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グロウ・ソウル  作者: PIERO
始業式襲撃編
12/57

崩れる戦力

引き続きお楽しみください。

 教室で作戦開始の合図が成功を祈っていた和貴は、合図が鳴り響いたことに安堵していた。


 今頃、作戦通り有樹達が敵を少しずつ無力化させているだろう。作戦が失敗することはないと和貴は信じたいが、万が一の可能性があると己に喝を入れ、新たな作戦を考えつつ、和貴は敵の次の行動を予測していた。


(恐らく襲撃に気付いた敵は現れた敵を迎撃するか、新たに廊下に敵を配置するか。あるいは待ち伏せて切るかの三択だろう。勝負の鍵はいかに敵の情報伝達を遮断することだな。ならば今は攻めることを考えよう)


 敵の行動を大まかに予測した和貴は会議で伝えた作戦以外にも何か他の手段がないか模索し始めていた。元帥も和貴と同じ結論に辿り着いたのか、既に駒を広げて何か考えていた。


「ねぇねぇカッキー!次の作戦はまだかな!?」


 罠を必要な数だけ創り終えたアルケミックは、いつもよりややテンションが高まって目を光らせいた。次の指示を待っているようだが、アルケミックの仕事は一旦これで終了であることを和貴は伝えた。


「しばらくは待機だ。次の段階に進むまで大人しく待ってくれ。それができないなら、せっかくだし理雄の傷の手当てをしてくれ」


 了解!!と元気よく敬礼してアルケミックは自分の机に座って能力を使い医療道具を創造し始めた。


 この場に寝そべっている人物、竹蔵理雄は作戦会議が終わってすぐに教室で眠ってしまった。最初は問題ないと思ってしまったが、やはり理雄の負担は予想以上に大きかったらしく、今は体力を回復するべく眠っていた。傷口はそのままだが、化膿しても困る為、多少荒くてもアルケミックに無理やり治療させるべきだと和貴は判断した。幸いにも、理雄はそう簡単に起きはしない。


 次の作戦について考えている考えていると、机の上に放置していた無線から連絡が来た。和貴は無線を手に取り連絡を取る。


『こちら凍原。一応目的地に着いたが』


 連絡してきた相手は凍原悠とうげんゆうだ。それを聞いた和貴は次の作戦を実行するべく、凍原に指示を出した。


「じゃあ、()()()()()()()()()|せ

《・》()()。一番いいのは無力化だが、お前の場合は加減が難しいから最悪消し飛ばしてもいいぞ」


『そういってもらえるとありがたい。確かに俺の能力は加減が効きにくいからな。遊撃は任せろ。敵を殲滅したら、また連絡する』


 無線を切られ、和貴は手に持った無線機を机に置いた。校庭の敵の数は先ほど本郷の能力によって大方把握していた。彼の報告では二十人近くはいるだろうとのことらしい。だが、それでも凍原にとっては関係ない。凍原の真の実力を発揮するのはこのような一体多数の状況である。過去に一度だけ、和貴は凍原と一緒に軍の依頼を受けその戦う姿を目にしていたが、文字通り格が違っていた。だからこそ和貴は凍原を信用していた。


「和貴。注文した武器が完成したが、他にやることはあるか?」


 背後から話しかけてきた人物、炎星は次の指示をもらうために和貴に話しかけてきた。だが、炎星がやる仕事はアルと同じく今のところは無いに等しい。


「いや、今のところは何もないさ。俺の作戦通りだと、炎星には大きな仕事が待っているから、それに備えて休んでくれ」


 炎星は「了解した」と言った後、その場で座禅し始めた。武器を造る前も座禅をしている姿をよく見かけるが、彼にとってはこの行為こそ一番落ち着くそうだ。


 改めて今の状況を把握すると、有樹、霧和、雪花の三人は学内の敵の掃討。凍原は校庭の敵を殲滅。文月は罠を設置したり、情報を集めてくるらしくここにはいない。


(残りは俺を含めて全員EXクラスにいる状態か。今のところは問題ないが、なんか嫌な予感がする)


 この感覚が杞憂であってほしいと願いつつ、和貴は皆の活躍を期待して待っていた。だが、既に大きな崩れが起きていることに、この時の和貴は気が付いていなかった。





「和貴の奴。面倒な仕事を押し付けやがって」


 敵の足音が響き渡る校庭にただ一人、凍原悠(とうげんゆう)は漂っていた。冬が終わり、春がに入ったこの季節の中、制服の上からロングコートを羽織り、手袋をつけている凍原は周りから見ればさぞかし滑稽だろう。


