板で覆われた超重量級の鉄鋼戦車馬車。
馬車のハッチが開き、顎髭を生やした筋骨隆々の男――ガストン子爵が、ドカドカと傲慢な足取りで降り立ってきた。
「ふん……。ここが死の廃棄谷だと聞いて来てみれば……おいおい、一体どういうことだ?」
ガストンは太い葉巻を口に咥え、紫色の煙を吐き出しながら、ギラギラとした欲望の目でエデンの光景を見回した。
毒ガスが吹き荒れているはずの谷底に広がる、鮮やかな緑の芝生とエメラルドグリーンのオアシス。
宮殿の離宮のように美しく建てられたヒノキの巨大ログハウス。
そして――何よりもガストンの目を釘付けにしたのは、ロイドの背後に控える二人の絶世の美少女だった。
純白のメイド服を完璧に着こなし、陶器のように滑らかな肢体を持つ機巧天使ルシア。
そして、陽光に輝く黄金の髪をなびかせ、白磁の柔肌を覗かせるエルフの絶世の美女セリス。
「ひゃっほう……! こいつはたまらん! 帝都のどんな高級貴族サロンにもいない極上の女が二匹も侍っているではないか!」
ガストンは下卑た舌なめずりをし、腰に差した巨大な両手剣の柄に手をかけながら、ロイドの目の前へとズカズカと詰め寄った。
「貴様が元清掃員のロイドだな? 帝国軍特務査察官、ガストン子爵である!」
「……査察官? 帝国の役人の方が、こんな世界の果てのゴミ捨て場に何の用ですか?」
ロイドは紅茶のカップをソーサーに置き、穏やかに問い返した。
その平然とした態度が、ガストンの傲慢なプライドを逆撫でした。
「とぼけるなよ、薄汚い平民風情が!」
ガストンは大剣の鞘で、ロイドのテラス席の木製テーブルをドカンと乱暴に打ち据えた。
「貴様! 帝国の直轄領であるこの終末の廃棄谷を勝手に不法占拠し、さらに帝国軍の資材を横領してこんな豪勢な屋敷を建ておったな! その女たちも、帝国の重要魔導兵器と逃亡聖女ではないか! 盗人の分際で、いい身分じゃないか!」
「ロイド様を侮辱するな、下劣な豚野郎……!」
セリスが怒りに翡翠色の瞳をつり上げ、指先から神聖魔力のスパークを迸らせた。
同時に、ルシアの右腕がガシャリと変形し、黒光りするミスリルバスターの銃口がガストンの眉間にピタリと突きつけられた。
「マスター、ターゲットの頭部粉砕シークエンスを開始します。射撃許可を願います」
「待て待て、二人とも落ち着いて」
ロイドは片手を上げて二人を制すと、冷ややかな、だが静かな視線をガストンに向けた。
「俺は正規の手続きで帝国から解雇され、ここへ来た。横領など一切していない。ここにあるものはすべて、あんたたち帝国が『ゴミ』として投げ捨てたものを、俺が片付けて作り直しただけだ」
「黙れぇぇぇっ! 帝国のゴミは帝国の所有物だ! 貴様に所有権などあるものか!」
ガストンは懐から、金色の皇帝紋章が押された羊皮紙の勅命書をバッと広げて突きつけた。
「アルブレヒト四世陛下からの勅命である! 貴様には首輪と手枷をはめ、帝都へ連行する! 中央炉のヘドロを、死ぬまでタダ働きで素手で掃除させてやるのだ! そしてここにある屋敷も、物資も、その極上の女二匹も、すべて帝国軍が没収し、俺の私有財産として可愛がってやる! 逆らうなら、その場で手足を叩き折って引きずっていくまでよ!」
ガストンは獰猛な笑みを浮かべ、背後の五十名の重装歩兵たちに号令を下した。
「おい、者ども! このゴミ拾いを縛り首にしろ! 女たちは傷つけるなよ、今夜俺のベッドで泣かせてやるからな!」
「「「オォォォォォッ!!」」」
重装歩兵たちが一斉に大剣を抜き放ち、金属音を轟かせてロイドへと殺到した。




