これからの道(修正中)
「よし。みんな忘れ物はないな。忘れ物があるなら五秒でとってこい。じゃないとおいていくからな」
修学旅行の最終日、草部が点呼しているさなか、和貴達はバスの中に各自の荷物を載せていた。
海魔族が襲撃し、本来の修学旅行のスケジュールとは異なった内容だったが、それでも和貴達にとって多くの経験を学べた。しかし同時に、失ったものも多かった。クラスメイトの負傷、基地の軍人達。この失ったものは二度と取り戻せない。そんな暗い感情が和貴達の精神を蝕んでいた。
そんな空気の中、両目を失った霧和は優しく一言声をかけた。
「私は大丈夫です。最近は医学も進んでますのできっと両目も戻りますよ。まあ、どうしても責任を感じているなら私の目を治す募金に金額を振り込んでください。ざっとこれだけです」
その金額を見た和貴達は一斉に「払えるか!!」と大声を出したが、霧和は「皆さんが活躍すればきっとこれぐらい稼げるという期待も込めてです。だから泣かないでください」と付け加えた。
龍神族。俺達が敵対している怪物の中でも神仏族を除けば最強と言われる怪物だ。いや、少し正しくない。一部の龍神族はその神仏族すら凌駕しているという噂もある。
そんな怪物が何故ここにいるのか。俺は理解できなかった。皆が疲弊したこの状況下で戦闘になれば間違いなく全滅する。
その龍神族は何の気まぐれか、俺を見つけ近寄ってきた。先ほどの開き直っていたのとはわけが違う。予想外の怪物。その登場によって俺は自然と足が震えていた。
龍神族は屋上へ降り立つと、翼を折りたたんだ。そして周りに誰もいないことを確認した後、俺に話しかけてきた。
「貴様がこの作戦の司令官か?いや、愚問だったな。その聡明な瞳を見れば誰だろうとお前が指揮官だとすぐにわかることだな」
一人で勝手に納得している龍神族を見て俺はどうやってこの場から生き延びるか考え始めた。だが、そんな時間を与えないかのように龍神族はまた話しかけてきた。
「話はかわるが一つ質問がある。お前がクルベルトを倒したのか?」
「・・・いや、違う。あれを倒したのは雷神卿だ。俺なんて戦闘においてはただの雑魚に過ぎないさ」
冷静に答えられたのか自分でも不思議だった。龍神族は首を傾げ、俺の心の内を覗くかのように見つめ始めた。一体この龍神族は何を考えているのかわからない。そう思っている俺だったが、龍神族は俺には聞き取れない小さな独り言をつぶやいた後、振り返り翼を広げ始めた。
「確かに、お前には戦闘力が皆無だろう。本来ならばもう少し聞きたかったが、ここまでのようだな」
龍神族が屋上から飛び降り、空に飛んだと同時に屋上の扉が吹き飛ばされ草部先生と炎帝が現れた。二人とも息は切らしていたが、その威圧感は息を切らした程度で落ちることはなかった。
最初に口を開いたのは炎帝だった。能力を既に発動して炎帝は龍神族に問いかける。
「貴様、一体何の用でこの基地に現れた。やるんだったらとことんやるぞ」
「久しぶりだな英雄ども。今日は貴様らとは戦うつもりは無い。俺の個人的な興味でこの場に来た。だがそうだな、あの怪物を倒した報酬を貴様には渡しておくべきか」
龍神族がそう言い終わり、その姿がブレたと思った時、何故か腹に大きな衝撃が襲い掛かってきた。一体何が起きたのかと思い俺は自分の腹を撫でる。そして自分の肉体を貫いている槍と赤い液体が自分の血液だと理解した時、俺は絶叫する。
全神経が脳に向かって苦痛を訴える。それを遮断するすべはない。戦闘経験が皆無の和貴にとって腹を貫かれるという痛みは気絶して当然の痛みだ。
だが一向に気絶する気配はなかった。龍神族の神業ともいえる技術によってギリギリ意識を保てるぐらいの苦痛を与えてきたのだ。これほどまでの地獄は簡単に再現することが出来ない。
「大丈夫か和貴!?おい、どういうことだバハムート!?お前は一体何をしたかったんだ」
「・・・済まない。加減を間違えた。これくらいならば簡単に受け取ると思ったのだが、俺の予想よりも曽於この少年が弱かったことは誤算だ」
前言撤回。ムカつくことにバハムートと呼ばれた龍神族はやらかしたという表情で俺を心配そうに見つめていた。はっきり言ってそんな同情はいらなかった。
