表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グロウ・ソウル  作者: PIERO
修学旅行編
43/57

大いなる海魔族の進撃(修正完了)

 作戦会議から一時間後、海魔族の王が近づき和貴達は砲台にいた。曇天が覆う上空を眺め、その先に見える巨大な怪物の姿を和貴は視界に収める。地上から三十五メートルの高さの砲台だが、目の前の怪物はそれに匹敵する巨大な怪物である。


 イカのような外見を持つ怪物の上半身にはフジツボのようなものが纏わり、巨大な城塞の壁ともいえる頑丈さを思い浮かべる。海面から浮き上がっている触手と思われる巨大な手足も本来のイカような形ではなく、人間の巨大な手のような形であった。加えて、その巨腕からは普通の人間と同じサイズの手が何十万本も生えている。それだけでも充分に気味悪かったが、さらに和貴達の戦意を削ぐ特徴がもう一つあった。


「カッキー。あれって目玉だよね?」


「だな。あの眼光で睨まれると生きている心地がしないな。最初に出会った海魔族がこいつじゃなくてよかったぜ。初めに出会っていたなら俺達の精神はおかしくなっていただろうな」


 砲台の隣にいたアルケミックに指摘された部分、巨大な複数の眼について和貴は吐き気を感じながらも冷静に答えた。少なく見積もっても十個以上ある海魔族の王の眼は和貴達を注目していないが、もし注目されてしまえばいくら海魔族に慣れているものでも、発狂するに違いない。


 これ以上目の前の敵を分析すると自信が発狂しそうになると和貴は一度思考を切り替え、作戦が開始される合図を待つ。和貴達が草部と話している間に作戦の方針が決まっていた。第一段階として海魔族の王の鎧を剥がすため、砲台に容易されている砲弾をありったけ使い、その鎧を破壊する。それが今から始まろうとしている作戦の内容である。緊迫した空気の中、和貴含む軍人達は砲台の射程距離に到着するまで作戦開始の時を待っていた。


「アル。そういえば砲弾はいくつ創ったんだ?」


「わからない!でも、いっぱいあるよ!」


 いっぱい。その一言を比喩するかのように確かにいっぱいあった。正確な個数までは把握していなかったが、砲台に到着するまでに百個までは数えていたため、多分足りるだろうと和貴は判断していた。


 そしてその時が来た。基地の中心から緑色の狼煙が上がった。それを確認した瞬間、砲台にいる軍人達が一斉に動き始めた。刹那、轟音が鳴り響き砲弾は海魔族の王の鎧に着弾する。鎧に傷はなかったが、それでも砲弾の弾幕を張り続け、鎧の破壊に全てを費やす。しかし、海魔族の王は何事もなかったかのように基地に向かって前進する。


 徐々に前進していく海魔族の王を見て和貴達は恐怖感を感じ始めた。ここで防がなければ間違いなく押しつぶされる。その確信があったからだ。砲弾では効果が薄いのではと考えが頭をよぎった瞬間、その時は起きた。


 海魔族の王に纏っている鎧が一部崩れ始めたのだ。大きさにしてわずか一メートルにも満たないが、それでも和貴達が希望を持つには充分すぎた。


「綻びが入ったぞ!その場所に集中砲火しろ!」


 和貴はこの好機を逃さず、大声で自信を鼓舞する。その鼓舞は和貴から周囲の人にへと伝染し、雄叫びを挙げて砲弾を発射する。序盤以上の砲弾の嵐は海魔族の王の鎧に打ち込んだ楔に命中し、綻び始める。その綻びはやがて周囲を侵食し、新たな綻びとなって鎧を破壊する。だが、その状況に海魔族の王が黙っているわけがなかった。


 海魔族の王はその眼を和貴達に向けた。すると和貴達は蛇に睨まれた蛙のようにその視線の威圧によって動けなくなった。睨まれた和貴達の内側から負の感情があふれ出す。不安、焦り、嫌悪、恐怖、苦しみ、絶望、諦め。人間の内側に刻まれた感情の呪詛は人間の行動を縛るのに充分であった。しかし、海魔族の王は知らない。睨んだ人間の中でたった一人神の加護を与えられ、その呪詛を打ち消すことができるという事実を。


