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グロウ・ソウル  作者: PIERO
修学旅行編
44/57

狂乱の戦場(修正完了)

 一発一発が致命傷となる触手の一撃を紙一重で躱す雪花は触手を少しずつ切り刻んでいた。傷は海魔族の王からしてみればかすり傷に等しいダメージだが、その傷跡は徐々に侵食を始め、やがて大きな傷跡が出来上がる。


「理雄!今だよ!」


「おう!任せろ!」


 戦斧を持った理雄は雪花によって作られた傷跡を目印に戦斧を振り下ろす。豪快な一撃は骨まで達し、その勢いのまま触手を切断する。切断された触手は宙を舞い、やがて砂浜に落ちる。大きな砂埃を上げると同時に海魔族の王の悲鳴も上げた。


「ナイス雪花!にしてもどういう原理で傷口を悪化させているんだ?」


「切り刻んだ場所に風の能力で永続的に切り刻むように風を操っただけ!それとよそ見しない!」


 雪花は目の前の触手を警戒し、懐に攻めようとする。しかし、触手の再生の速さは尋常ではなく、十秒で触手は元通りに治ってしまった。その触手はそのまま雪花に襲い掛かったが、それをかばうように凍原が前に出る。触手が凍原の手に触れた刹那、触手は塵と化し海魔族の王は再び絶叫する。


「雪花、お前もよそ見するな。だが厄介だな。十秒で再生する触手、そして一撃でも食らえば圧殺する威力。救いはその一撃が遅いことか?」


「そうね。こんな時に和貴がいれば突破する策ぐらい考えていると思うけど、今は砲台で私たちの援護射撃の指示を出しいる最中だからね」


 凍原の分析に賛同する雪花は砲台に視線を向ける。海魔族の王が起き上がらないように砲台で和貴やアルケミック、炎星はあらゆる兵器を用いて妨害を図っている。しかし、この超再生を前に決定打には欠けている様子だった。何とかして懐に潜りこみ、海魔族の王の核となる部分を破壊しなければ敗北は確実だろう。


「凍原、何か策はある?」


「あるにはある。が、決定打にかける。失敗すれば俺と雪花のどっちかが死ぬ可能性があるからな。せめてあと一人いれば話は別なんだが…」


 完全に再生した触手を目の当たりにして凍原と雪花は互いに構え、周囲を見渡す。他の班も似たような状況であり、決定打が足りなかった。この状況をどうにか打開しなければと考え、目の前の触手を目にする。その刹那が命取りだった。


 触手は雪花が視線を逸らしたことを察したのか、これまでで一番早い攻撃を繰り出す。突然加速した攻撃速度に雪花は辛うじて反応するが、後方に吹き飛ばされる。重機関車に激突したような衝撃は砂浜に叩きつけられそうになる。とっさに雪花は風を発生させ激突する衝撃を和らげようとしたが、手遅れだった。風は突き破られ、雪花は砂浜に叩きつけられた。


「雪花!大丈夫か!?」


「…何とか。でもあばらと片腕、それから平衡感覚がダメみたい…」


 気力だけで立ち上がろうとした雪花だったが、予想以上に肉体にダメージがあることに驚き、その場で座り込む。しばらく座り込めば平衡感覚だけは何とかなる。そう考え、座り込んだ雪花だったが触手はこの好機を逃すわけなく、雪花を倒そうと集中攻撃を始める。


「させるかよぉ!」


 理雄は戦斧を使い、触手の攻撃を受け流す。外れた攻撃は周囲の砂を抉り、土煙が舞う。視界が悪くなった理雄は雪花を守ることを第一に考え、敵の襲撃に備えた。


「理雄…あんたは敵を倒すことに集中しなよ」


「やだ!有樹は瀕死になるし、霧和は失明するしで仲間が傷つくのは見たくないんだ。幸い、俺は死なん!仲間を守るためなら何回でも死んでやるさ!」


 絶えず不意打ち攻撃をする触手は徐々に理雄の体力を奪っていった。視界が砂埃によって奪われている最中、いつの間にか合流している凍原が理雄に問いかける。


「理雄。今の言葉は本心だな?」


「当然だ!俺は頭悪いけど、仲間を見捨てるほど頭は悪くない!」


「なら、この状況を打開する策が一つある。理雄、耳を貸せ」


 凍原は理雄に耳打ちすると理雄は無言で頷く。すると理雄は戦斧を構え、触手が襲ってくるタイミングを待った。すると砂埃に隠れ触手は攻撃を始める。薙ぎ払ってくる触手を理雄は戦斧で受け止め、弾き飛ばす。すると触手は再び土煙に隠れる。すると今度は周囲の海岸の砂埃に攻撃を始めたのか、今まで以上に砂埃が理雄の周囲に拡散する。


