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グロウ・ソウル  作者: PIERO
選抜試験編
50/57

抜き打ち選抜試験

 今日も鯨井凛(くじらいりん)に半殺しにされていた霊峰和貴(たまみねかずき)はして槍を杖代わりにして何とか立とうとした。意識が朦朧としている中、突然凛は手に持っている槍を収めた。和貴は一体どうしたのかと考えいると、凛が和貴に話しかけてきた。

「そう言えば、和貴にはまだ言ってなかったが、今日の午後から遠征に行くための選抜戦を行おうとしているころだ。今から走れば間に合うかもしれんぞ?」

「え?ど、どういうことですか?」

 疲弊しきった和貴は凛の言っていることが一瞬理解できなかった。その様子に呆れたのか、凛は舌打ちした後、大声でその言葉の意味を怒鳴りながら言った。

「貴様はもう戦場に出ても、大抵の敵には後れを取らなくなったから、さっさと選抜試験を受けてこいと言っているのだ!それとも、これ以上きつい稽古を望むのか?」

「は、はいぃ!!急いで試験に受けてきます!!」

 ようやく言っていることが理解した和貴は息を切らした状態で急いで更衣室に戻っていった。その様子を見て、トレーニングルームに凛だけしかいないことを確認すると、溜息を吐いて愚痴をこぼした。

「結局、私に屈服しなかったか。まぁいい。あいつはゴミムシから多少は進化した。・・・・・・はぁ、マシュマロが食べたい・・・・」

 そう言ってから凛は選抜試験の試験官として参加するべく、トレーニングルームを後にした。

 一方、和貴は全身の筋肉痛を堪えて走っていた。幸いにも、試験会場の場所は看板が置かれていたため、すぐに場所を把握することが出来た。

「試験会場は基地外の砂漠か。まぁ、能力者の能力によって基地が破壊されることを防ぎたかったんだろうな。あんな乱暴な稽古を受けてきたわけだが、どれくらい通用するか・・・」

 そう言いつつ、試験会場に到着した和貴は選抜戦の参加者の数に驚かされた。肉眼で確認できる人数で五百人は軽く超えているだろう。大勢の参加者に和貴は怯みそうになったが、今までの稽古を思い出して己に喝を入れた。そうしていると、よく見知った人物が遠くにいたのでその人物に話しかけようと思い、和貴は近くに寄った。

「よう。有樹も選抜戦に参加するのか?」

「誰かと思ったら和貴か。ああ、勿論参加するつもりだ。和貴も・・・って愚問だったな。ここにいる奴らは選抜戦で選ばれるために来てるからな」

 すると突然銅鑼(どら)が会場中に鳴り響いた。音の鳴り響いた方に注目すると、そこには和貴の師である鯨井凛が仁王立ちで立っていた。

「よく集まった蛆虫(うじむし)ども!!これより、遠征部隊を決める選抜戦を始める!!これから貴様らにはルールは前もって説明していたが、忘れている愚かどものためにもう一度説明してやる。耳をかっぽじってよく聞け!!」

 和貴にとって日常のような凛の怒鳴り声はこの場に集った軍人達によく響き渡った。その声を聞いて冷静になる者、驚く者、幸せそうな表情を浮かべる者と十人十色の反応があった。

「この試験はチーム戦のサバイバル方式で行う!!場所は南アフリカの森の中で行う!!無論、敵もいる。試験だからと言って気を抜くとすぐに死ぬから危機感を持って戦え!!行きはこの転移陣を使う故、開始地点は各自ランダムだ。帰りは自力で戻ってこい!!期間は一か月!!その期間に戻ってきた蛆虫どもを選抜試験の合格者とする!!質問は一切受け付けない故、死ぬ気で生きろ!!!」

 凛が試験の方式を言った後、突如地面に巨大な陣が現れた。ここに集まったほとんどの軍人はいきなり出現した謎の陣に驚愕していた。だが、和貴はこれが何のか知っていた。何故なら、この陣と似たものを二年前に見たことがあるからだ。しかし、そんなことは和貴にとっては些細なことだった。和貴は今考えていたこと。それは・・・。

「ちょっと待て・・・。俺、一人で一か月生き延びろと言うのか!?無理ゲーにもほどがあるぞ!!!」

 だがそんな和貴の嘆きは凛の耳に届かなかった。そう思っていると、突如和貴の足元に向かって一つの槍が投げられた。いきなりのことに和貴は驚愕するが、その槍には見覚えがあった。その槍を投げた張本人である凛は口パクで和貴にこう伝えていた。

