そのころ一方では
次話です。少しだけ休憩的な話です。
「なぁなぁ、ここに来た時から疑問に思っていたんだが…。なんか警備が異常に良すぎないか?」
この一言は詩奈達が戦術披露の為に軍隊基地前駅に到着してしばらく時間がたった頃、ふと疑問に思った景山幸成の一言であった。
一方で、そんなことを気にしていない墓守詩奈は幸成の疑問に対して何とも思わないのか、いつものように強気の態度で疑問に答える。
「さぁ?気のせいじゃないかしら。将来軍に所属するから少なくとも今日だけはだらしないところは見せられないからいつも以上に気合を入れているだけじゃないかしら?」
幸成は自分のご主人であり、友人でもある詩奈がそう判断したことでなんとなくこの疑問を取り除こうとした。だが、それを踏まえても、警備が良すぎると幸成は思ってしまった。
「まぁまぁ、そんな深く考えるなんてお前らしくないぞ幸成。それとも何か不安があるのか?」
そう言いながら幸成の肩を組んできたのは彼が所属しているSクラスの中で一番の仲良しであり、今回の作戦で同じ役割であるサエス・リージだ。
リージとは入学当初からずっと同じクラス故に仲が非常に良い。その為か詩奈の被害にも幸成と同じとまではいかないが、少なくとも幸成の次に多いある意味不幸体質である。
「不安はねぇよ。ただ、少しだけ雰囲気が違うって話だけだ」
「静かにしなさい。そろそろ開会式が始まるわ」
詩奈の一言で幸成達の喋り声が静まったと同時に開会式の合図を告げる鬱陶しいサイレンが鳴り始めた。
二年生や今年からSクラスに入った同期は突然のサイレンに戸惑っていたが、幸成と詩奈、そして去年戦術披露に参加した同期は突然のサイレンに慌てることなく落ち着いていた。
(懐かしいな。去年は俺達も突然の戸惑っていたっけ。まぁ、それでも、うちの強情のお嬢様は一切戸惑ってなかったな)
サイレンの中、幸成は二年生の慌てる姿を見て、去年の自分達と照らし合わせていた。耳に響くサイレンが鳴り終わったと同時にこの基地の支部長の挨拶が始まった。
長々しい挨拶が終わり、ようやく今日一番のイベントである戦術披露が始まろうとしていた。
ここで戦術披露の大まかなルールを説明しよう。
基本的には銃あり能力ありのなんでもありの戦いである。もちろんそれ相応の規制もある。
例えば銃弾は殺傷力を下げる為にペイント弾を使用しなければならないし、能力も事前にどういう能力を使うか軍に報告し、許可をもらえなければ能力を使用することが出来ない。仮に使えば反則負けとなってしまう。
そして勝敗の決定は三通りある。一つ目は各チームの指揮官を死亡扱いにすることである。
死亡扱いとはルール上、ペイント弾が頭、心臓等の致命傷に当たった場合と能力によって気絶した場合の二つだ。厄介なのは死亡扱いしても敵チームや審査員にばれなければルール上死亡扱いにならないということだ。
そして二つ目は制限時間内に敵の拠点に設置されている旗を取ることだ。
最後に三つ目、それは制限時間内に上記の決着がつかなった場合に生き残った人数で勝敗を決める。
この三つでも勝敗が決まらなかった場合は指揮官同士の一騎打ちで勝負を決めるらしいが、そんなことは滅多に起きないらしい。
「なぁ、改めて思ったんだが、やっぱり俺達の拠点ってかなり不利じゃないか?」
開会式が終わり、拠点に移動したSクラスの皆が思っていることを口にしたリージの言葉に幸成は納得してしまいそうになってしまった。
二年生側からはこちらの拠点は丸見えな上に、旗も見えてしまっている。付け加えれば、指揮官を守る壁も一切存在しない。それに対して二年生側の拠点は人工林がいい目くらましとなって拠点の場所を把握しにくい。しかも、狙撃するのに最高なポイントもいくつかあると想定できる。
「それがどうしたって言うの?こっちは元からその可能性も考えて作戦を練ってきたのよ。これくらいの事態ぐらい想定済みよ」
皆が心配する中、我らの指揮官である詩奈は自身を持って幸成達に喝を入れた。それがスイッチになったのか、Sクラスの皆が士気を高めていく結果となった。
戦術披露が開始されるまであと五分。幸成は詩奈から頼まれた役割をこなすために再びリージと一緒に作戦について話し合っていた。
「陽動とはいえ、これだけ視界がよかったら陽動の意味がないんじゃないか?」
「詩奈の考えだ。何か秘策があるに違いない。じゃなければこんな捨て駒のような使い方をするわけがないだろう」
幸成とリージの役目は陽動だが、ただの陽動ではない。捨て駒覚悟の陽動であることを幸成とリージは知っていた。だが、詩奈が本当に捨て駒にするならもっと効果的な方法で捨て駒にするはずだし、何より仲間を失うことを嫌う彼女が捨て駒などと言う方法をするはずがない。
「そろそろ始まるわよ。幸成、手筈は昨日説明した通りに頼むわよ」