 神経をとがらせ始めた理雄は目の前の敵がどのような行動をとるのか予測し、対策を考え始めた。四方八方から触手が攻撃される想像を思い描き、理雄は大声で海魔族の王に挑発する。


「かかってこい!お前じゃあ俺は倒せない!」


 その言葉に応じるかのように触手が襲い掛かる。場所は理雄の視覚から外れ、負傷した雪花にとどめを刺そうとした一撃。常人の身体能力なら間に合わない攻撃であったが、理雄はその点に関しては超人の類。その攻撃を飛び蹴りによって逸らす。


 辛うじて雪花に当たらなかったことにほっとしているのもつかの間。再び触手は砂埃に隠れる。それ以降はその繰り返しだった。触手は負傷した雪花にとどめを刺そうと攻撃を続ける。その旅に理雄は全身体能力を持って雪花をかばい続けた。


 理雄の呼吸が乱れ始めたその時、雪花が立ち上がった。頭部から流血し、片目をつぶっている雪花は誰が見ても満身創痍であった。骨折したあばらを抑え、時折痛そうな表情を浮かべながらも雪花は笑顔で理雄に感謝する。


「ありがとう理雄。おかげで死なずに済んだわ」


「そうか。もう少し休んでもいいぞ?まだ守れるからな」


「自分の身ぐらいは自分で守るって。それに、さっきの凍原との作戦を実行するにも体力残しておかなきゃいけないでしょ?」


 笑顔を見せた雪花は風の能力を用いて砂塵を吹き飛ばす。姿を現した触手は雪花を警戒するが、満身創痍であることを悟ると標的を理雄に変えた。


「私はこれで精一杯だから、あとは頼むわね理雄」


「任せろ。ちゃんと役目を果たすさ」


 理雄は触手に目を向けると不意打ちのつもりなのか既に振り下ろしていた。雪花を一撃で戦闘不能にした重圧は直撃すれば確実な死を迎えるだろう。しかし、理雄だけは違った。理雄はその触手をあえて受けきり、その触手を掴み取る。


 触手は理雄から離れようとするが、戦闘族に匹敵する力を持つ理雄を振りほどくのは容易ではなかった。触手が完全に動かなかくなったことを確認すると理雄は大声で叫んだ。


「凍原!今だ奴に飛び込め!」


「五秒抑えればといったが、上出来だ!」


 今まで待機していた凍原が触手の根元に近づいた。その根元を凍原は能力を使い触れた。すると海魔族の王が今まで似たことがない反応をし始めた。触手の根元を塵にすると再び触手が生えることはなかった。そのことを理解した凍原は接近したまま他の触手も破壊するため、時計回りに触手の根元を破壊する。


 最後の触手を破壊しようとしたとき、凍原は視線を感じた。海魔族の王が凍原を睨んでいる。凍原はその睨みに見覚えがあった。皮肉そうに凍原は海魔族の王が聞こえるような声で話し始めた。


「憎いか?そりゃあそうだろうな。腕を破壊されたからな。だがな、俺の憎しみはそれ以上だ。お前ら海魔族が俺の両親を奪った痛みはこれ以上だ。安心しろ。俺は優しいからな、すぐに楽にさせてやる」


 最後の触手を破壊すると海魔族の王はうめき声を上げ続けていた。完全に破壊することを確認した凍原は今まで戦っていた軍人達へ向かっていった。




 凍原が全ての触手を破壊した後は一方的な作業であった。攻撃手段を失った海魔族の王はうめき声だけ上げていたが攻撃も防御もすることができず、とどめを刺されるのを待つだけだった。しかし、海魔族の王特有の膨大な生命力と再生力は侮れなかった。凍原が破壊したはずの触手の核となる部分が再生し始めるのを確認されると急いで討伐を急がした。しかし、ここにきて決定打が足りなかった。


 凍原は触手の破壊に全てを費やしたのか能力の代償によって体が死体のように冷えていた。まだ戦えると声を荒げていたが明らかに危険な状態であったため、強制的に医務室へと送られた。結果、海魔族の王の膨大な生命を奪える強力な能力者がこの基地にはいなくなってしまった。