『これが私の修行の卒業試験だ。一人で生き延びて見せろ』と。その言葉を理解した時には、眩しい光が参加者達の視界を奪い、ランダムに飛ばされた開始地点に移動された後だった。




 参加者が全員南アフリカに飛ばされたことを凛は確認すると、ただ一人静寂に包まれたこの光景を眺めていた。

「さて、私の愛弟子もとうとう卒業試験となったか。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう言った時、突如建物の中からコツコツと歩く人物が現れた。凛は後ろを振り向かずにその人物に話しかける。

「なかなか骨がある人物だったよ。もしかして、この卒業試験をクリアするかもしてないぞ?それと、わざわざあいつの得物を運んできてくれた感謝する。綾華(あやか)

「厳しくやれとは言ったが、あそこまで厳しくしなくてもいいんじゃないか?仮にも余の弟だぞ?」

 本来この基地に絶対にいるはずのない人物、重力王(じゅうりょくおう)こと霊峰綾華(たまみねあやか)は少し機嫌を悪くして凛に文句を言った。普通ならそれだけで恐れ入るが、凛はそんなことなど関係ないように軽々しく綾香に進言した。

「弟だろうが何だろうが、私の弟子だ。どう扱おうが勝手だろう。それにあいつは男だ。ならば少しは根性を付けておかなければな。この試験で死ねばそれまでの男だったというだけさ」

「貴様の言い分はわかったが、それは本気で言っているのか?」

 凛は綾華の様子がおかしいことを直感的に理解してその場から跳躍した。すると、先ほどまで凛が立ってた場所に大きなクレーターが一つ生まれた。

 今更怒らせたことを理解した凛は冷や汗を一つ掻くが、あくまで冷静に綾華に話しかける。

「何を心配している?貴様の弟だろ?ならばこの程度の難関をクリアできないわけがないだろう。それにあいつにはここで死ねない理由もあるしな」

 そこまで言った時、凛は綾華の能力に捕まり、全身に巨大な重圧が襲い掛かってきた。流石に煽りすぎたかと凛は反省しているが、既に遅かった。綾華はゆっくりと歩み、重力によって縛られている凛を見下ろす形で話しかけた。

「もし、和貴が死んだら・・・・分かってるな?」

「そんなことか?なら、預言しよう。私はお前に処刑されない」

 しばらく無言の時間が過ぎ去り、一気に凛にかかった重力が解かれた。凛は息を切らしながら基地に戻る綾華の背中を見ていた。

(やれやれ、綾華の弟を育てるのも命懸けか。ここまで危機が迫ったのは一体何年ぶりだろうか・・・)

 内心焦った凛は皆が無事に帰還できることと、己の死刑宣告日(しけんきかん)まで和貴が帰ってくることを祈った。




 その頃、和貴は飛ばされた場所に対して大きく絶望していた。右を向こうが左を向こうが、辺りに見えるのは同じ景色の森ばかり。北も南もわからないこの状況に和貴は精神が折れそうになった。

 今手持ちにあるのは、右手に持っているのは二年前にあの龍神族から渡された黒い槍(和貴はこれを『黒弔(こくちょう)』と呼んでいる)だけだ。

 常人では狂ってしまうこの状況で和貴は何とか思考を放棄することはなかった。何故なら皮肉にも、和貴は現在進行形で絶対絶命だったからだ。

「動くな。まずその槍を手放せ」

「・・・槍を手放したら生かしてくれるんですか?」

「お前は無防備な敵がいたら生かすのか?」

 殺す気満々の背後の敵は短剣を和貴の背中に突きつけた。このまま何もしなければ、敵は心臓に向けて短剣を刺しに行くだろう。一歩も動けないこの状態で和貴はどうするか考えていた。

(さて、どうするか。槍を手放していいんだが、敵はこれが地面に落ちた瞬間に殺しにかかるからな。でもその前に聞いておくか)