 風が強いこともあって、校庭は砂埃が舞い、西洋劇のガンマンの戦いの舞台の様である。仮に凍原が銃を所持していれば、本当にガンマンであっただろう。


 敵の姿こそまだ視界に入っていないが、これからここが激戦地になることは誰だって想像できる。


 和貴は凍原の能力を知っているが故に、単独行動させたことを凍原は理解していた。その方が凍原にとってもありがたいし、味方を巻き込まずに済むからだ。しかし、それとやる気は別だ。何しろ作戦上、明らかに凍原が一番敵を倒さなければならないからだ。


「面倒だが、久方ぶりに暴れられることに関してはありがたく思うぜ」


 見回りにきた数人の敵が凍原を視認したと同時に銃口をこちらに向けた。一応何をするかわからなかったが、今のところは何もするつもりは無いということだけは理解できた。


「そこのお前、一体どこから侵入してきた。いや、そんなことはどうでもいい。お前には二つ選択肢がある。一つは我々と一緒に体育館に向かうか。もう一つはここで死ぬかだ。十秒だけ時間を与える。貴様が選べ」


 敵は凍原のことを学外から侵入してきた一般人と思っているようだ。凍原の容姿は学生にしては美男子すぎる。和貴から聞いた噂によるとEXクラスの女子からは勝手に写真を撮られて高値で売買される程である。(同クラスの雪花曰く、「その釣り目とふわふわした髪形がたまらないんだよね~。それから身長も高いし、口元にある黒子が魅力的とかなんとか…」と評価していた)


 加えてこの格好だ。学生服を着用しているとはいえ、コートを二重に着ていれば確かに学生とは思わないだろう。 


 紳士的にも敵は凍原に選択肢を与えてくれた。どうやら敵にとってもリーダーの言いつけは絶対的な命令のようだ。だが、凍原はそれに対して鼻で笑い、腕時計に付属しているストップウォッチで時間を計測し始め、敵に新たな選択肢を付け足した。


「ならそこに第三の選択を与えよう。『貴様らは俺に殺され、作戦は全て崩壊する』だ」


 返答と同時に、敵は引き金を引いた。銃口から放たれたヒュドラ弾は凍原の額に向かって直進する。


 並の能力者なら、その時点で死亡が確定するだろう。仮に能力でかわしたとしても、敵の得物はマシンガン。一撃はかわせても、第二第三の追撃はかわすことは不可能に等しい。実際、額だけでなく、腹、足、腕、脇腹と複数の弾丸が凍原の肉体に襲いかかってきたのだ。 


「ただの一般人と思ったことがお前たちの敗因だな」


 だが凍原それをあざ笑うかのようには自身の能力を全開して、その全ての弾丸を触れたと同時に受け止めた。敵は弾丸が当たったことに対して勝利を確信したかのように笑みを浮かべた。だが、すぐに彼らの表情は驚愕へと変わった。


 何故なら銃弾に撃たれた凍原が未だに生きているからだ。敵は再び引き金を引き、豪雨の様な銃弾の雨が凍原に襲い掛かった。しかし、いずれの弾丸も凍原に当たった瞬間、弾丸が勝手に砕けた散ったのだ。


 攻撃が通用ことに敵は驚愕から恐怖に変わっていった。


「ば、化け物め!?何故ヒュドラ弾を当たって平然としている!?貴様は能力者じゃないのか!?いや、それ以前に何故銃弾を受けて立ってられる!?」


「うるさいな。貴様も俺を『()()()』と蔑むか。ならそれにふさわしい末路を与えてやろう」


 凍原は敵に近づき、マスクで隠された頭を掴む。その瞬間、敵は意識を失ったかの様に動かなかなくなった。そして周りの敵は何が起きたのか理解した。どんな理屈かわからないが、動かなくなったこいつは既に死んでいるという事実を。


 凍原は敵の頭を掴んだ手を放した。敵は地面にぶつかり、その部分から砂のように崩れ始めた。そして北風に吹かれて敵の全身が塵になって存在が消えた。


 敵はその光景に完全に恐怖し、敵の何人かは武器を投げ捨て、逃走と試みた。だが、それをやすやすと見過ごすほど凍原は甘くなかった。


「なに逃げようとしてるんだ?逃げるならその命を置いてから逃げろ」


 凍原のロングコートの裏から取り出したナイフを逃げた敵の足や頭に向けて投擲する。運悪く頭に刺さった者はその場で絶命し、足に刺さった者は走った勢いによってその場で転倒する。


「生憎、陰口で化け物と言うならまだしも、正面からそう言われて逃がすほど俺は聖人じゃないんでね。例え同じEXクラスでもそれを言えば問答無用で殺すことにしているんだ。(最も、EXクラスでは皆が化け物と言われているため、自分のことをそういう風に言ったりしないがな)」