「悪いな、海魔族の王。その呪詛は俺には通用しない!」


 右目に刻印を浮かべた和貴はその呪詛を打ち払い、海魔族の王を逆に睨めつける。直後、海魔族の王は和貴に怯んだのか、一歩後退をする。その直後、海魔族の王の呪詛が解け、凍り付いた周囲の軍人達は解放される。

 

「カッキー!!どうやってあの睨めつけから解放されたの!?」


「詳しい話はあとにしてくれ。それよりも作戦第二段階に行くぞ」


 アルケミックの質問に和貴は聞き流し、次の作戦の為に行動を移す。その最中、和貴は作戦が始まる直後のとある会話を思い出していた。




「単刀直入に言おう。明日、貴様ら死ぬぞ?」


 その一言に和貴は一瞬だけ憤りを感じた。何を根拠にと反論したかったが、アテナの目を見て察した。


――アテナは本気で言っている。しかし、なんで俺にそのことを?――


「理解してもらえて何よりだ。一応訂正するが、別にいきなり死ぬわけじゃない。対策しなければ死ぬと言っているのだ」


「何もだと?作戦もそろそろ完成するし、武器はともかく砲弾はいっぱいある。不安な点なんてどこにも…」


 直後、アテナは和貴にデコピンをした。叶の華奢な肉体から放たれたものとは思われないほどの威力に和貴は涙目になりながらも頭をおさえた。


「痛!!…何の真似だアテナ」


「盲点を逃している罰さ。肝心なところを見逃しているな和貴は。当然知っていると思うが、海魔族の強みは一体何だ?」


 アテナの質問に和貴は当然のように答える。


「それは精神攻撃と圧倒的個体数だ。それで序盤は押されていた。だが、今は一体だけ…そういうことか」


「ようやく理解したか。和貴達が戦った海魔族はあくまで下っ端だ。そいつら程度の精神攻撃なら強靭な精神で打ち勝つこともできる」


 だが、とアテナは深刻な表情で話を続けた。


「あれほどの規模になるともはや人間一人で何とかなるレベルじゃない。見るだけならまだしも、海魔族の王から君らを見たとき、真の精神攻撃が始まる。最も、神仏族である私にとっては少し気味が悪い程度だがな」


 アテナの説明を受け、和貴は頭を抱えた。これまでの戦いにおいて海魔族の精神攻撃に慣れたつもりだったが、実際は違った。その錯覚を覚えたまま戦場に向かうのは自殺行為に等しいと思われた。


 このことを知らせなければと和貴は行動に出ようとしたが、アテナに手を握られ、行動を止められる。和貴が少し苛立った表情を楽しみながらもアテナはわかって和貴に質問する。


「どこに行くつもりだ?」


「このことを倉沢さんに伝える。それだけでも被害は減るはずだ」


「どうやって?さっきも言ったが、人間の精神程度では絶対に海魔族の王の精神攻撃に対抗できない。たとえ強力な精神耐性を上げる能力者がいたとしてもだ」


「じゃあ、どうすればいい?何か考えがお前にあるのか?」


「馬鹿だな。そのためにわざわざ叶に頼んでこうして表に出ているんだぞ?話は最後まで聞くべきだと思うぞ?」


 からかうような態度であったが、アテナの眼は本気であった。和貴は一度冷静になり、近くの椅子に座りアテナの話を聞く。


「さて、話の続きだが、私の加護については大体わかったか?」


「ああ。身体能力、特に動体視力が異常によくなった。それから、技も盗み見できるようになった。お前の加護はそんなところか?」


「前者は正解だが、後者は知らないな。まあ、半分正解だ。しかし、実はもう一つある。それは恐怖感を薄れさせ、己の精神力を大きく向上させる力だ。この加護を与える前と与えた後では気分が少し違ったのではないか?」


 アテナの問いに対して和貴はこれまでの戦いを思い出す。アテナの指摘通り、初戦は何をすればよかったのか体がついていけなかった状態だったが、加護を与えてからは普段では絶対に行わない危険な行動を必然的に行おうとしていたような気がした。


 驚愕を隠せない和貴だったが、アテナの説明を聞き、納得する。それと同時に和貴はアテナが言いたいことを理解した。


「ようやく理解した。加護を使って海魔族の王の恐怖に対抗しろと言いたかったのか。だが、それでも俺一人だけ動けても戦力にはならないぞ?」


「心配いらない。海魔族の恐怖は初見殺しだ。一度破られれば二度は通用しない。そしてそれは王とて例外じゃない。…話は以上だ。さて、私はもう休む。あとは叶に任せるとしよう」