「何故無言で俺を殺さなかった。お前の隠密能力なら、すぐに殺せるだろう」

「貴様からは戦場慣れした雰囲気が漂っていた。背後からの攻撃をしようものなら、反撃を受けた可能性があったからだ。ならば手段を完全に失わせてから殺すのが上策だ」 

 聞くことを聞いた和貴はおとなしく背後の敵の言うことを聞き、槍を地面に落とした。その様子を見て、敵は少し安堵したかのように短剣を和貴の身体に貫こうとした。

「では、死ね。運が悪かったと思うんだな」

「そうか。運が悪いか・・・。なら、それはお前が当てはまるな」

 和貴は敵の短剣を()()()()()()()()。だが、その短剣は和貴の身体を貫くことはなかった。敵が驚愕している隙に和貴は背後に振り返り、敵を蹴り飛ばした後、その短剣を奪い取った。その短剣をすぐに敵の衣類に向けて地面に刺した後、和貴は敵が逃げないように手を押さえ、そのまま押し倒した。

 敵はフードらしきものを被って正面からも表情を確認できなかったが、驚愕しているのは容易に想像できた。和貴は敵が被っているフードを取り外した。

「さて、ようやく顔を拝めるわけだが・・・・・え?」

 フードで隠された顔は叶と同類の可愛いに分類される女性だった。体格は和貴よりも一回り小さく、身長は百六十あるかないかぐらいの体格だった。顔の作りも人間と変わらない。しかし、その目は蛇のように鋭く、頭からは獅子の耳が生えており、背中もよく見たら羽らしきものがあるように思えた。

「・・・おい、何をしている!!さっさと殺せ!人間に服従するつもりは無い!」

「なるほど。『獣人族(じゅうじんぞく)』か。しかも、希少な合成獣(キメラ)か。見た感じ、人間よりのタイプだが・・・。一体何を掛け合わせたんだ?」

 獣人族の容姿を見て、和貴はそう確信した。『獣人族』とは、戦争初期では尤も個体数を確認したとされる種族である。基本戦闘力は人間よりも少し強い程度だが、他の種族に比べれば海魔族と並んで大したことはない。だが、最大の特徴は戦闘力彼らの知識の高さである。記憶力が高い。手先が器用。学習能力も人間を上回ると敵に回したくない要素がいっぱい詰まっていた。

 しかし、その利点が災いを起こし、味方からも恐れられていた。その結果、他種族によって獣人族のほとんどが滅ぼされたとされ、人間によって殺されるという散々な目に遭った不幸の種族である。

 現在ではその希少性故に、裏社会の奴隷商品として売られいるという物騒な噂を聞いたことがあるが、まさか野生の獣人族に出会うとは思っていなかった。しかも、希少な合成獣が基盤としている。普通は犬や猫などの動物が基盤としているが、彼女のような幻獣を基盤としているタイプは滅多にいない。

 獣人族の少女はこちらを殺すような目で和貴に威嚇している。このまま殺してもよかったが、和貴に少女を殺す趣味はない。そして何より今は試験中である。一分も無駄にできないと判断した和貴は拘束している手を外した後、地面に刺した短剣を抜き、それを懐にしまった。

「生憎、俺はお前を殺すのが惜しいぐらい時間が無いんだ。死ぬなら勝手に死んでろ」

「な、貴様!!私の誇りを傷つけるつもりか!!」

「俺には時間が無いんだよ!!じゃないと俺は試験に受からねぇ!落ちたら、師匠に殺されるわ!てめぇはさっさと家に帰ろ!!」

 これ以上言争っても時間の無駄だと判断した和貴は黒弔を手に持ち、歩みを進めた。すると、背後から殺気を感じ、和貴は槍を使ってその殺気を払った。

 払ったものは複数の矢だった。だが、放ったのは先ほど短剣を奪った獣人族の少女だった。先ほど以上に殺すような視線で獣人族の少女は和貴に怒鳴る。

「私に帰る場所などない!!獣人族は貴様ら人間によって完全に滅んだ!!ならば最後の生き残りとして、せめて戦士として死んでやる!!」

 獣人族の少女はいつの間にか手に三十を超える矢を持ち、祖俺を一気にうち放ってきた。豪雨ような矢が和貴へ襲い掛かる。獣人族の驚異的な芸当に和貴は驚愕し、全力でその場から走った。

(冗談じゃない!!あんな弓の雨を全て弾いてたら一日潰れちまう!!)