 そんな状況の中、駆けつけてきたのが天災の英雄である雷神卿であった。すでに戦いに決着がついていることに驚いた雷神卿は何が起きたのか、そして現在どんな状況なのか把握するとすぐに海魔族の王にとどめを刺した。戦いが終幕を迎えた後、基地にいる皆が歓喜した。


 そして現在、戦闘で負傷しなかったEXクラスのメンバーは負傷兵の手当の手伝いを行っていた。


「叶、この薬はどうすればいいんだ?」


「本郷先輩。そのお薬はあちらで診察している人に渡してください」


「りょーかい。ちゃっちゃと行ってくるぜ」


「ありがとうございます!アルケミック先輩は包帯を創ってくれませんか?もうすぐ切らしそうで…」


「オッケー!すぐ創るから待ってて!」


「叶。儂は何をすればいいのじゃ?」


「要先輩は負傷兵の中でも重症患者をあのテントに向かわせてください」


「了解した」


 医療班のルールを把握していない和貴達は叶の指示の元、行動を始めていた。時折重症患者を目の当たりにして叶は気分が悪くなりそうだったが、気力を絞り出し、やれることを黙々と続けていた。


「頑張っているな叶」


「和貴先輩。戦いお疲れさまでした。和貴先輩は休まないんですか?」


 叶に疑問に和貴は働いているクラスメイトの姿を見てため息をつき、少し笑った表情で叶に説明する。


「みんな働いているのに俺だけ休むわけにもいかないしさ。最も、理雄は雷神卿と話しているらしいがな」


「雷神卿とですか!?一体なんででしょうか?」


「さあな。あと俺もあの槍の件で呼ばれているから今から少しの間抜ける。それも含めて叶に伝えに来たんだ」


「わかりました。他の先輩が訪ねた来たら伝えておきますね」


叶に伝言を残した和貴は一度部屋に戻り、黒い槍を手にした後、雷神卿に呼ばれた会議室へと赴いた。会議室のドアをノックした和貴は「失礼します」と一言確認すると同時に会議室に入った。


 刹那、和貴の全身に電撃が走ったかのような痺れを感じた和貴は体に違和感があるか調べるが、その謎が目の前の存在によって全て納得した。


 理雄が岩石の肉体なら、目の前の英雄はダイヤモンドに匹敵する筋肉を持っているだろう。身長は理雄よりも小さい筈なのに理雄よりも大きく見える威圧感。そして時折体から迸る電気は時折近くにいる者を軽く感電させる。先ほどの違和感もそれに違いないだろう。


「貴様が我が王の弟君か。随分似ていないが…。いや、野暮な検索はすまい」


「初めまして。お噂は姉さんから聞いています。『雷神卿』」


「ほう。(われ)を知っているのか。なら話は早い。早速だが貴様が持っている黒い槍を見せてくれ」


 和貴は小さく頷くと黒い槍を雷神卿に手渡した。雷神卿は槍を受け取ると鑑定士のようにその槍の隅から隅まで観察を始めた。五分後、雷神卿は納得したのか黒い槍を和貴に返却した。


「確かにこの槍はあいつの持っていた槍に違いない。となれば、貴様は大変な運命を背負ってしまったな」


「といいますと?」


「龍神族にとって己の武器を手渡すという行為は己よりも強くなる可能性があると判断したということだ。あいつらは武の求道者。強さに飢え求めている。故に己よりも強くなる可能性をもった敵に対して塩を与え、完全に成長しきったところで全力で狩りに再び現れるだろう」


「雷神卿もあったのですか?そういう因縁が」


 すると雷神卿は機嫌が悪くなったか、すねた表情で語り始める。


「あいつは初陣の時からずっと戦っている。いわば好敵手だ。さて、己は黒龍がここにいたかの事実確認のためにきたがもう姿はない。故にもうこの基地を立ち去らんといかぬ。後の話は身内に詳しく聞くがいよい」


 機嫌が悪くなった雷神卿は会議室を出て行った。多少子供っぽさを感じた和貴は退出される際に一礼した。雷神卿がいなくなったことを確認し和貴は自分の立場について冷静に考え始めた。


――厄介な運命を背負ったな。わからないことは多いが、一つだけやることはわかったな――


 強くなること。それを理解した和貴はこれからどうやって強くなっていくか考えたが、現状その手段を思いつくわけではなかったため、現在優先する仕事を行うべく、叶の手伝いに戻っていった。

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