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グロウ・ソウル  作者: PIERO
修学旅行編
47/57

番外編 年末

 年の終わり。いつも通りならば、部屋で読書し、年末番組を見て、年越しそばを食べながら新年を迎えるという予定を送ろうとしていた。

 だが、今年は違った。俺はある場所へ向かうために鏡と向き合っていた。

「寝癖はない。服装も乱れていない。カイロも持った。・・・・よし、行くか」

 今日は誰も家に帰ってこないことを梶山さんから聞いていたので、俺は自宅の鍵を閉めた。恐らく人生で初めてこの日に外出しただろう。

 夜の街なのに人はいつも以上に賑わっていた。家で新年を過ごそうと決めている一家もあるらしく、いつも以上に住宅街は電気に包まれていた。

 待ち合わせは十一時。自宅からニ十分ほど離れているが、問題ない。家を出た時には時計は十時半だったため、余裕で間に合う。駅に向かおうとした時、いつも通る豪邸から顔見知りの友達が出てきた。

「あら?珍しいわね。今年も引きこもっているかと思ってたんだけど」

「今年は別だ。お前こそ、そんな格好してどこへ行くんだ?」

 いつもの私服ではなく、パーティーにでも行くかのような格好をしている墓守詩奈(はかもりしいな)は小さなくしゃみを一つして、話し始めた。

「知り合いの財閥からパーティーの誘いがきてて、私もそれに行かなきゃいけなくなったのよ。おかげで冬だっていうのに、こんな寒い恰好しないといけないわ」

 詩奈の格好を俺は改めて見る。見た目通りに薄そうな生地で作られた青色ドレスは彼女の脇を強調するかのように肌を隠す面積が若干少ない。一応上着は羽織っているが、明らかに寒そうな格好であることには

変わりない。

「そんなじっと見てないで。・・・少し照れるじゃない」

「いや、つい見惚れてた。それよりも早く車に乗った方がいいんじゃないか?」

「褒め言葉ありがとうね。そうするわ。あと、むやみに人を褒めない方がいいと思うわ。じゃないと叶ちゃんが可哀そうよ」

 うぐっと、俺は言葉が詰まる。事実を述べただけなのに何故か弱みを握られている感覚がしていた。それ以前に俺は詩奈に聞きたいことができた。

「ちょっと待て!?何で俺が叶と付き合っていることを知ってるんだ!?そのことはEXクラスしか知らない筈・・・」

「私の情報量を舐めないでね。女子に秘密の一つや二つ、あってもいいでしょ?」

 ウインクを決め、詩奈は車に戻っていった。いつもの気性の荒々しさはどこへ消えたのか。俺は呆然としていると、後ろから突然景山幸成(かげやまゆきなり)が肩を組んできた。

「そんなことより、お前はお前で用事があるんじゃなかったのか?」

「やべ!!ありがとう幸成。後でそのパーティーのこと聞かせろよ!!」

 俺は駆け足で駅に向かう。詩奈と雑談したおかげで多少予定が狂ってしまったが、構わない。まだ駅に間にあう。息を切らして俺は駅へ向かって行った。




 走ってから十五分。なんとか待ち合わせの場所へ着くことが出来た。集合時間も五分前に着くことが出来た。人だかりは家を出た時よりも多く、何より二人組のカップルが多い様な気がした。

 そのカップルを観察していると、聞きなれた声が俺の耳に響いてきた。

「お待たせ~!ちょっと遅れたかな?」

「いや、心配ない・・・さ・・・」

 約束した場所に来た人物、柳瀬叶(やなせかなえ)は少し駆け足で俺のところへ来た。だが、いつもの叶ではなかった。

 まず目に入ったのはいつもと違い着物だったのだ。白い着物に書かれた彼岸花は彼女の目のように赤く、頭につけている簪は彼女の少し長い髪を綺麗に纏めている。何よりそれらを着こなしている彼女が美しく思えた。

「どう・・・かな。似合ってる?」

「ああ、すごい綺麗だ。本当に可愛い」

「良かった~。似合ってないなんて言われたらどうしようかなって思ってたけど、和貴君がそう言ってくれるなら安心したよ」

 叶は笑顔で言っているが、その言葉に偽りはない。現にカップルだらけのこの場所でも叶を見ている男は多くいた。我ながら恥ずかしいが、一瞬だけ彼女を独占したいという気持ちが浮かび上がっていた。