 瞬間、叶の肉体は糸が切れたようにその場に倒れそうになる。和貴は咄嗟に倒れそうになった叶の体を支える。すると意識を手放していた叶はゆっくりと瞼を開けた。眼の色は両目とも赤色であることを確認した和貴は一息つき、叶に話しかける。


「大丈夫か叶?どこか気分が悪いとかないか?」


「ぼ、僕は大丈夫です。その、アテナさんが迷惑しました。…作戦開始までもう少しですね」


「そうだな。そのためにも今は休まないとな」


「…先輩がよかったらですけど、この部屋で休ませてもらってもいいですか?」


「別にいいぞ。今は一秒でも休むほうがいい。特に叶は医療班だからな。それこそ休む暇は今しかない。俺は戦いの準備をするから、それまでしっかりと仮眠しておけよ」


 その言葉を後に和貴は黒い槍を持って自室を出て行った。のちに倉沢から招集がかかり、作戦会議に呼び出されるのはこの出来事の五分後のことであった。




「アテナの言う通りだったな。一度破ればどうってことない。あとは作戦を忠実に進行するだけだ」


 軍人達は第一段階が成功したことを確認すると、砲台から各自の武器や能力の発動の準備をしていた。作戦の第二段階。それは鎧を破壊したことによってむき出しとなった海魔族の本体に対する攻撃である。

曇天からは雨が降り始め、戦いは中盤に進もうとしていた。


――ここからは完全な火力勝負となる。だが、少なくともはじかれることはない。なぜなら、倉沢さんの研究結果で海魔族の肉体は基本的に柔らかいことは証明されているから!――


 作戦が始まる前、倉沢が作戦の概要を説明していたとき、和貴は倉沢に「海魔族の王の肉体が強靭だった場合、攻撃は通るか否か」という質問をした。その質問に対して倉沢は笑顔で「どんな個体でも海魔族の肉体は金属以上に強靭になることは決してない」答えた。倉沢が研究していた海魔族の特徴に肉体の強度も含まれているが、その研究の結果海魔族の肉体は人間と同程度の強度であるということが判明した。海魔族の王も骨密度こそ違うが、基本的には同じであるという推測もついているらしい。


 海魔族の王の行動を注意深く観察すると、次に黄色の狼煙が上がった。それを見た和貴は大声で全軍に聞こえるように指示する。


「第二段階、作戦開始!!一斉に攻撃せよ!」


 刹那、その掛け声がかき消される轟音が戦場に響き渡る。弾丸の雨、砲弾の轟音、着弾した後の爆発、全てが戦場を包み込み、激しいコーラスとなって戦場にいる全てに響き渡る。


 和貴は遠距離の攻撃手段を持っていない為、何もできないことに悔しさを感じながらも周囲を見渡す。この砲台にいたアルケミックは能力を用いて様々な高火力の武器を創っていた。海魔族の王は激しい攻撃によって苦痛を感じたのか悲鳴に等しい不気味な声を上げていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。海魔族の王は悲鳴こそ上げているが、進撃の勢いが弱まる様子は一切なかった。火力不足に舌打ちする和貴だったが、すぐに無線機を用いて倉沢に連絡をする。


「倉沢さん!火力が足りない!あれじゃあ、足止めすることは不可能だ」


『そうですか…。んんんなら!第二プランを実行しましょう!すぐに一時撤退の指示をお願い致します!』


 無線機の会話を切り、和貴は青色の発煙筒に火をつける。すると瞬く間に群青色の煙は空に昇り、周囲の視界に認識させる。すると軍人たちは慌てた様子で持ち場を離れ、アルケミックよりも後ろに後退した。


 全軍が後退したことを確認した和貴は今まで待機していたアルケミックに一言声をかける。


「アル。加減はするな。だが、範囲はちゃんと考えろよ?」


「りょーかい!ボクに任せてよ!」


 元気よく返事したことを確認した和貴はアルケミックに一冊の本を手渡した後、やや急ぎ足でアルケミックから離れる。アルケミックは周囲に誰もいないことを理解すると、和貴から手渡された本を読み始めた。


