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グロウ・ソウル  作者: PIERO
修学旅行編
39/57

リベンジマッチ(修正完了)

「草部の外相は内臓がいくつか損傷していました。部下に草部が戦っていたとされる駐屯地入口を調べさせたところ、凄まじい血痕が残っていたそうです。おそらく草部が背後からの侵入を死守してくれたのでしょう」


 草部が気絶している間に倉沢は招集した和貴に事情と重症になった経緯を説明していた。その説明を聞き、EXクラスの皆が草部の評価を改めていた。普段はクズで仕方ないが、ここぞというときには体を張った草部を罵倒する人物など誰一人としていなかった。


「草部先生に後で感謝しないとな」


「そうだな。あの先生のおかげで俺は戦う意思が目覚めた。なら、先生に教わった通りに俺はやるべきことをやらなきゃな」


 普段の傲慢な態度の有樹では考えられない発言に和貴は若干戸惑いを覚えた。有樹の顔を見ると頬が赤く腫れている。何があったのかは察するがそれだけで有樹の態度が変わるとは到底思わなかったからだ。


「有樹、お前この短時間の間で変わったか?」


「和貴がそういうのであれば変わったのだろうな。…和貴、何か考えはあるか?この現状を打開する策みたいなものを」


 有樹が和貴を頼るという行為に和貴だけでなく、この場にいるEXクラスの全員が驚いた。戸惑いこそあった和貴だが、有樹の要望に応えるべく作戦を考え始めた。がしかし、倉沢はそれを許さなかった。


「和貴君。君はあくまで学生です。あなたが作戦を考えたところでその作戦を誰が聞き入れるのですか?」


「倉沢さん。俺は作戦が立てればそれでいいです。倉沢さんはその作戦の指示をお願いしたいです」


「私が聞き入れると考えているのですか?たかが学生風情の作戦にこの地域の住民すべての命を懸けると?あなたにはその覚悟がおありですか?」


 この地域全員の命という倉沢の言葉に皆が重圧を感じた。たった一つのミスで全てが失う。その責任感に緊迫した空気が包み込むが和貴は静かに、そして確信を持って倉沢の問いに対して答えた。


「…半年前、俺は戦闘族を抑える指揮官として戦った。だけどそこで思い知らされた。己の未熟さを。己の無力感を。仲間が死にかけたとき俺は何もしてやれなかった。だからこそ俺は皆と共に立ち、そして勝利へ導く。倉沢さんお願いします。聞くだけでもいい!俺の作戦を聞いてほしい!」


 和貴は土下座し倉沢に願った。自身の作戦を聞き入れてくれることを。そして倉沢がその要望を聞いてくれることを。倉沢は大きなため息を吐き、呟いた。


「和貴君。悪いがその意見は聞くことはできない。なぜなら私は一指揮官である。情や迂闊な判断で兵を巻き込むことはできない。…最も、今は草部の友人としてこの場に来ているがね」


 最後の一言を聞いたとき、和貴の表情は明るくなった。倉沢はにんまりと笑顔で和貴の顔を見ていた。


「ありがとうございます!」


「あくまで聞くだけですよ?詳しい話なら後で研究室に来なさい。私は待っていますのでそこでお話をしましょう」


 倉沢はそれだけ言い残すと研究室へと向かっていった。倉沢の姿がいなくなったところで和貴はガッツポーズをとった。すると周りのEXクラスの仲間も聞き入れてもらったことに喜びを感じていた。


「ようやくテーブルに着くことができるな。だが、作戦はどうするつもりなんだ?」


 喜んでいる中、本郷は疑問を和貴にぶつける。すると和貴はずれた眼鏡を掛けなおし、本郷に説明し始めた。


「まず、海魔族についてだが、これはみんなに協力してもらうしかない。戦える戦力は後で倉沢さんに聞いてみるが、海魔族は最初の戦いで一般兵でも対処できた。問題は敵の投げつける攻撃だ。この攻撃に対して一番有効だったのは砲台と後衛により援護射撃だった。この問題を解決するにはあの砲台を修復しないといけないわけだが…できるか炎星?」


 和貴は炎星に確認をとる。炎星は無言で頷き、自室に戻っていった。その姿を確認した和貴は改めて皆に簡単な流れの説明をするのであった。




 戦場に朝日が昇り、軍人達はこれから始まる戦いに対して緊張して待機していた。


 海上には先日と似た状態で海魔族が海岸に潜んでいる。その数は昨日とは比べものにならない程の個体数であった。敵も今日で決着をつけるつもりということを理解した倉沢は皆に指令を言い渡す。