「むやみに抜くことはお勧めしない。話は変わるがその槍はお前にくれてやろう。今回の作戦は俺以外の部外者も感服した。・・・潮時だな」
迷惑な龍神族はそのまま飛び去ってしまった。このまま放置してしまえば痛みで気絶することはないが大量出血で気絶してしまう。気絶まであと十数秒、その消えゆく意識の中誰かが俺に駆け寄ってくる人物柳瀬叶がうっすらと見えた。叶は何が言っているか既に聴覚がおかしくなってわからないが、ようやく戦いが終わったと思われた。
空に一人翼を広げ、その龍神族は己の本拠地へと帰還する。その龍の顔は自然と笑顔になっていた。理由はわからない。だが、この海魔族が破れたという結果に満足していたからかもしれない。
(我ながら同胞の不幸を喜ぶとはな。いや、海魔族は最初に潰れる種族と言っていたからな。当然と言えば当然か)
唯一の心配はバハムートがあの少年に与えた報酬によって死なないかということだが、恐らく心配ない。戦場に現れるとある悪魔に似た何かを感じたのだ。そして恐らくその悪魔は今回の戦場にいただろうと直感が囁いていた。
「あの怪物と同類であれば何かわかると思ったのだが、まぁそれは別に考えるとしよう。それよりも今後の予定だな」
誰もいない空の中、バハムートはこれから起こる出来事を予測していた。そしてバハムートと和貴が再び会いまみえることは彼の予想よりも大分早かったことは彼自身にも予想つくことができなかったのである。
暗闇の意識の中、俺は深海を泳いでいるような感覚だった。俺の記憶はあの龍神族が投げた槍によって腹を貫かれたところまでだ。だが、それ以降の記憶はない。
もしかして死んでしまったのか。そう思ってしまう。だが、それは杞憂だった。何故なら目の前にホッケーマスクをつけた大男が目の前に立っていて顔を叩いたのだ。
生きていなければ痛みが襲うことはない。それなのに痛みが襲い掛かってきた。これが俺が現在進行形で生きている証拠だ。だが、意識は冷めても体を動かすことが出来なかった。流石に暇になった俺は目の前にいる大男に話しかけることにした。
『なぁ、お前は一体何者だ?あの時狂気から目覚めさせてくれたのもお前のおかげだろ?』
『・・・・・・・・・・』
大男は何も答えない。だが、この展開は予想していた通りだった。ならば質問を変えて今の俺の身体について聞くことにした。
『俺の身体は今はどうなっているんだ?あの時俺はどうなったのかお前は知っているのか?』
『・・・・・・・・・・』
何も答えない。何故だろうか?俺の言葉が届いていないのか。そう思った時、突然大男はどこかに行こうとしていた。まだ聞きたいことは山ほどあるというのに勝手に行かれては困る。そう言おうとした時、ようやくその大男は口を開いた。
『同志ヨ。オマエハマダ力ヲ手ニイレテイナイ。・・・・近イウチニマタ会オウ』
言っている意味が分からない。その言葉について問いかけようとした時、俺の世界は光に覆われた。
眼を開いた時には見慣れているテントの中だった。周囲を確認すると、既に日は落ちておりどうやら深夜に突入していた。
体を動かそうとしたが、腹を貫かれたことによる苦痛と血が足りないことによって動くことが出来なかった。もう一度寝ようと思ったが、大分長い時間の間寝ていたのか、眠気が一切なかった。どうやって時間を潰そうかと思ったその時、突然来客が現れた。
「おやおやおやおや!!!目が覚めたんですか!!!いや~!!本当に私としては非常に嬉しいです!!」
深夜にもかかわらずこのハイテンションの研究員兼署長である倉沢である。何故ここに来たのかと思い彼の荷物を見てみるとどうやら点滴などを入れ替えに来たようだった。
「大声を出さないでください。でも、最初に来たのが貴方でよかった」
「ほほ~う。つまりのつまり?私に要件があったということですか!!」
「そんなところだ。聞きたいことはいくつかあるが時間は問題ないですか?」
「大丈夫です!!さてさてさて、何から話せばよろしいでしょうか?」
俺は倉沢署長から気絶した後の出来事を聞き始めた。腹を貫かれた俺を治療したのは目の前にいる倉沢署長だそうだ。海魔族は見事全滅。あの大いなるクトゥルフが完全に沈黙したと同時に意識を失っていた他のみんなも目を覚ましたという。とどのつまり、俺達の完勝である。
