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グロウ・ソウル  作者: PIERO
選抜試験編
53/57

猫の洗礼

 密売者達との闘いから三日経過した。和貴とコハルは周囲を警戒して、目的地に向かっているが未だに密売者達が襲撃する気配はなかった。

 森の中を探索していると、突如コハルが手を押さえてこれ以上進むなと警告した。和貴はコハルの目を見ると、目の前を見ろと視線で語っていた。

 和貴はコハルの言う通り、茂みからその先の景色を見た。するとそこには二足歩行している猫の姿がいた。

「・・・あれは一体?」

「あれが真似猫族だ。見た目に騙されるなよ。あいつらは極めて凶悪だ。・・・疑っているのか?」

「いや、疑ってはいないさ。ただ信じられないだけだ。もっとこう・・・凶暴なイメージがあったからな」

 コハルはそう言っても和貴は目の前の光景をすぐに信じることが出来なかった。確かに、普通の猫よりも大きいが、それだけだ。資料でも確認したが、本当にあれが真似猫族だとは思えなかった。

 表情こそ変えなかったが、和貴は真似猫族の様子を観察していた。

 二足歩行の様子こそ可愛らしいが、獣特有の殺気はまるでいつでもこちらを仕留めることが出来るように思えた。

(前言撤回だな。あの殺気は猫が放っている物じゃない。比喩するなら虎かライオンか)

 すると、真似猫族が何やら騒ぎ始めた。和貴とコハルは隠れていたのがばれたのではないのかと思ったが、彼らの様子から見て違うようだった。

 真似猫が何を見ているのかと思い和貴は彼らの視線を辿り、その先を見た。彼らが持っていたのは布だった。

(ただの布か。・・・いや待て。あの布はもしかして軍の物か!?)

 和貴は目をしかめてその布をよく観察した。遠くで素材はよく分からなかったが、そのデザインは間違いなく軍で作られた物であることは確信できた。

「だが、最近軍の地殻で真似猫族が襲撃してきたなんて聞いたことないしな。しかし、あれは間違いなくうちの軍のデザインだし・・・」

「何独り言言ってるんだ?とりあえず、ここから離れるぞ。もしもここがあいつらの拠点ならその数は百を超えるぞ。さっさと撤退して別の道を探そう」

 コハルの意見に和貴は納得してその場から離脱しようとした。すると、ガサッという草むらが揺れる音が和貴の背後からなった。

 和貴はコハルを見たがどうやらコハルも驚きの表情で後ろを振り向いていた。一体誰がと和貴が考えているが時すでに遅く、真似猫族は和貴が隠れている場所へ突撃しようとしていた。

「逃げるぞ和貴!!出ないとめんどくさいことになるぞ!!」

「分かっている!!くそ、一体誰が草むらを揺らしたんだよ、おい!!」

 コハルと和貴は全力で真似猫族から逃げようとして来た道を戻り始めた。真似猫族は和貴達の姿を確認し、追いかけ始めた。

 どうやって大量の真似猫族から撒こうと和貴は考えているといきなり風が頬をかすった。その風は木々を切り裂くように通り抜け、風が当たった場所は横に真っ二つに切り裂かれた。

 和貴は背中に嫌な汗をかき、コハルに問いかけた。

「なぁコハル!!あれが真似猫族の特徴なのか!?」

「そうだ!!あいつらは学習能力がない代わりに、真似するということに関しては天下一品だ!!しかも、()()()()()()()()()()()()()!!だから、あいつらの拠点で戦うということは能力者を多数相手にすることと同じ意味だ!!」

 和貴は心の中で真似猫族の文献に文句を言いたい気持ちだった。何故なら文献には真似が得意としか書かれていないからだ。

 しかし、今はそんなところではない。早く逃げなければ他の能力をぶっぱなしにくるだろう。

「コハル逃げながら倒すのはありか!?」

「なしだ!あいつらが短気ならまだしも、あんなに複数いるなら私達の戦い方を真似られる。そうなると色々面倒だ!」

 走りながら和貴は舌打ちをして、別の手段を探そうとした。すると正面に人影が見えた。もしかして密売者達ではないかと思い、コハルは武器を構える。しかし、それを和貴が押さえた。何故ならその人物は和貴がよく知っている人物だからだ。