「諸君!昨日は敵の戦略に踊らされさぞ鬱憤が溜まっているだろう。だが、今度は我々主催者だ!存分に敵を躍らせ狂い、そして皆殺しにせよ!」


 それだけで皆の士気が高揚する。高ぶった士気は昨日の敗戦を一時的に忘れさせ、恐怖心を薄れさせる。皆が目の前の敵を倒そうとする意識の中、海魔族は徐々に陸地にへと侵略を始める。


 一歩そして一歩と侵略される姿を見て飛び出しそうになる軍人達だが、理性によって衝動を抑え、まだ突撃しない。海魔族はこれを好機と思い、少しずつ侵略を始める。


 標的まで五十メートル。その距離は海魔族の距離感を狂わせ、敵が目前にいると誤認させる。しかし、軍人達も同じだった。目前に敵がいると誤認しそうになるが、指示が出ていない以上、飛び出すわけにはいかなかった。


「まだ…まだです。もう少しですよ…」


 残り四十メートル。海魔族の侵略速度が速くなっていく。段々と加速していく海魔族の侵略は心の奥に秘められた恐怖を湧かせる。顔色が悪くなっていく兵士が多数いる中、倉沢はまだ突撃の命令を出していなかった。海魔族の侵略速度が最大になった時、その瞬間は訪れた。


「後衛部隊!放てぇ!」


 前衛の背後から突如として現れる後衛部隊の銃弾の雨により、海魔族は不気味な悲鳴を上げながらその場で倒れる。しかも、一度加速した勢いは中々止まることができず、銃弾は多くの海魔族の肉体に風穴を開けた。すると海魔族は先日と同じように同胞の肉片で後衛部隊に向けて投げつけようとしたが、銃弾の雨によって阻まれる。


 突撃した百体が風穴となり、侵略してきた海魔族が怯んでるタイミングを逃さず、倉沢は指揮する。


「前衛!突撃!一匹たりとも海に逃がすな!」


 そこから狂戦士の蹂躙が始まる。今までの鬱憤を晴らすべく、軍人達は異常な戦闘力をもって敵を蹂躙する。時折、投擲しようとする海魔族もいたが、別の手段によってそれは潰える。修復された砲台による援護により投げる直前で潰されたからである。


 昨日のやり返しができたことを理解した倉沢は思わず笑ってしまう。嬉しさ故か、あるいは狂気故か。どちらにせよ、作戦がうまくいったことに倉沢は大笑いしていた。


「感謝しますよ!和貴君!ここまで作戦がうまくいくとは思いもしませんでしたからね!」


 時は戦いが始まる前に遡る。作戦を考えた和貴は倉沢にその概要を伝えるため、研究室にて話し合っていた。一方で倉沢から海魔族の詳しい習性を聞き終えたところで和貴は作戦を話した。


「まず、陸地に攻め入る敵についてですが、敵はおそらく勢いをつけるために加速するでしょう。なら、最大まで加速させたところで、正面の海魔族を打ち取りましょう。打ち取るのは…」


「後衛部隊ですね。加速させた海魔族を打ち取れるとした彼らしかいませんですからね。しかし、そんなことをすればまた敵の投擲によって壊滅する可能性があるのでは?」


 倉沢の疑問に和貴は微笑し、倉沢の心配が杞憂であることを説明し始める。


「問題ないです。うちのクラスメイトに修復と製造のプロがいます。武器であればどんな規模でも簡単に修復できるでしょう。その砲台に砲撃手を数名その砲台に待機させたいのですが、よろしいでしょうか?できれば砲弾をすぐに装填できる達人と精密射撃ができる達人の二人が入ればいいのですが…」


「かまわないですが…たった二人で大丈夫なんですか?砲弾も昨日の砲撃で尽きかけているのですが…」


「砲弾についてなら問題ないです。ですが、敵にとって砲台は厄介極まりない。昨日と同じく破壊される可能性が高いでしょう。そこで、実力者を八人ほど屋上で砲撃部隊を護衛する必要があります。学生からは二人出します。軍人から六人ほど人選をお願いできますか?」


 そして現在、ここまでは和貴の読み通り先日と違い、一方的に敵を倒していた。敵の戦力がわかっている以上、次の手は海魔族の中でも戦闘に特化した怪物か大型の海魔族のどちらかあるいは両方を投入してくるだろうと倉沢は考える。


