第22話:不壊のオリハルコン調理具・農具~帝都市場を揺るがす奇跡の逸品~
「あ、そうだアリア。ついでにこれも持っていくかい?」
契約を交わした翌朝、出発の準備を整えるアリアの前に、ロイドが物置小屋からカランカランと音を立てて銀色の金物をいくつか運び出してきた。
フライパン、包丁、寸胴鍋、そして畑仕事用の頑丈な鍬とスコップ。
どれも銀白色の神秘的な輝きを放ち、表面には微かな虹色の燐光がまるで生き物のように走っている。
「……なんですの、このお鍋とフライパン? 銀食器にしては、やけに重厚で美しいですわね。それにこの包丁、見ているだけで吸い込まれそうな刃文ですけれど……」
「ああ。ゴミ捨て場に山積みになってた、帝国軍の旧式魔導戦車の装甲板と錆びた鉄屑を解体してな。不純物を全部抜いて炭素とミスリル、それに神話級のオリハルコン分子を黄金比で均質結合させたんだ」
「お……お……」
アリアの喉から、奇妙な音が漏れた。
「オリハルコンですのぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
ログハウスのリビングに、アリアの絶叫が響き渡った。
神話の金属、オリハルコン。
古代ドラゴンの牙すら通さず、神々の武具や伝説の聖剣にしか用いられないはずの至高の超希少金属。一グラムで城が一つ建つと言われるその神話を――。
「ふ、フライパン!? 包丁!? クワにスコップですってぇぇぇっ!? 世界中の騎士や魔導師が喉から手が出るほど欲しがる神話の超金属を……家庭用調理器具と農具に使ったんですの!?」
「これ、絶対に焦げ付かないし、どんな硬い肉でも骨ごとスパッと切れるんだ。ダイヤモンドを切っても刃こぼれ一つしないぞ。農具の方も、どんな岩盤でもサクサク耕せるんだが、うちの畑には数が余っててね。捨てるのも勿体ないから、使ってくれる人に売ってくれ」
「ふ、フライパンにオリハルコンを使う人間が、この世のどこにいますのよ……! 頭が痛くなってきましたわ……!」
アリアはこめかみを押さえてクラクラとよろめいたが、次の瞬間、その琥珀色の瞳に商人の獰猛な野心の炎がメラメラと燃え上がった。
「……ですが! これ、帝都の超高級三ツ星レストランの総料理長や、鉱山開発・大規模開拓に悩む大貴族に見せたら、間違いなく白目を剥いて全財産を投げ出してきますわ! 任せてくださいまし、ロイド様! 必ずや、帝都中の富を根こそぎ吸い上げてみせますわ!」
アリアは息を吹き返した馬車(ロイドが解体・再構築で新品同様に強化した快速仕様)に、【至高の純白グラニュー糖】の樽と【オリハルコン調理具・農具】を積み込み、意気揚々と帝都へと引き返していった。
そして――アリアの商人としての直感は、恐ろしいほどの精度で的中した。
帝都オルディスに持ち込まれた純白の砂糖は、アリアの旧友である伯爵令嬢のティーサロンで一口振る舞われた瞬間に、社交界の貴婦人たちを狂喜乱舞させた。
『こんな至高の甘み、生まれて初めて!』『どんな大金を積んでもいいから譲って!』と貴婦人たちが殺到。
さらに、オリハルコンの万能包丁は、宮廷料理長が自らアリアの元へ駆けつけ、涙を流して土下座し、金貨五百枚で即決購入。
わずか五日のうちに、帝都の経済界は「アリア商会が独占販売する奇跡の特産品」の話題で持ちきりとなった。
アリアは瞬く間に金貨数千枚の純利益を叩き出し、背負わされていた借金を一括で完済。
アリアを罠に嵌めた悪徳高利貸しと腐敗貴族は、アリアが握った圧倒的な資金力と大貴族たちの支持によって逆に商会を買収され、全財産を没収されて破滅へと叩き落とされたのである。