「まさかお前がここに来てくれるなんてな!!!・・・・有樹!!能力で俺達をぶっ放て!!」

「なっ!?正気か和貴!?あいつらは見て能力を真似するんだぞ!!そんなことしたら・・・」

 すると準備が整ったのか、有樹は能力を使って和貴に向かって撃ち込んできた。その一撃を和貴とコハルはかわし、背後にいるであろう真似猫族にぶつけた。

 和貴はむせながらも、有樹の所へ向かった。状況が把握できていない有樹は一体何が来たのかわけが分からない状態だった。

「久しぶりだな有樹。ケホッ、ケホッ。お前のおかげで何とか、敵を撒くことができそうだ・・・」

「お前に向かって撃てなんて正気なのかと疑っちまったが、一体何があったんだ?それと、隣のこいつは間違いなく獣人族だよな?一体何が起きてるんだ?」

「話は後だ。そろそろ本命が出てくる筈だ」

 茂みからガサガサと現れたのは三十体ほどの真似猫族だった。そして真似猫族はニャーと叫びながら和貴達に能力を使用し始めた。

 有樹は何となく状況を把握したのか、エンド・ワールドを真似猫族に向け防戦しようとした。しかし、和貴は何も構えないで敵の能力を避けることに神経を傾けていた。

 真似猫族が能力を使い和貴達に攻撃を仕掛けた。能力はやはり、先ほど彼らが見た有樹の能力「衝撃波」だ。有樹は驚愕するも、それ以上の威力で衝撃波を相殺し、コハルと和貴はその衝撃波を回避した。

 コハルは真似猫族に攻撃しようと接近した時、彼らの様子がおかしいことに気付いた。「衝撃波」を使った真似猫族が突如身体中から骨が砕ける音が響き始め、一匹また一匹と倒れていったのだ。

「これは・・・一体どういうことだ?」

「コハルはさっき言ったよな。真似猫族は能力すらも真似するって。だったら、能力の代償も真似してもおかしくない。そう考えて俺は有樹に能力を発動させたんだ。あいつの能力の代償は軽くても腕の骨折、一歩加減を間違えると即死しかねないほど重いからな。そんなリスクが高い能力をぶっぱし続ければ、あいつらの全身の骨が勝手に自壊し、立てなくなく。仮に気が付いたところであいつらは学習能力がないからそんなことも気づかないで能力を使い続ける。その結果、やつらは勝手に自滅する!!」

 最後の真似猫族が衝撃波を使うことがこの戦いの終止符だった。和貴は一息つき、座り込んだ。コハルも同じ気持ちだったのか、その場に膝をついた。そして今の状況を把握できていない有樹が和貴に話しかけた。

「さてと、落ち着いたところで話してくれるよな?何で敵と一緒にいるんだ?」




「なるほどな。こいつを助けたからその礼としてこの森の道案内に使っているというわけか。理由は納得した。だが、森を抜けた後はどうするんだ?流石に基地まで連れて行ったら俺達は人類の裏切り者扱いだぜ?」

「貴様の心配は無用だ。私は砂漠まで案内したらそこで別れる。それと私はコハルだ」

「そうか。とりあえず宜しくなコハル。さて、じゃあ早速基地に向かうとするか」

 有樹はエンド・ワールドに代償石をはめ込んだ後、荷物を持ち基地へ向かおうとした。

「ちょっと待て。有樹、お前の仲間はどこへ行ったんだ?俺みたいな一人で向かったわけじゃないだろう」

「・・・ボッチじゃなかったんだ」

 コハルの余計な一言をあえて聞き流し、有樹の返答を待っていると、途端に雰囲気が変わった。これは殺気ではない。どちらかと言われると悲しみの方だろう。

「俺の仲間は全員死んだよ。それも怪物達じゃない。人間の手によってだ」

「人間か。有樹と言ったか?もしかしてそれって気持ち悪い喋り方をする奴はいたか?」

 コハルの質問に有樹は無言で頷いた。つまり、有樹の仲間は密売者達によって屠られたのだろうと和貴は推測する。

「あいつらが一体に何者なのかは知らないけど、この森にいるのは少しまずいような気がする。一刻も早くこの森から去るとしよう」

「その考えは同感だ。さっさと進まないと森を抜けられるかどうかも心配だ」

 和貴がしゃべったのを最後に和貴達は先へと向かい始めた。そして再び真似猫族の拠点へ辿り着いたが、先ほどとは違い人気が無かった。

「妙だな。さっきは大勢いた筈だ。なのに何故無人なんだ?」

「知らん。だが、私達にとっては好都合だ。この基地をまっすぐに進めば近道になる」

 コハルが先頭になって和貴達が真似猫族の拠点へと侵入し始めた。拠点は真似猫族用に作られているためか、人間が奪い取るには小さすぎた。しかし、その点を除けば立派な拠点であることはすぐに理解できた。