「できるだけ敵を倒してくださいね。それができなければ以降の作戦がうまく機能しない可能性がありますからね…」


 戦いの状況を見つめるしかできない倉沢は次の強敵がいつ現れるのか観察しながら、的確に指令を出していた。




 砂塵が舞う戦場で和貴は槍を刺し、海魔族を仕留めていた。


 初陣は何もできなかった和貴だったが、今回は違った。戦場の緊張感を理解し、自分の実力を詳しく理解した和貴は油断も隙も無かった。槍さばきは素人から少し進歩しただけだが、体捌きや回避能力は前日と違い、動きに無駄がなかった。そんな和貴の近くにいた雪花と凍原は違和感を感じていた。


「和貴の動き、昨日とは全然違うわね。一体どうしたんだろう?」


「よそ見をするな雪花。初陣を経験して化ける奴は結構いる。和貴がそれに該当した。それだけのことだろう」


 凍原は海魔族に触れ、塵に変換させ、次々と海魔族を屠っていた。雪花もそれに見習い次々と襲い掛かってくる海魔族を刀で切り捨て、風の能力で周囲の海魔族の様子を伺った。


「和貴、この周辺の海魔族の討伐は終わったわよ!」


「そうか、他の戦場はどうなっている?」


「左は優勢だけど、左が劣勢ね。援軍に行く?」


「いや、劣勢なのは敵が投擲してくるからだろう。なら、炎星達の援護砲撃で解決してくれるはずだ。俺達は俺達でやることをしよう」


 和貴は海岸を見渡し、次の敵が陸上へ侵略してくることを予期して偵察していた。予測ではそろそろ砂浜に現れてもおかしくない頃合いである。しかし、海魔族の追撃は中々姿を現さなかった。


 危険を冒して海岸に近づくが、水面には魚影すらなかった。海岸には砲撃や銃撃によって撃ち抜かれた海魔族の死体が水面に浮かんでいる。会場は緑色の血液によって染められているがやがて砂と泥が混ざり合った茶色の海に戻るだろう。何事もなかった。そう結論付け和貴は元の位置に戻ろうとした時、興味深い海魔族の死体に目が移った。


 他の海魔族と違い、下半身がどこにもなかった。砲撃による影響だと考えたが、その割には肉が鋸によって引きちぎられたかのような死体だった。


 何故このような死体があるのかと考えていた和貴だった。しかしその考えはすぐに放棄する。背後から凄まじい殺意と敵意を感じ取ったからだ。


「なんだ…あれは…?」


 振り返った和貴の目に映ったのは不気味なものだった。かつて戦ったクルベルトよりは小さいが、存在そのものが一目見ただけでやばいと本能が訴えていた。


 顔と思われる場所にはホッケーマスクが装着されており、蒸気機関車のような重々しい溜息をこぼす。右手には刃こぼれした鉈を握っており、左手には海魔族の下半身が握られていた。瞬間、和貴は走り出した。頭の中では無駄だと理解しながらも走っていた。だが逃げられるわけがなかった。それだけ実力差がはっきりと離れすぎていた。


 一歩目を踏み出し時には既に和貴の背後に立っていた。アテナの加護を用いても和貴は理解できた。「かわすことはできない。痛みを感じる間もなく俺は死ぬだろう」と。


 背後の城塞は鉈を大きく振り上げ、和貴の肉体を真っ二つに切り裂こうと振り下ろした。




 戦場から高く離れた上空にて、俊龍とバハムートは戦局を上から眺めていた。


 破壊したとされる砲台は立った一日で修復され、次々と海魔族が屠られていく。その様子を見て俊龍は舌打ちをする。


「くそ!あの砲台をたった一日で修復するなんて…。とんでもない能力者がいたなおい!腹が立つぜ…」


「向こうの手札がわからない以上、こういうこともあるだろう。俊龍、お前の落ち度ではない。相手が一枚上手だったのだ」


「慰めにもなってねえよ。こうなったらもう一度俺があの砲台をぶち壊すか?」


 俊龍はもう一度突撃しようと考えるたがすぐに表情が変わる。バハムートも察したのか自軍の海魔族の様子を眺めていた。


「…おい。バハムート。なんで一番最後に控えている海魔族の主力が水面に浮かんでるんだ?」


「敵の能力か。あるいは遠距離による攻撃か。どちらにせよ、また一本取られたな」


()()()()()()()。敵の能力にそんな奴らがいたら確かにあり得るな。だがな、()()()()()()()!主力部隊は海底五百メートルで待機してるんだぞ!?そこまで射程が届く能力者なんて存在しねぇよ!」