「噂をすればだな。了解した」
そう言ったと同時に戦術披露開始のサイレンが鳴り響いた。それと同時に開幕を告げる銃声が人工林から鳴り響き、戦術披露が始まった。
「せっかくの地の利を生かさないで開幕射撃とはあまり関心しませんな。どう思いますか梶山さん」
「俺に聞かれてもねぇ~。人工林によって拠点の場所が分かりにくいとはいえ、開幕と同時に銃を使うと流石に拠点の大まかな場所が分かってしまう。仮にこれが作戦として考えるなら誘導と考えるのが妥当なんじゃないかな?」
戦術披露の開幕の銃声によってここにいる梶山力也を含む特別ゲストらは勝手に学生の評価をしていた。
戦術披露が行っているこの場所に敵は今のところ侵入していないが、今頃は政府や和貴が通っている学校で激戦が行われているはずだ。
(許可が下りれば私の部下を学校に向かわせていたが、政治家達め。自分達を守ることだけしか考えていないとは無能にもほどがある)
警備を出せなかった最大の理由である政府に心の中から嫌味を言いつつも、梶山は敵が侵入してこないか、各警備状況を把握する。
「ところで、梶山さん。あなたは引退をするつもりは無いのですか?」
そう言ってきたのはこの基地の支部長である柏聡だ。梶山の同期であり、恐らく今の軍の中で彼ほど長い付き合いはそういないだろう。
常に嫌味を含むような言い方をし、周りからは嫌われているが、これはあくまで彼の内心を悟られないように演技であることを梶山は知っていた。
「いやぁ、まだ十年はここにいるつもりさ。片腕を無くした今では戦場にこそ出られないが、教えることはできるからね。そっちこそ病気は大丈夫なのか?」
「ふふふ、心配無用。今日は調子がいいらしくてね。今朝病院でも今日は外出してもいいと言われたよ」
ねちねちした話し方で会話する聡だが、その表情はいつもに増してかなり嬉しそうだった。無理もない。彼は一年の間たった一ヶ月しか働いていないからだ。
理由は彼の持病のせいだ。彼は生まれながら肺、心臓、胃腸その他と内臓のほとんどが充分に機能していなかった。その為、彼の一生のほとんどが病院生活と言っても過言ではない。
そんな中、彼を完全とは言わないが体の一部を治したのが今は亡き天災の英雄の一人であった。
聡曰く、顔こそ覚えていないが、そのおかげで僅かな時間だが自由を手に入れることが出来、その全てを軍の為に費やすことを決意したそうだ。
「それより梶山気付いているか?ちょっとめんどくさいことになっているぞ」
「ああ、見られているな。誰の使いかわからんが、とりあえず今は様子見だ。何をしてきたのかわからんしな。あるいは俺達の監視かもしれん」
席に座っていから、ずっと視線を感じていたがどうや聡も気づいていたようだ。もし襲ってくるなら梶山が何とかするが、何もしなければ今は無視することは聡も同じ意見だろう。
「腑抜けかあるいは様子見しているかわからんが、あちらも今は襲うつもりはなさそうだ。とりあえず今は学生達の演武を楽しもうとするか」
聡の言う通り、何かあっても幸い警備は万全以上と言っていいほど問題はない。仮に警備の全てが敵だったとしてもその全てを倒せばいいだけの話だ。
「ああ、そうするか。和貴が評価していたあの子の実力。見せてもらおうか」
そう言って梶山は椅子に深く座り、学生のこれからの展開を予測しながら楽しむことにした。
学校から撤退するほんの数十分前、蒼鳥のリーダーは現状の報告を女性幹部から聞いていた。
「どうやら四階は学生達にほとんど取られたようです。どうしますかボス」
「ふむ。一手遅かったようだね。こちらの戦力が減るのは後の作戦のためできるだけ避けなければならんな。四階が取られてしまったなら致し方ない。校庭及び他の階の部下どもを集め、人海戦術を使う。集団戦ならあるいは勝ち目があるかもしれない」
今の状況は蒼鳥のリーダーにとってあまり好ましい状況ではなかった。理想では四階はできるだけ封鎖したかった。なぜなら学生の主力がそこに集まっているからと推測していたからだ。
その封鎖が失敗したならば、こちらは次の策を立てなければならない。
「三階の廊下で階段はいくつあるかね?」
「偵察によると階段は三つあるそうです。三つの内二つは廊下の両端にその中間に最後の一つがあります」
「そうか。では両端の階段を死守しなさいと伝えなさい。真ん中は放置で」
「放置…ですか?わかりました。では部下に指示を出してきます」
幹部は部屋から出て部下達と連絡を取り始めた。するとどこからかシャドウが再び現れた。シャドウにはもう一つの戦場である政府で監視を命じていたはずだが。
「やっぱりおもしれえことになってんなぁwwwwww俺も真剣に参加したかったぜwwwwww」
そう言ってシャドウは姿見せない影をゆらゆらと揺らしながら自らの興奮を抑えていた。半分は本心ではあるが残り半分は嘘であろう。
