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グロウ・ソウル  作者: PIERO
選抜試験編
51/57

状況把握

 試験が始まって三日後。和貴はコハルの案内の元、ジャングルの中を旅していた。

 生い茂った景色を三日も眺めていると、流石に都会の景色が愛しくなってくる頃であった。一刻も早く戻りたいと思いつつ、和貴はコハルに話かけた。

「なぁ、今どの辺にいるんだ?いつも同じ景色のように見えて道が分からないんだが・・・」

「心配するな。ちゃんと砂漠まで進んでいる。・・・一つ思ったが、和貴は私と最初に出会った場所がどこだか知っているのか?」

 コハルの質問に和貴は疑問に思った。あの試験会場で何も知らされずに飛ばされたのだ.一応ここが南アフリカのどこかということは把握していたが、それ以外のことはわからなかった。

「南アフリカのどこかということだけは把握してる。でもそれだけだ。他は何も知らないしな。疑問に思っていなかったが一体ここはどこなんだ?」

 そう答えると、コハルはあきれた表情で和貴を見ていた。いや、半分以上見下していた。

「・・・・・呆れた。貴様それだけしか知らなかったのか」

「うるせぇ。こっちにも事情があるんだよ。こんな場所に飛ばされることを知ってたら早いうちに対策をしてるさ」

 和貴は半分拗ねた様子でコハルの後を追いかける。和貴は手で生い茂った草木を払いながら前へ進んでいくと、とある木を中心として半径二十メートルほど広い場所へ出た。コハルはその木の前まで歩き、目の前で立ち止まった。和貴は一体何事かと警戒していたが、コハルはそれが分かっていたかのように話を続けた。

「ここがどの辺なのか把握するにはこの木の上を登れば早い話だ。お前が昇るか?」

「・・・おい、本気か?お前が指を指してるその木は一体何メートルあると思ってんだ?はっきり言って五十メートルは優に超えてるぞ!?」

 コハルが指を指した木もとい巨大樹を和貴は見上げながら冷や汗を掻いていた。時間が無いというこの状況で現在地を把握するというのは大きなアドバンテージになるが、そもそもこの巨大樹を登りきるのに一体何時間かかるだろうかと和貴は悩んでいた。

(この巨大樹を登りきるのに一体何時間かかるんだ!?そもそも、枝らしきものもないのにどうやって登る?現在地を知ることが出来るが、失敗したら即死確定。はは、笑えないジョークだ)

「ん?どうした登らないのか?現在地を知るのに一番手っ取り早いと思う方法だぞ?」

 コハルは和貴を焦らすように選択を待っていた。いや、コハルにとっては当然の行為だろう。彼女には背中から小さな翼が生えている。万が一落下しても彼女は転落することはない。だからこそ、和貴が何故巨大樹に登らないのか理解できないのだろう。

「・・・・・・・先へ進もう。現在地はコハルが把握してるんだろ?なら俺が把握する必要はない」

「だが、私はお前の行きたい場所が正確にわからない。ならば一度登って確認する必要がある。それとも、怖いのか?」

「当り前だ!!安全ロープがないロッククライミングならぬウッドクライミングだぞ!?お前は羽があるからともかく、俺は一度手を滑らしたらその瞬間あの世へ一直線だ。得られるメリットよりも詐欺師並みにリスクが高すぎるわ!!」

 コハルはムッっと口を尖らせ、拗ねてしまった。無理もない。彼女にとって当たり前と思われた行動が否定されたのだ。和貴は謝るつもりは無いが、言い過ぎたかと考えてしまった。

「とにかく、安全な手段がない限り俺はこの巨大樹を登ることはできない。何か別の・・・・・」

「・・・・?私の羽を見てどうした?」

 和貴はコハルの羽を見て一つの考えを浮かべた。これなら自分は死ぬ確率は大幅に減るし、何より二人で一緒に上がることが出来る。

「なぁ、考えがあるんだが・・・お前が俺を背負って運ぶことは可能か?」

「はぁ!?何を言ってるんだ!?たとえ万全な状態であっても、貴様みたいな重い荷物を運ぶことなどできん。第一、私が落下する」

「言い方が悪かったな。もう一度聞くが、俺がこの巨大樹を登ってる間、お前が安全ロープ代わりになってくれ。そうすれば万が一事故が起きても対処ができる」

 和貴の考えにコハルは本日二度目の呆れ顔をした。コハルは溜息を吐き、やれやれといった感じで和貴に問いかけた。

「本気でやるつもりか?お前のその武器はどうする?」

黒弔(こくちょう)のことか?これは巨大樹に投げて足場代わりにする。コハルだって五十メートルを一気に登るのはつらいだろ?」

 コハルは無言で頷き、和貴は巨大樹から少し離れ、手に持っている黒弔を巨大樹に向け投擲した。凛との特訓の成果があったのか、巨大樹に刺さった黒弔は大きな衝撃はと同時に深々と刺さっていた。