 俊龍は憤怒しバハムートに怒鳴る。バハムートも俊龍の意見を聞き、手を顎に乗せ、現状を整理していた。


「…もし、海上や海中からの攻撃ではなく、海底からの攻撃だったら可能性がある現象は何があるか俊龍?」


「ああ!?可能性だぁ!?敵の能力の系統についてかぁ!?」


「違う。現象だ。海底火山の噴火とかそういう現象だけでもいい。何か考えられるものはあるか?」


 俊龍は怒りを抑え、可能性を考え始める。そしてブツブツと可能性を呟き始める。


「海底火山はないな。このあたりの地脈は戦う前に調べたからな。となると地震によって地殻にずれが生じたか?…いや、それだけ大規模なら戦場全てが揺れるはずだ。なら、人的要因は…。能力はあり得ねぇ。そんな能力は敵の王クラスの力じゃないと発揮できない。…いや待てよ…」


 俊龍は一つの可能性にたどり着いた。しかし、俊龍自身もその可能性を疑うしかなかった。俊龍は考えた結論をバハムートに告げた。


「おい、バハムート。万が一、いや億が一だ。まさかのまさかとは思うが奴が来てるかもしれない」


「奴?一体誰のことだ?」


「機動城塞だ馬鹿野郎!神仏族をたった一人で壊滅させた超級の化けもんだよ!」


 その言葉を聞き、バハムートは目を見開いた。その言葉が事実ならすぐに手を引かなければ間違いなく矛先がバハムート達のほうへ向くからだ。本来なら撤退しなければならない。だがしかし、龍神族の長の考えは違った。


「ようやく現れたか。…俊龍、わがままを言っていいか?」


「なんだよ…ってなんだよそのにやけた表情は。おい!?まさかと思うが…」


「そのまさかだ。俺はそいつと矛を交わらせたい。格上の戦いは中々できない貴重な体験だからな。どうしても戦いたいのだ」


 笑みを浮かべるバハムートとは対象的に俊龍は激怒する。バハムートの胸ぐらを掴み、俊龍は冷静にバハムートを威圧した。


「おい、冗談もほどほどにしろよ?相手が誰かわかっているんだよな?」


「無論だ。だからこそ俺は自分の実力を試したい」


「お前は長なんだよ。その自覚はあるのか?お前が死んだら、その時点で龍神族はまた長決めで争わなきゃいけねえんだよ。てめえだったらその地獄が理解できるだろ?それでも戦いたいっていうのか?」


「それでもだ。俺は長かどうか以前に龍神族だ。戦うことを望まれた種族だ。目の前に強敵がいるそれだけで全てをかけるには十分だ」


「…お前にとって種族の命や願望よりも、己の戦いのほうが重要ってことなのか?ああん!?」


「そうだ。俺は俺自身のために戦う」


 互いに睨み合う二人は無言のまましばらく時が流れる。日差しが雲に覆われ、俊龍の怒りは頂点に達していた。口から紅色の炎が猛々しく溢れ、上空の雲を焦がしたかのように周辺の雲が白から黒へ変わりゆく。


 これほどまでに怒りを露わにしても変わらない眼差しでバハムートは俊龍を睨んでいた。再び無言が続いたが、雲から日差しが現れると同時に俊龍の表情は憤怒から笑いに変わった。


「フハハハハ!!全くお前ってやつは昔から戦いだけに限って頑固だな!」


「すまない俊龍。俺の我欲に付き合ってもらって」


「かまわねえよ。元からお前の性格は理解してる。今の怒りはあくまで龍神族の軍師としてだ。そしてこれは友人としての一言だ。…相手は化け物だ。せめて片腕ぐらい取ってこい。じゃねぇとぶっ飛ばすからな?」


「なら、ぶっ飛ばされないよう、俺も本気で戦おう。俊龍、貴様はどうする?主力部隊が壊滅した今、我々の敗北は必定だが…」


 バハムートの質問に、俊龍は上空から砲台の位置を眺めた。砲台を眺めながら俊龍はこれからの行動を言い始めた。


「確かに敗北だな。しかも大敗って言っても過言じゃない。後で怒られるしな。だったらせめて俺らは頑張りましたっていう勇士ぐらいは証明しないとな?」


「なるほど、理解した。いざとなったら叫べ。どんな状況でも必ず助けにいこう」


 その会話を最後に二人は目的地へ向かっていった。しかし、目的地が別であろうとも、二人の目的意思は同じだった。黒は己の力量を図るため強者に挑み、紅は因縁を持つ強者(とも)との決着をつけるためにそれぞれの翼は己の欲望のため、翼を広げた。


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