「わかりやすい嘘を吐くね君は。それで向こうはどうなった。君の予想ではもう少し持つと言っていたはずだが?」
そう言うとシャドウはゆらゆらとしているのをやめ、ふつふつと声に怒りを込めて状況を言った。
「アーうん。それがなぁ…ちょっと鬱な展開になったんだ…。足止めが一時間しか持たなくなっちまった」
シャドウの報告に蒼鳥のリーダーは驚愕し手からコーヒーを落としそうになった。シャドウの態度から偽りはない。つまり、先ほど四時間は足止めできると言っていたのにそれを一時間と言い直させる実力者が現れたということだ。リーダーはまさかと思ったが知る限りそんなことが出来る化け物は一人しか知らない。
「…まさかとは思うが王が自ら政府を守りに来たというのか?」
「そのまさかです。暴れた時間こそ短かったけど、部隊の九割が壊滅、戦力として数えられるのは残りの一割。その結果から推測してあと一時間だな」
蒼鳥のリーダーは信じられなかった。王は政府を嫌い、滅多なことではない限り天災の英雄の拠点から動かないと言われている頑固者である。
そんな人物がわざわざ政府を守ろうなんて行為は決してしない。何故と考えたいが、そう考える時間も惜しくなる状況になったことは確実である。
ここで残る選択肢は二つである。一つはこのまま、依頼主の探し物を探し続けることだ。しかし、見つかるとは限らず最悪ここにとどまり続ければ他の能力者が校内に入って私達を殲滅してくるだろう。
二つ目はもちろん逃げること。しかし、依頼人の目的が達成できずこちらの信用が疑われ、多くの部下を失ってしまう。
しかし、蒼鳥のリーダーの選択肢はすでに決まっていた。
「詰みだね。まっ、ここは逃げる一択しかないか。命あっての物種というやつだ。というわけでシャドウ君。君は情報操作を頼む。私がここにいたとなると世間的にも問題がある」
「言うと思ったよwww。でもあんたの部下はどうするつもりなんだwwwwまさか見捨てるのか?」
「勿論見捨てるとも。ああ、でもあの幹部だけは別だ。すぐに連絡しておこう」
そう言って蒼鳥のリーダーは一人の幹部に連絡をし始めた。
「もしもし私だ。少々まずいことが起きた。控えめに言って詰んだ。私は逃げる準備をする。作戦は私の影武者に伝えておくからそれに従うように。ん?他の部下について?知らん。私に君以外の部下がいたかね?じゃあ、君も逃げる準備を済ませておくんだよ。ああ、それと体育館にいるもう一人の幹部は放置で。あいつ嫌いだから。じゃあね」
蒼鳥のリーダーは一人の幹部に連絡を伝えた後、逃げる準備をしようとした。その時シャドウは最後だと思ったのか、蒼鳥のリーダーに話しかた。
「冷徹すぎるあんたとの別れの一つに聞きたいことがあってな。てわけでたった一つだけ聞いていいか?」
「手短にな。私は今忙しくなった」
するとシャドウは先ほどのへらへらした態度から一変し真剣な態度で話した。
「貴様にとって人間とは何だ?」
そうシャドウに言われて蒼鳥のリーダーは手を止めた。頭の中で、蒼鳥のリーダーは人に対してどのような印象だったか思いだそうとした。
(そういえばあまり考えていなかったな。私にとって人間とは何か?嫌悪する物?いや違う。そうでなければあの幹部を生かそうとしない筈だ。となると考えられるのは一つだけだな)
蒼鳥のリーダーは部屋が静かになったことを確認した後、その疑問に答え始めた。
「この星が生み出した最高にして最低の動物だよ。私も含めてね、人間は非常に罪深い。少なくとも表と裏、両方の世界で生きてきた私にとってはそう感じてきたよ。人間が生み出したものは多くの人間を幸せにしてきただろう。しかし、その一つ幸福のためにどれだけ多くの幸せを壊してきただろうか。十数年前のあの戦争中で一つ確信したことがあったよ。あの戦争は偶然的に起きたのではない。必然的に起きたのだと。しかし、その戦争すら勝利してしまった。人間が最高故に勝利してしまったのだ。では新たな不幸はどこで起こったのか?私は想像できん。もしかしたら身近なところにいるかもしれん。話が長くなったが私にとって人間とはそういう事だ」
そう答えるとシャドウは無言でここから居なくなった。話し相手もいなくなったしさっさと撤退する準備をしようと蒼鳥のリーダーは支度を行うのであった。
しばらく歩いた蒼鳥のリーダーは去っていった学校を振り向き、被っていた帽子を取り、一礼する。
「さて、クルベルトには申し訳ないが、私は撤退させてもらおう。残りの皆は頑張ってくれ」
そう言って蒼鳥のリーダーは街中へと消えていった。この時誰か見ていればよかったのだが、蒼鳥のリーダー情報操作によって、街の人達は避難しているため、彼らの姿を見る者は誰もいなかった。
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