「コハル。少しだけ待ってくれないか?」

「時間が無い。単独行動はやめろ」

「気になる物があったんだ。それを手に入れたい」

「ダメだと言っているだろ?敵がいつこの拠点に戻ってくるのかわからないだぞ」

「だからこそ、このチャンスを物にしたいんだ。もしかしてこの機会を逃すと後で後悔しそうな気がするんだ」

 コハルは有樹の方を見てどうするか確認していると、手を挙げ首を横に振った。和貴はだめかと思ったが、コハルは溜息をつき結論を述べた。

「五分までだ。それ以上は待たん」

 それだけあれば充分だと判断した和貴は先ほどの布が置かれた場所へ向かった。小さな穴倉であったが、しゃがめば充分に和貴の体格の大きさでも入れるスペースはあった。

 戦利品と思われる物から和貴は灰色の布を取り出し、それを手に持った。詳しいことは基地に帰らなければわからないが、それだけ持ちかえれば和貴にとっては充分だった。

 五分間待たせたコハルと有樹に謝りながら合流した和貴は手にした布を有樹の持ってきたリュックに入れてもらえるか交渉した。

「別にいいぜ。一週間以上森にすめば自然とそれくらいのスペースはできるしな。それに、その布は万が一のために使えそうだ。・・・今更なんだが、俺の仲間を殺した人物について和貴は何か知ってるようだな。話してくれないか?」

 別に隠す必要のないことだと判断した和貴は歩きながら有樹に密売者達のことを話し始めた。最後まで反し終えると、有樹はコハルに話し始めた。

「なぁ、コハルは一人で辛くなかったのか?たった一人の獣人族なんだろ?」

「無論、寂しいとも。家族は他の同胞に殺され、親友は人間に攫われた。何度も死のうかと思ったさ。だけど、それは獣人族の敗北を意味する。だからこそ、私はたった一人でもこの命が尽きるまで戦うと決めたのだ。たとえそれが惨めな末路であってもな」

 コハルの瞳はどこか寂しそうだったが、確固とした意志を持っていた。今のコハルなら自殺はきっとしないだろうという安心感と、再び敵になるのかという悲しさで和貴はコハルをどうにかしてころさずに済む方法はないのかと考えてしまう。

(軍人として甘すぎるな。コハルの立場からして、俺達をいつでも殺そうとしてもおかしくはないのに未だ協力してくれている。獣人族の恨みよりも誇りを重視してるなんてなんて精神なんだ)

 和貴はそう思っているといつの間にか真似猫族の拠点を抜けていた。夕方になるにはまだ時間がある。それまでに少しでも歩みを進めたいと思い、和貴達は砂漠に出ようと歩みを進めるのであった。

 



「ふぅー。これでこの畜生どもは全滅したか?っち、面倒なことしやがって。こいつらのせいで和貴を見失っちまったじゃねえか」

 密売者のリーダーは自身のイラつきを地面に転がっている死体、真似猫族を蹴り飛ばして鬱憤を晴らしていた。周りの密売者達も相当てこずったのか、和貴達と戦った時よりもボロボロになっていた。

 密売者のリーダーはこれからどうするか考え始め、この森の周辺の地図を地面に広げた。密売者のリーダーが持っている地図は彼らが所属しているボスから授かった物であり、この世に二つとない貴重な代物であった。

「さて、俺達がいる場所がここだから・・・・あいつらはここか?いや、俺達とは真逆の方向に逃げちまったんだ。それはないか・・・」

 和貴達がどこへ逃げたのか考えていると、密売者のリーダーの携帯電話が鳴り始めた。密売者のリーダーは連絡者が誰なのか確認した後、冷や汗を掻きつつその電話に出た。

「はい私です。・・・はい、獣人族の少女に一杯食わされて現在行方が分かりません。・・・・・はい、わかりました。・・・・なんと!?そんなことしなくても我々だけで!!・・・・・わかりました。お手を煩わせて申し訳ございません」

 密売者のリーダーは電話が切られたことを確認した後に切ると仲間の密売者達に電話の内容を伝え始めた。

「よく聞けお前ら。これからこの地にボスの分身が現れる。名は『シャドウ』。くれぐれも無礼が無いようにしておけ」

 そう言って密売者のリーダーは冷静に部下達に指示を出しつつも、内心冷や汗が洪水のように流れていた。何故なら密売者のリーダーはシャドウの恐ろしさを知っていたからだ。


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