 和貴は走りながら、飛来してくる矢をはじき、獣人族の少女は木々を飛び越えながら矢をさきほどと同じ量の矢を放った。矢は一本一本が凄まじい破壊力を秘めていた。被弾した樹木は綺麗に風穴が作られ、細い樹であれば倒してしまうほどであった。

 しかし、それがどうしたと言わんばかりに和貴はその矢を一本ずつ弾いていた。凛によって鍛えられた動体視力と和貴が持っている天性の胆力によって、その矢を的確に見切っていたからだ。

 そんな鬼ごっこを続けて一時間。日は沈みかけ、互いに息を切らし、和貴の堪忍袋の緒も限界となっていた。

「はぁ、はぁ・・・・。てめぇ、いい加減にしろ・・・」

「き、貴様こそ・・・・私に殺されろ・・・」

 フラストレーションが最大値に達しようとした時、森に異変が起きた。突如、雷鳴のような音が周囲に響き渡った。一体何事かと和貴は音が鳴り響いたところに注目していると、銃を持った人物が現れた。

「おお!!獣人族とは珍しいじゃないか!ここまで来たかいがあったぜ」

 銃を持った人物の言葉からして、あまり穏やかな話ではないようだ。実際、目の前の獣人族の少女は先ほどの銃声で足を撃たれたようだ。毛を逆立てて、和貴よりもそちらを警戒していた。

(厄介なことになる前に、さっさと撤退するか)

 和貴は今の出来事を見なかったことにしようとその場から撤退しようとしていた。獣人族の少女は既に和貴を標的としなかったので、撤退することは容易かった。

 忍び足で去ろうとした時、銃声が鳴り響いた。どうやら戦闘が始まったようだ。だが、今はそんなことはどうでもいい。一刻も早く基地に帰還しなければ、選抜試験に合格できないのだから。

「さてと、ここはどこだろうな。地図もないし、食料もない。加えて、土地勘もないしな。食料は問題なさそうだが、広大な森に一人で遭難は完全な死亡フラグだな。おまけにタイムリミットもある。原住民の一人か二人いれば何とかなるんだが、完全にここは敵地だもんな。さてどうしたもんか」

 耳を澄ませると銃声が二つ、三つと数が多くなっていた。どうやら、先ほどの人物の援軍が到着したらしい。戦闘が激しきなりそうな気がしてきた和貴は一刻も早くその場から離脱するために歩みを始めようとした。だが、和貴は口ではそう言っても、心の中ではあの獣人族の少女をそのままにするかどうか迷っていた。 

(・・・・我ながら甘ちゃんだな。口ではああいっても、本心では助けたいなんて思うなんてな)

 和貴は振り返り、先ほどの場所へ戻っていった。草むらに隠れ、和貴は現在の状況を確認していた。状況は人間側からしては最高の状態だった。敵一人に対し、人間は五人いた。戦力差として充分すぎる。加えて、敵は先ほどの追いかけっこで体力が疲弊し、先手を受け、満身創痍と言っても過言ではない。

 余裕を持ったのか、一人の人間は勝利に酔うように大きな声で獣人族の少女に聞かせ始めた。

「さてと、後は気絶させるだけだが。俺達で味見してみないか?」

「おいおい、商品価値下げるつもりかよ。やめとけって。それにボスに首をふっ飛ばされたくはないだろ?」

「ヒュー、怖い怖い。んじゃあ、後はこの麻酔弾で眠らせればオーケーだな」

 吐き気を覚える話内容に和貴は顔をしかめた。同時に、この人物が一体何者なのかも理解できた。

(こいつら、裏社会の奴隷商人か。まともやりあうのは少し面倒だな。あの獣人族の少女には悪いが、見捨てるしかないか)

「ふざけるなぁぁぁ!!!!!貴様らは私達を一体何だと思っている!!!私達は貴様らの道具じゃない!!」

 獣人族の少女は悔しさ故の涙を流し、最後の抵抗と言わんばかり大声で奴隷商人に威嚇した。だが、既に勝利を確信していた奴隷商人達の反応は歓喜だった。

「ほぉ~!こんな状況なのに未だ吠えるとは、中々に強調しがいがあるぜ。お前ならどうやって、こいつを強調する?」

「へへ、じゅるり。お、おでに、聞くんです?そ、そうだな・・・まずは、おでの能力で、手足の筋肉をズタズタにしてから・・・ぐへへへ」

「お前の喋り方は本当に気持ち悪いな!」

 和貴は既にこの奴隷商人達を人間とは思いたくなかった。しかし、冷静な和貴は未だに飛び込ろうもにも、奴隷商人は未だに武器を手放していないので、突撃することが出来なかった。すると、リーダー格の奴隷商人が、獣人族の少女に近づき見下ろした状態で会話し始めた。