「じゃあ、後一時間どうする?ボクは何をしてもいいけど」

「なら、もう神社に並ぼうか。この時間だとまだ人は混まないと思う。それに、そろそろ移動しないと面倒なことになるような気がする」

 俺は叶の手を握り、引っ張る感じで進んでいった。叶は少し驚いていたが、それだけでそのままゆっくりとついて行った。

 ただ歩くだけも暇なので、俺は今年中にあった出来事を叶と一緒に話していた。

「にしても、今年は色々あったな。学校に戦闘族と蒼鳥が侵入してきたり、一か月前の修学旅行で海魔族と戦ったり。そろそろ普通の日常に戻りたいよ」

「本当に色々あったね。そのたびに和貴はみんなを引っ張っていった。ボクにとってはそれが希望だった。和貴君が助けてくれるって思えたから諦めなかった」

「そうか。でも、俺は何もしていないさ。俺だけのおかげじゃない。みんなのおかげでここまでこれたんだ」

 しばらく歩いていると、何やら騒めいていた。誰かの悲鳴が聞こえることから、喧嘩だと思われる。俺と叶は気になってその喧嘩を様子だけ観察しようかと思ったが、トラブルに巻き込まれそうな気がしたので見なかったことにした。

 神社に辿り着くと、長蛇の列で人が大勢並んでいた。俺と叶はとりあえずその列に並ぼうとした時、偶然視界に友人達の姿が見えた。

「あそこにいるのは・・・有樹と霧和、それから上城か?」

「そうだね。せっかくだし、ちょっと会いに行こうよ!!」

 叶の意見に賛成した俺は有樹達に話しかけに行った。叶は大声で有樹達を呼び始めた。すると、有樹は嫌そうな顔で俺と叶を見た。

「うるさいぞ叶。周りの人に迷惑だろうが。ましてや今は夜。もっと状況を考えろ」

「まぁまぁ、なんやかんやで大声出さないと気づくことも困難でしょ。そこは大目に見てやれって」

 有樹の叱りに対して上城はそれをなだめていた。そしてこんな時だからこそ、霧和がポロリと口を滑らせ始める。

「そういう有樹君だってさっきまではぐれた私を探すために必死に大声で叫んでくれたじゃないですか」

「な!?おい、何で今に限ってその話をする。大体、今日の出来事じゃないだろ。それはずいぶん前の・・・」

 はっと気づいた有樹だったが、既に遅く、有樹は俺と上城の顔の様子を伺っていた。下手な回答をすれば、まず半殺しにされる危険がありそうな雰囲気だった。だが、それでも臆することなく有樹の親友はその発言をするのであった。

「やっぱ、お前ら付き合ってんのか。なら正直に言えばいいのに」

「・・・よし、後で俺と一緒に来い。利口な和貴なら、もう分かってるな?」

 どうやら、襟元を掴まれた上城は有樹の中では処刑確定のようだ。俺は何も言わずにただ頷く。沈黙の間があったが、有樹は上城と霧和を連れてどこかへ行ってしまった。大体予想つくが、列を抜けてでも重要なことだろうか?

「本当にめんどくさい性格だな。じゃあ、俺達も行くか」

「そうだね・・・。うん、ボク達は何も見ていなかった。」

 何も見なかったか事にしておいた俺達はようやく列に並び始めた。新年が早く開けるのが待ち遠しいのか、周りの人達は時間を確認していた。だが、時間は皆の期待に反してゆっくりと過ぎていく。冷え切った風がたまに俺達へ襲い掛かってくるが、それも一時(いっとき)だけだ。風は俺達の隙間を通り過ぎていくが、一部の人達は違った。

「くしゅん!・・・少し寒いなぁ」

 白い手が霜焼けによって赤くなってしまった手を叶は両手で擦り始めた。彼女の格好では確かにこの寒さはきつい。俺は手袋を脱ぎ取り、叶に渡した。

「そのままだと風引くだろ?使いな」

「え、いいの?でもそしたら和貴君の手が「俺のことは大丈夫だ。それにせっかくの白い手がそんなに赤くなってたら痛々しく見える」

 俺は叶に手袋尾を押し付ける感じで渡した。寒いには変わりないが、叶の手が赤くなっていることと比べれば問題ない。だが、叶は手袋を片方だけ身に着けるともう片方の手は俺の冷え切った手を握り始めた。

「ボクにとっては和貴君のこの手が一番暖かいんだ。だから、もう片方は和貴君が着けてよ。ボクはこれで充分だから」

 手を握るどころか、既に腕を絡めていることは指摘しなかった。俺も今の状態は悪く思ってもないし、叶自身も特に嫌悪感があるわけではない。むしろ、俺が少し緊張しているぐらいだ。

 だが、そんな状態も長くは続かない。何故なら、この状況をぶち壊す部外者が近くにいたからだ。

「・・・おい、和貴。てめぇ、一体何をしてるんだ?ああん!?」

 後ろを振り向くと遠く離れた場所にいかりの形相でこちらに進もうとしている草部椿(くさべつばき)先生がいた。人混みを裂くようにして前に進もうとしていたが、途中で警備員に捕まり、そしてまた俺達のところへ向かおうと繰り返していた。