「わかりました。じゃあ、作戦で伝えていたことも全て調べましたか?」
「勿論!!・・・と言いたいところですが、予想外な邪魔者によってあなたが調べたかった事を調べることはできませんでした」
「邪魔者とは一体誰ですか?」
「『シャドウ』と本人は名乗っていましたが、それ以外はわかりません。ですが海魔族ではないということだけは保証しましょう」
「わかった。そのシャドウについては後々調べるとして、早速調査報告を頼みたいのですがいいですか?」
こうして俺が倉沢署長に頼んだ調査、海魔族の絶滅した可能性について報告し始めた。倉沢署長が過去に調べ上げた資料を読み尽くした結果、海魔族は絶滅したと考えているらしい。
過去の戦争でも、六種族の中で今のところ一番被害を受けているのは海魔族らしく、その数も他の種族の数倍との記録が残されていた。
この戦争の討伐数を今は計測中だが、今回の海魔族の襲撃は過去にこの基地に襲撃してきた数を比較するまでもないほどに個体数が多かったそうだ。
「ここからもっと詳しく知ろうと思ったのですが、その時に妨害をされてしまってね。話はこれで終わりです。・・・さて、私も寝るとしましょうか!!」
倉沢署長はそう言ってテントから出ようとした時、歩みを一歩止めた。どうしたのかと思い倉沢署長を見ていると突然こちらに振り返り頭を下げた。
一体どうしたのかと思っていると、倉沢署長は頭を下げたまま話し始めた。
「霊峰和貴君。この度は全基地の兵士に代わって礼を言いたい。・・・・本当にありがとう。君の指令と作戦のおかげでこちらに死者が出なかった。これからの日本の未来が安全に思うよ」
頭を上げた倉沢署長はいつもの狂気的な笑みではなく、本心から笑顔になっていたように思えた。俺はその倉沢署長に対して何も言えなかった。何故ならテントから去る倉沢署長があまりにも儚く、そして今までの宿命が終わった戦士のように見えたからだ。
テントから出た倉沢が最初に向かったのは基地から少し離れている墓場だった。その墓場には歴代の軍人達の遺骨が埋葬されている。その中を倉沢署長は何があるかを把握してその場所へ向かって行った。
倉沢が立ち止まったのはとある墓石だった。そしてどこからか取り出した花と酒、ジュースをその墓石にお供え物として置き、その場でしゃがむと自分用の飲み物をその場で開けるとそこに誰かがいる様に語り始めた。
「那奈、哲郎。ようやく、ようやくお父さん仇を取ったよ。あの事件から長い年月がたった。本当に、本当に長かったよ」
倉沢は開けた飲み物を飲みつつ、墓石に話しかける。他者からは誰もいないところで勝手にしゃべりだしている変人のように見えるが、倉沢は違った。倉沢にとっては姿は見えずともこの場にいると確信していた。根拠はない。だが、そう思えるほど不思議と倉沢はそこで話し続けた。
「この三日間、本当に色々あったよ。草部の奴はいつの間にか教師をやってたり、炎帝は相変わらず短気でさ、みんな立場こそ変わってたけど性格は昔のままだったよ」
この基地を見学に来た学生を見て、彼が軍人であった頃の時期を思いだしていた。あの頃は皆と戦果を競い合って楽しんでいた。そしてふと、とある学生について話し始めた。
「ああ、そうだ。そう言えば草部が連れてきた学生の中でかなり賢い子がいたんだよ。名前は霊峰和貴っていうんだけどね。彼はきっとこの世界を変えてくれるそんな気がしたんだ」
段々倉沢の言葉に覇気が無くなっている。眠気ではない。そう感じ取った倉沢は墓石の前で最後に愚痴をこぼす。
「ただなぁ。あの少年たちが切り開く世界をこの目で見たかったな~。本当に、すごく残念だな~」
手に持っている飲み物が倉沢の手から滑り落ちる。そして倉沢は瞼を閉じ始めた。その刹那、墓石が光ったかのような温かみが感じ取れた。眼を開く気力はない。ただ、この感覚は目を開かずとも、倉沢は知っていた。
(ああ、なんだ。やっぱりそこにいたのか・・・・)
層思ったの同時に暗黒の海岸から日が昇り始めた。その日差しはまるで倉沢署長を包み込むよう影が光によって浄化され、彼の身体からありとあらゆる邪念が取り除かれているかのように見えた。