 既に退路はないことを知った敵は接近戦なら勝ち目があると思ったのか、腰に装備している大型のサバイバルナイフを手に取り、雄叫びを上げながら凍原に襲い掛かる。


 卓越したナイフ捌きから生み出される一突きは常人なら一瞬のうちに確実に殺すことが出来るだろう。だが、相手が悪かった。

凍原に触れたサバイバルナイフは一瞬にして塵へと還した。素早い突きの勢いに敵は体勢を直すことが出来ずに凍原の魔の手から回避が遅れた。


 結果、また一人悲鳴を上げることが出来ずに塵へと還された。


 そこから先の戦いは蹂躙と言えるほど圧倒的だった。逃げる敵は雑草のように刈られ、次々と塵へと還される。その光景を見た者は凍原のことを化け物呼ばわりしてもおかしくない。しかし皮肉にもそれが一番比喩に適している言葉だった。


 凍原の能力『分子切断マレキュアルカット』は指定した範囲のあらゆる分子運動を停止させ、分子結合を断つという極めて恐ろしい能力である。


 能力の対象は有機物から無機物まで相手を選ばずに発動できる。しかもその能力の性質上、敵のどの部位にでも触れば、分子を凍結、切断することが出来る。


 だが、代償として能力を使った後、凍原の体温が著しく低下する。そしてこの代償は他の能力と違い、例外的に()()()()しているため、普通の学生服だと寒く感じてしまうのである。その為、凍原は十五分しか戦えない上に、身体を冷やさないために常にコートを羽織って学校生活を送っている。


 最後の一人を倒した凍原は一度下駄箱付近に戻り、コートに忍ばせておいたホッカイロを四つ開け、体中に張り付けた後、腕時計に付属しているストップウォッチを止めた。


(これで一応俺の仕事は終わったか。・・・戦闘可能な時間は後三分。仮に能力を使おうなら後四回と言ったところか)


 冷えた身体を手で擦り、摩擦熱を味わった、しばらくの間休むことにした。


 周囲を見ると、今の凍原の身体の状態の影響を受けたのか、足元に霜ができていた。足元だけではない、腰を下ろした周辺に霜が降りかかっていた。


「やれやれ、殲滅するのに時間がかかりすぎたか。今度からは能力の使い方をもう少し丁寧に使わないとな。さてと、俺の仕事は終わったから和貴に連絡しないとな」


 そう思って無線機を取り出そうとした時、突然凍原はふらつき始めた。一瞬、疲労から来たものかと考えたが、それにしては余りにも感覚がおかしかった。


 意識ははっきりしているのに何故か四肢の感覚だけが鈍い。否、正確には脳からの指令が伝達されていないと思えるほど動けない。


「すみません。これからあなたのあらゆる感覚を弄らせていただきます。一応言っておきますが、あなたの能力は既に封じさせてもらってます」


 突如背後から声をかけれた人物に凍原は驚いた。殺気どころか気配すら完全に消して接近してきたのだ。そんな実力者がまだ校内にいるとは思ってもいなかったのだ。


 声質からして女性であることはすぐに凍原は理解したがそれ以外のことは一切わからなかった。徐々に感覚が奪われていく。そんな理解しようともできない不思議な感覚と呼べるものが凍原を間然に包み込んでいたころには既に凍原の意識はなかった。

 



「終わりました。これで姿を見られることはないでしょう」


「ふむ、よくやった。これで安心して脱出できる」


 気絶した凍原の背後から現れた人物、蒼鳥のリーダーは気絶させた凍原を無視して女性幹部と合流する。女性幹部は発動した能力を解除するとフラフラと倒れそうになり、蒼鳥のリーダーに寄り掛かった。


 無意識とはいえ、あまりにも無礼なことしてしまったと女性幹部は保とうとする残りの意識で蒼鳥のリーダーに詫びる。


「も、申し訳…ありません…。すぐに、立ち上がりますので…」


「いや、無理する必要はない。君の能力の代償は十二分に知っている。さあ、手を出しなさい。君の功績に免じて肩ぐらいは貸してあげよう」


 手を差し出した蒼鳥のリーダーを見て女性幹部は畏れ多かったのか、自身から手を差し出さなかった。

その態度に蒼鳥のリーダーは溜息を吐き、その女性幹部の手を掴み立ちあがらせた。


「私の肩を借りるのが不敬であると考えているのなら、立ちあがりなさい。歩みは君の速度に合わせよう」


「いえ、お気遣い結構です。私は貴方の忠実な部下。であれば、あなた様が堂々と歩いてください。私達はその歩みを気合で、精神で、意地でついてきますので」


「なら、君の言う通りそうしよう。言っておくが私の歩みは早い。決して遅れるなよ」


 こうして誰も気づかれずにこの騒動を起こした黒幕は学校から姿を消した。その人物についてきた女性幹部は一体何を思ったのか、蒼鳥のリーダーの背中を見てこう思った。


 なんて恐ろしく、美しく、そして…誰よりも残酷何だろうと…。

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