「貴様はここで終わりだ。だが、助けてやらんこともない。・・・・仲間を呼べ。そうすれば、解放してやろう」

 その言葉に獣人族の少女はふつふつと笑い始めた。その様子が不快だったのか、奴隷商人のリーダーは腹を蹴り飛ばし、再度質問をした。

「貴様、何がおかしい?」

「おかしいさ。仲間を差し出せだと?・・・・仲間は既に貴様らの手によって滅ぼされた!!!敵からも、味方からも!!一人残らず殺された!この地に残っている獣人族は私一人だ!!これが最後の商売だと思い、悔やむがいい!!」

「そうか。なら、()()()()()()()

 和貴はその言葉を聞いた瞬間、身体が勝手に動いていた。奴隷商人のリーダーは突然の襲撃で和貴の突きに反応することが出来ず、心臓を貫かれた。奴隷商人が動揺している状況の中、和貴は何も言わなくなった死体に向けて言い放った。

「ふざけるな!!貴様らが英雄だと?ハッ、笑わせるな!炎帝さんが、凛さんが、そして綾華が貴様らと同格だと?よくもそんなふざけたことを言える!途中までは聞き逃すつもりだったが、気が変わった。てめぇらに引導を渡してやる」

 リーダーを失った奴隷商人はパニックを起こし、銃を発砲使用とした。だが、引き金を引く前に既に和貴は敵の心臓を穿っていた。逃げようとした者もいたが、和貴は即座に間合いを詰め、背後から心臓を穿った。残りの敵も穿とうとしたが、既に森の中へと消えた後だった。和貴は舌打ちをし、獣人族の少女の方をみた。和貴を殺すような目で見ていたが、先ほどとは違い、どちらかというと警戒しているような感じだった。

「・・・・・・何故私を助けた。私が殺された後にでも奴らは殺せただろう」

「お前と同じで、俺の誇りを汚させられたからだ。俺の知っている英雄は、こんな屑どもとは違う。まぁ、お前から見れば一緒だろうがな。・・・・もう、日が沈んじまったか」

 和貴は近くの折れた木の棒や草を集め始めた。必要な分を集め終わった後、和貴はポケットからライターを取り出し、火をつけた。無言の空間の中、和貴は背後に誰かいるのかと思い、振り返るとそこには未だにこの場から離れていなかった獣人族の少女が座っていた。

「何で背後を狙わない。がら空きぞ?」

「私の体はあの気持ち悪い言い方の男によって全身の筋肉がボロボロで立つのがやっとだ。それに、武器も既に底をついた。貴様が短剣を返してくれるなら話は別だがな」

 和貴は懐にしまっていた短剣を取り出し、それを獣人族の少女に向けて投げた。短剣は獣人族の少女の目の前に刺さるような形で地面に刺さった。

「短剣を返す代わりに一つ聞かせろ。お前が獣人族の最後って言うのは本当か?」

「本当だ。それと、私はお前じゃない。コハルだ」

 予想外の情報を聞いた和貴は態度には出さなかったが内心は驚いた。だが、彼女からしてはいつまでもお前と呼ばれるのは嫌な気分だろう。和貴も自己紹介をした方がいいかと考え、コハルに話はじめた。

「そうか。俺は和貴だ。さて、ここから本題に入る。お前には拒否権はないからな」

「・・・今の自分の立場を考えればそんなことはわかる。で、何をすればいい?体を差し出すか?」

「馬鹿言え。俺には恋人がいる。そんなことしたら、俺の知り合いに殺される。前提として聞きたいがコハルはこの森のことをどれくらい知ってる?」

「全てだ。川の流れ、方角、土地勘。この地は私の家と言っても過言ではないからな」

 そこまで聞いた時、和貴は心の中で決心した。コハルは不思議そうな表情でこちらを見ているが和貴にとっては関係なかった。

「じゃあ、決まりだ。道案内をしてくれ。俺は今試験中でね。エジプトにある基地に戻らなければならない」

「それだけでいいのか?人間はもっと欲深いと聞いていたが」

「そんなわけねぇだろ。てか、誰がそんな間違ったことを言ってた」

「じいさまから」

「あ、悪かった」

 気まずくなった空気だが、明日から本格的に行動することになった和貴は今日はこの疲れを癒すために、一刻も早く寝ようと瞼を閉じた。

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