「先生、いくら何でも懲戒免職処分を受けますよ?」

「知るか!そんなもんはコネで何とかなる!首を洗って待ってろ!!」

 ついに警備員の陣形を力技で潜り抜け、俺のところへ迫ってきた。知り合いじゃない人から見ればこいつは一体何なんだと言わんばかりの迷惑人だろう。

 だが、その快進撃もある人物の乱入で終わる。草部先生の手首を掴み、彼の暴走を止めたのは意外な人物だった。

「草部君。君は少し冷静になれ。彼を本当に叩き潰せばそれこそコネでも通用できなくなるぞ?」

「梶山さん・・・止めないでくれ。俺にはリア充を潰す義務がある!!それを阻む者ならあんたでも「じゃあ、寝てろ」

 ボキっ、と草部先生の首元辺りから、何かが外れる音が聞こえると同時に、草部先生のからだは操り人形の糸が切れたように力なく倒れた。

 そして乱入者、梶山さんは迷惑をかけた人達に対して一礼をした後、俺のところへ向かってきた。

「災難だったね。草部君に目を付けられるとは。でも、安心して彼女と一緒に初詣を楽しんできなさい」

「ありがとうございます。お義父さん。そう言えば、紹介してなかったけど、この人が俺のお義父さんの梶山力也(かじやまりきや)それで、この子が俺の彼女の柳瀬叶」

「君が和貴君の彼女か。よろしく。にしても、鈍感な和貴君を振り向かせるために、すごい苦労しただろう。できればその話を後で聞きたいけれど・・・・大丈夫かい?」

 梶山さんが心配して叶の様子を確認していた。俺も不安になり、叶の様子を確認したがすぐに叶は正気に戻り梶山さんと握手をした。

「よ、宜しく、お願いし、します。柳瀬叶です!!え、えっと・・・その・・・」

「大丈夫か?緊張しすぎて言葉にできてないぞ?」

 一度叶を落ち着かせるために、深呼吸させようとしたが、それでも落ち着かせることはできないようだ。梶山さんは頭を掻いていると、列の管理をしていた警備から呼び出しを受けた。

 梶山さんは去り際に、一言言ってきた。

「もし、帰るのが辛かったら私達の家に来なさい。今日は私も帰れないからまぁ、二人きりになると思うけどね」

 その言葉の意味を理解するのに、三秒ほどかかった。その意図を理解した俺は小さな声で余計なことをと呟く。叶も意味を理解したらしく、顔を赤く染めて伏せていた。

「別に気にしなくてもいいんだぞ?梶山さんはたまにそう言うことを言う人だから」

「ふぇ!?あ、う、うん。そう、そうだよね~。・・・・・ちょっとだけ期待してたんだけどな・・・」

「何か言ったか?」

「い、いや!?別に!?何も言ってないよ!!そ、そうだ!今何時なんだろうね!」 

 一瞬誤魔化したように見えたが、気のせいだと思い、時計を見た。時計の針はもう少しで五十分を刺そうとしていた。

「あと十分で新年だ。卒業すれば、俺も軍人か」

「・・・そういえば、和貴君が軍人になったら、何処に配属されるとかもう決まってるの?」

「悪いな。そこは守秘義務が課せられているから言えないんだ」

 配属先は修学旅行が終わった後にすぐに連絡が来た。幸い、同じところに飛ばされる同期もいた為、独りぼっちという点に関しては問題ないと思われる。

 だが、二年生である霧和や今は病院で意識不明となっている本郷、そして目の前にいる叶の三人にとっては一気にクラスメイトが減ってしまうことに違和感が覚えてしまうだろう。

「そうなんだ。でも、遠くに飛ばされても、ボクに会いに来てくれるよね?」

「勿論。ちゃんと会いに行くさ。・・・お、これは・・・」

 俺は空から降ってきた白いものに注目する。これは雪だ。今年最後の雪が今になって降ってきたのだ。雪に驚いたのは俺だけではない。叶は勿論、他の人達やここに来ている子供も興奮していた。

「綺麗だね」

「ああ、まさか今年最後に降ってくるとは思わなかった」

 そして今年最後の時間は一分を切った。カウントが始まる中、叶は俺を見つめていた。一体どうしたのだろうか?何かを求めているのだろうか?それとも別の理由なのか。その謎はすぐに解けた。

「和貴君。来年もよろしくお願いします。そしてまた一緒にここへ行こう?」

「・・・そうだな、また一緒にここへ行こうか。あと十秒だな」

 叶と一緒に十秒のカウントを始める。十、九、八、七・・・。

「六、五、四!」

「三、二、一」

 そして年が終わり、新たな年が始まった。それと同時に周りの人も盛り上がる。今年も平和でいられますように。その願いがこの夜に新たに刻まれた。

 こうして、俺のいつもと少し変わった新年を迎えた。そして俺は叶に一言、面と向かってあの言葉を言った。

 あけましておめでとう。今年も末永く宜しくな。

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