 軍人達は一体に何をしているのかと不思議そうな表情でアルケミックを観察する。刹那、アルケミックの周囲に様々な軍事兵器が現れた。その全てが先ほど海魔族の王に向けて使った兵器以上の代物ばかりであり、周囲の軍人達は驚きを隠せなかった。


「きゅう~。もうだめ。頭の中がオーバーヒートしそう」


 これらを創った張本人アルケミックは強力な武器の性能を詳しく読み込んだせいか既に疲弊していた。和貴はアルケミックの背中をたたき、アルケミックにとって絶望に近い一言を伝えた。


「あともう一か所同じことをするんだぞ?がんばれよアル。じゃないとこの基地にる人全員死ぬから」


「うわ~ん!和貴の鬼!そうやっていつも退路を断たせていく!」


 泣きながらであったが、アルケミックは自身の役目を果たすために護衛の軍人と共にこの場を後にした。強力な武器を大量生産したことを確認した和貴は倉沢に準備ができたことを報告すると、待機していた軍人達に倉沢の命令を伝える。


「倉沢さんからの命令です。『その武器を追って敵を焼き尽くせ』です。それじゃあ、やりましょう」


 和貴は再び第二プラン決行の狼煙を上げる。すると軍人達はアルケミックが想像した武器を手に取り海魔族の王に向かって銃口を定める。先ほどは銃弾だけだったために火力不足に陥ったが、今回は違った。ロケットランチャーや対物ライフル、挙句の果てには超電磁砲といった武器も創られていた。


 各自強力な武器を手にした軍人達は銃口を海魔族の王に向け、合図があるまでその瞬間を待つ。一方で海魔族の王はわずかな時間とはいえ、銃弾の雨を止ませてしまった為か、もうすぐ目の前に近づいていた。あと十メートルで海魔族の王は和貴達が待機している砲台に到着し、蹂躙するのは想像に難くなかった。


 海魔族の王が徐々に近づくごとに皆が冷や汗を掻く。和貴自身もアテナの加護があるおかげとはいえ、心音で自身の心臓が爆発しそうな鼓動を感じていた。誰もがまだかまだかと緊迫している空気の中、その時は来た。攻撃の合図を知らせる狼煙を確認した和貴は爆発しそうな鼓動と共に大声を上げた。


「全軍!砲撃開始!!」


 その一言を言い終えた瞬間、先ほどの銃撃戦と違って轟音が砲台中に響き渡った。あらゆる強力な兵器が海魔族の王に着弾し、先ほどとはくらべものにならない威力が海魔族の王に襲い掛かる。海魔族の王は不気味なうめき声をあげる。その様子を観察した和貴は確実に聴いていると確信を持つ。


 止まぬ近代兵器の豪雨は海魔族の王を着実に後退させた。和貴達に慢心はなく無慈悲に海魔族王にダメージを蓄積していく。ここで予想外の出来事が起こる。海魔族の王が突然倒れ始めたのだ。この瞬間、この場にいる全員が確信する。これは好機であると。


「倉沢さん。第三段階に突入しても問題ないですよね?」


「…かまいません。いや、むしろ今しかない!海魔族の王が倒れている今だからこそ、この好機を逃すわけにはいきません!すぐに第三段階に移行します!」


 無線機を切った瞬間、和貴は最後の作戦に移行するために紫の狼煙を上げた。瞬間、地上から雄叫びが響き渡ってきた。和貴は砲台から地上を眺めると武器を持った軍人達が倒れている海魔族の王に向かって突撃していた。数は三十人にも満たないが、その人物たちこそ、今回の作戦における精鋭達ばかりであった。


 その中には和貴の親友である理雄や雪花、そして凍原がいた。その三人を見つめ和貴は小さく呟いた。


「勝てよ…。この戦いで勝敗が決まるからな」



 

 第三段階に移行する数分前、戦いに行く理雄と雪花と凍原は本郷に呼ばれ、集まっていた。目の前に敵がいる為か集中力を高めていた凍原にとって今は邪魔されたくない時間でもあった。凍原は苛立ちを隠せず本郷に話かける。