「これで足場として充分だろ。さてと、この巨大樹を登るとするか。俺の命をお前に預けるぜ」

「・・・・一つ聞かせろ。何故昨日私が和貴を殺そうとしたのにそう簡単に命を私にゆだねる?普通なら敵対者にそんなことを頼まないぞ?」

 コハルの言い分は尤もだと和貴は納得する。和貴も何故コハルをここまで信用してるのかわからなかった。だが、一つコハルに対して言えることがあった。

「まぁ、コハルは悪い奴じゃないからな。二年前に会ったあのいかれた戦闘狂じゃああるまいし。何より、今頼れるのはコハルしかいない。だから信用してるのさ」

 そう言って和貴は滑り止め用の手袋をはめ、巨大樹に手をかけた。人生初のロッククライミングならぬウッドクライミングに和貴は楽しさよりも恐怖が上回っていた。万が一落ちた時様に背後にはコハルが落下を受け止める準備をしているが、それでも安全ロープがない状態で登ることに生物の本能的恐怖に抗うすべはなかった。

(結構登ったはずなんだけどな・・・・俺が刺した槍の距離からしてまだ十メートルってところか)

 一歩、また一歩と巨大樹に登り始める和貴は登る高さに比例して、恐怖が増していった。だが、手元が狂うことはなかった。和貴の天性の胆力と万が一落ちてしまってもコハルがサポートしてくれることを知っていたことによって、手を滑らせるという事態は万が一にもなかったからだ。

 集中し続けること十分。和貴はいつの間にか自身の手で放った槍のところまで一回も落ちることなく辿り着いた。和貴は大きく溜息していると、コハルが不満そうな表情で和貴を見ていた。

「・・・私は不要だったか?」

「冗談でもそんなことは言わないでくれ。今の恐怖を支えているのはコハルのおかげでもあるんだ。コハルがいなかったら、間違いなく十五メートル付近で落ちてるさ」

 そう言いつつも、和貴は不安定な足場から己の立ち位置を確認していた。足場は和貴の愛槍(あいそう)である黒弔によって支えられ、一歩でも滑り落ちれば、ひもなしバンジーが待っている。

 和貴はそのことを想像する前に巨大樹の頂上を目指そうとし、巨大樹に手をかけた。

「休憩は終わりだ。さっさと上に登る必要があるしな。コハルもそれでいいな?」

「ああ。私は問題ない。そうするとしよう」

 和貴は再び絶望のウッドクライミングの続きを始めた。最初に登るときとは違って、登ることに慣れ始めたのか、和貴はすぐに頂上付近へ辿り着くことが出来た。足場になりそうな場所を見つけた和貴はそこに座って、現在の場所を把握しようとした。しかし、その光景は和貴にとって予想外な景色が広がっていた。「・・・・・はぁ?」

 和貴が見た光景。それは一面に広がる海だった。正確に言えば、森林の先には一面広がる広大な海の景色だ。その時点で和貴は察してしまった。自分が現在どの辺にいるかということを。

(本当に基地と真逆の方向にいるじゃん!?一か月の期限があってもギリギリだぞ!?)「コハル!エジプトはどっちに進めばいいんだ!?」

 和貴の質問に対してコハルは森林の奥地に指を指す。しかし、コハルが指している場所は和貴から見ると奥まで広がる森林の景色であった。

「・・・・本当に急がないとやばいじゃんか!?コハル、俺はすぐに下に降りる。コハルも手伝ってくれ」

「構わんが、どうやって降りるつもりだ?私はこの翼があるからいいが・・・」

 和貴は即座に最善の手を考え始めた。時間を取って安全を選ぶか、それとも命を懸けて時間を優先するか。しかし、和貴の選択は迷わずに一択を選んだ。

「ここに来て五十メートルバンジーか・・・・。師匠の修行と同等の危機感を感じるな・・・・」

 コハルは和貴の独り言の意味が理解できなかった。だからこそ、コハルは驚愕した。いきなり、和貴が巨大樹の頂上から自殺するように飛び降りた行為に。

 和貴は重力の加速を感じながら、己の武器を探していた。そしてその武器はすぐ目の前にあった。和貴は重力落下の勢いを利用し、黒弔をつかみ取った。すると、片腕に落下してきた分の勢いが襲老いかかってきた。だが、和貴はその勢いに負けることなくその手を離さなかった。

