第19話:大陸一甘く白い奇跡の結晶~【至高の純白グラニュー糖】~
光が収まった時、そこにはもはや、悪臭を放つ腐った生ゴミの山など欠片も存在しなかった。
ロイドの目の前にあったのは、ロイドがミスリル板から錬成した巨大なボウルいっぱいにうず高く盛られた、目も眩むような純白の結晶の山だった。
一粒一粒が精巧なガラス細工のように均一で、午後の陽光を浴びてキラキラと虹色の光彩を放っている。
鼻を近づければ、ただそれだけで脳がとろけそうになるほど甘美で、どこまでも澄み切った清涼なアロマがふわりと漂ってきた。
「……信じられません」
ルシアが指先でその白い粉末をつまみ、自らの口内テスターへと運んだ。
カチ、と内部演算ユニットが高速回転する。
「純度九十九点九九九パーセント。夾雑物、灰分、着色成分、重金属イオン……すべて完全なるゼロを記録。極限まで純化された、完全無欠の純白ショ糖結晶です。……帝室の極秘宝物庫に眠る最高級の南方産精製糖と比較しても、純度・透明度において百倍以上の数値を計測いたしました。この世界に存在し得ない、文字通りの『至高の砂糖』です」
「よし! 大成功だな! これを持って帰って、さっそくお茶にしよう」
ロイドは山盛りのグラニュー糖を麻袋に詰め、ログハウスへと戻った。
キッチンに立ったロイドは、昨日掘り当てた名水オアシスの水をヤカンでシュンシュンと沸騰させた。
乾燥させておいた野生のハーブと茶葉をポットに入れ、沸き立つ熱湯を注ぐ。
琥珀色の美しい紅茶が白磁のカップへと注がれ、湯気とともに豊かな香りがリビングを満たした。
そして――ロイドは銀のスプーンで、山盛りの純白グラニュー糖をすくい、セリスのカップへとサラサラと落とした。
カラン……。
スプーンで軽く混ぜると、純白の結晶はまるで雪が水に溶けるように、一瞬で琥珀色の液体の中へと溶け込んで姿を消した。
「セリス、お待たせ。熱いから気をつけて飲んでみてくれ」
「は、はい……! いただきます……!」
セリスは両手でカップを包み込むように持ち上げた。
立ち上る甘く芳しい湯気を胸いっぱいに吸い込み、恐る恐る、桜色の唇をカップの縁へと近づける。
そして、一口――コクンと喉を鳴らした。
「…………っっっ!?」
その瞬間。
セリスの翡翠色の瞳が、これ以上ないほどに見開かれた。
カタン、とカップを持つ手が小刻みに震え始める。
「セリス? どうした、熱すぎたかい?」
「な……なん……なんですか……これ……っ!?」
セリスは震える声で呟き、自らの喉と胸元を両手で押さえた。
口の中に広がったのは、今までの人生で一度も経験したことのない、圧倒的なまでの甘美の衝撃。
重苦しいエグみも、喉を焼くようなトゲも、不快な後味も一切ない。
まるで春の陽だまりの光そのものを舌の上に乗せたかのような、優しく、どこまでも透き通った高貴な甘み。
それが名水紅茶の芳醇な渋みと完璧に調和し、一口飲むごとに、乾ききっていた細胞の隅々にまで至福の温もりが染み渡っていく。
「あ……甘い……! こんなに……こんなに清らかで、優しい甘さがあるなんて……! 頭のてっぺんから爪先まで、心がポカポカとほどけていくようです……! 美味しい……美味しいです、ロイド様……!」
「はは、良かった。口に合って何よりだよ」
「口に合うなんてものじゃありません……! 私、こんなに美味しいものをいただいたのは生まれて初めてです……! 本当に……本当に天国に来てしまったのでしょうか……!?」
セリスはカップを大切そうに抱きしめ、再びボロボロと嬉し涙をこぼした。
その時。
ガラガラガラ……! ヒヒィィィン!
静寂に包まれていたエデンの外縁部から、けたたましい車輪のきしむ音と、荒れ狂う馬の嘶きが響き渡ってきた。