「それで、話ってなんだ?俺はさっさと集中したいんだが?」


「目の前に敵がいて苛立つのはわかるが、お前らにこいつを渡したかったのさ」


 本郷が三人に渡したのは普遍的な木彫りの人形だった。その人形を見て凍原の苛立ちはさらに増していきそうになったが、雪花ははっとした表情で本郷に質問する。


「これって、半年前の事件で本郷を救った『身代わり君』?」


「そ、しかも俺に渡された欠陥品じゃなくてちゃんとした完成品だ。アルがお前らのために必死になって作ったんだぞ?」


 その言葉を聞き、凍原は心の中でアルケミックに感謝する。「さて」と本郷は背を伸ばしながら呟くと真剣な眼差しで三人を見つめた。


「俺はこの戦いにあまり貢献できなかったが、せめて一言だけ言わせてくれ。…無事に戻ってきてくれ。もうクラスメイトが痛々しい姿で帰ってくるのは見たくないんだ」


 悲しみな視線であったが真剣な表情で本郷は目の前の三人を見つめる。凍原は視線を一瞬本郷の手を見つめると何もできない悔しさ故か、血が垂れるほど強く握られていた。ここまで心配してくれる友人に感謝しつつも凍原は本郷に話しかける。


「心配するな。すぐに終わらせる。なんせ、俺達はクラスメイトの中でも三強の実力者だぜ?」


「その通り!本郷は安心して待っとけ!!海魔族の王なんてすぐに倒してやるからさ!」


 凍原と理雄は本郷を安心させるために明るく振舞った。雪花は何も言わなかったが、その二人を見て自然と笑みを浮かべていた。その三人の態度を見て本郷は突如笑い始める。気がおかしくなったのかと心配する理雄だが、本郷は涙目になりながらも訳を話した。


「いやー。心配していた俺がばからしく思ってさ。確かに今いるメンバーは接近戦最強だったな。なら、何も心配する必要なんてなかったな。…ちゃんと勝てよ!三人とも!」


 その声と同時に第三段階で戦う軍人達の招集が始まった。本郷は手を振って見送ることしかできなかったが、それでも三人は帰ってくると確信を持った。


 そして作戦が開始され、先頭に近い凍原達は五十メートル先の海魔族の王に向かって突撃する。海魔族の王は凍原達の存在に気付いたのか不気味な触手を用いて応戦を始めた。ただ振るうだけで三十人を屠るのには充分すぎる触手は精鋭三十人に襲い掛かる。しかし、それをたやすく受け止めた人物がいた。


「この程度の威力、クルベルトに比べたら全然軽いぜ!」


 理雄は戦斧を振り上げ、巨大な質量をもった触手を弾き飛ばす。重々しい触手は不気味な液体を垂らしながらも明後日の方向に吹き飛ばされる。直後、海魔族の王の悲鳴が響き渡った。


 しかし、それが海魔族の王怒りの引き金となったのか海魔族の王は全ての触手をもって目の前の敵を全力で嬲り殺そうとした。すると精鋭に紛れ込んでいた幹部の軍人が大声で叫んだ。


「固まるな!!触手は十本ある!三人一組になって触手を散開し、触手を破壊しろ!」


 その一言で凍原、雪花、理雄の三人はグループとなり、先ほど負傷させた触手に相対した。各自戦闘が始まっている最中、雪花は嬉しそうな表情で凍原と理雄に話しかけた。


「この三人で戦うのは久しぶりじゃない?」


「さあな、少なくとも俺は初めてだがな」


「そうなの!?じゃあ、早速役目を決めましょう」


「そんなわかりきっていることを確認する必要なんてないだろ」


 凍原はロングコートの袖をめくり上げ、襲い掛かってきた触手に触れた。すると海魔族の王はこれまで以上の悲鳴を上げ、凍原が触れた触手が徐々に崩壊、塵になった。しかし全て塵になったわけではなく、二メートルあたりで触手の風化が収まった。その様子を見て凍原は関心したように呟いた。


「今まで一撃で敵を倒してきたからわからなかったが、俺の能力の範囲は二メートルぐらいだったのか」


 しかし、風化された触手は徐々に回復し、もう少しで完全に再生しそうであった。その様子を見て凍原は改めて役割を宣言する。


「雪花、役割の話の続きだが、雪花は陽動、理雄は触手を伐採、俺は触手そのもの破壊で問題ないな?」


 凍原はロングコートを脱ぎ捨て、両手を前に構える。雪花は笑顔で頷き、理雄はわくわくした表情で目の前の怪物に対峙する。肉体が徐々に冷えていく感覚を感じながら凍原は大声で合図する。


「行くぞ!海魔族の王の首は俺が刈り取る!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