(師匠の言いつけを守って正解だったな。握力と腕力を鍛えておいて正解だった)

 だが、その安堵もつかの間。巨大樹に深々と刺さった黒弔は和貴の重力落下耐えることが出来ず、てこの原理によって刺さっていた幹を破壊しながら抜けてしまった。

「あ、死んだ」

 予想外の出来事に和貴は死んだと思われた。残り二十五メートルの重力落下を受ければ間違いなく即死するだろう。顔面から地面にぶつかると思ったその時、背中から引き上げる力によって地面との激突は避けられた。

「愚か者!!!やるならやると最初から私に言っておけ!!私がいなかったら貴様は死んでたぞ!?」

 和貴を助けた人物、コハルが和貴の頭に一発強烈な拳骨を与えた後、涙目に鳴りながら怒鳴った。

 強烈な拳骨を食らって和貴は一瞬、意識が遠退きそうになったが、何とか気合でそれを阻止し、コハルに怒鳴りつけた。

「この怪力女!!!殴りたい気持ちはわかるが、加減しやがれ!!お前の拳であの世に行くところだったわ!!」

「だったら最初から何をやるか説明しろ!!いきなり飛び降りるなんて何考えてんの!?しかも、巨大樹も破壊するし!!一応あの木は神聖なものだからね!!それも含めてだ!!」

 コハルの説教を聞いていると、和貴はコハルが言っていた気になることに注目した。

「神聖な物ってどういうことだ?あの巨大樹に何か特別な思い出もあるのか?」

 そう答えると、コハルは信じられないという表情をして、口を押えていた。和貴はコハルがそのようなリアクションをした理由が分からなかった。

「まるで俺が悪いみたいな感じじゃないか。一体俺が何をしたんだ?」

「そう言えば、この場所が何処か説明してなかったな。此処はな、墓標だ。しかも、ただの墓標ではない。我々が崇め祭っていたとある神の墓標だ。その神の名は『ユグドラシル』という」

 和貴はコハルが言っていた神に聞き覚えがあった。『ユグドラシル』。それは人類の最大の敵である神仏族の一体だ。

「『ユグドラシル』か。確か本には『繁栄と枯渇を司る』って書いてあったが・・・」

「その通りだ。この木はユグドラシル様の僅かな力によって成長している。真偽は不明だが、この木の下にはユグドラシル様の遺体が眠っているそうだ」

 コハルはどこか憧れの感情と寂しさを含めた視線でこの巨大樹を見ていた。そんな中、和貴は荷物を纏めて目的を目指そうとしていた。

「その話は歩きながらでもいいか?現在地が分かった以上、さっさと行動を起こした方がいい。何より、ここは神聖な地だろ?なら俺みたいな部外者はさっさと退いた方がいいしな」

 コハルも納得したのか、和貴の支度が終わったことを確認したのちに案内の続きを始めた。日が沈む前にはせめて国境を越えたいなと和貴は考えつつも、コハルの後を追って森の中へと入っていった。




 一方、和貴とコハルが最初に共闘した場所に置いて、一人の男性が居大珠に近づいていた。

「やれやれ、あの餓鬼を報復しようと追いかけてみたが、まさかこんなところにお宝が眠っているとはな」

 その人物は和貴が心臓を穿った奴隷商人のリーダーだった。穿たれた後を手で撫でると、その傷が無かったかのように塞がれていった。

 奴隷商人リーダーの能力は『心臓拝借』という物騒な能力であった。代償は死体の心臓。効果は命のストックを増やすことが出来るという物だ。そして心臓の質が良ければ良いほど、能力者の力が増すという厄介な能力である。

「しかし、ここでストックが減ったのが痛かったな。まぁ、代用はこの樹の下に埋まっている神仏族さんに払ってもらおうか」

 奴隷商人のリーダーは部下を呼び寄せ、巨大樹の土を掘り始めた。その結果が、のちに和貴の障害になることは今は知る由もなかった。

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