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第88話 それぞれの特訓

 新生チームスパーク。

 ここにはチームフェニックスのように金網とリングの両方が置かれている。

 いま、私は父の指示を受けながら、プロ選手の工藤さんと限定スパーを行っている。

 工藤さんは他のジムからチームスパークへ移籍してきた選手。

 金網際の攻防。

 私が上を取って、下になっている工藤選手がそれをしのぐというシチュエーション。


 金網の外から父が指示を出す。

「金網に押しつけて絶対に立たれないようにするんだ!」

 工藤選手も11勝2敗という戦績で強い。しかも男性かつフェザー級で、私より階級が上。

 金網に背中を預けたまま、工藤選手は上に這うようにして立ち上がった。

 仕切り直し。 


 インターバル中、父から苦言を受けた。

「簡単に立たれてはだめだ。そんなんじゃアルティメットフォースでは通用しないぞ」

「押忍」

 ヒナとの試合の対策とは別に、アルティメットフォースに向けた練習も並行して行っている。

 まだアルティメットフォースでの試合日は決まっていない。

 準備が早すぎるとは思わなかった。

 RFCで活躍した選手が、ルールの違いに戸惑ってアルティメットフォースのデビュー戦で負けた例はたくさんあるから。

 でも。

「お父さん、そろそろリングでの練習もしたい」

 大晦日の試合はリング。

 本当のことを言うと、私は大晦日のヒナとの試合に集中したかった。

「焦るな。そちらも抜かりない。たしかにヒナは強くなっているが、依然として打撃、組み技、寝技、全てにおいてお前のほうが上だ」

 そう言うなり、父は再び金網に入るよう言ってきた。

 金網の外から父が言う。

「RFCとアルティメットフォースではルールが違う。そこだけ気をつければ心配いらない。お前が勝つ!」


 一方、その頃。


 日曜日。

 本来ならば誠心道場はお休みだけど、私とヒカリ先生で特訓をしていた。

 私のタイトルマッチに備え、武田先生の許可を得て、特別に練習させてもらっているのだ。

 

 道場には、ヒップホップ系のBGMが流れている。

 伝統的な武道では少ないけれど、リラックスさせたり、気分を高揚させる目的のために、スポーツジムで音楽を流すのはよくあることだ。

 


 いま、ヒカリ先生は下になっていて、私は立っている。

 いわゆる猪木アリという状態だ。

 プロレスラーのアントニオ猪木が、プロボクサーのモハメド・アリと試合をしたとき、猪木は寝た状態、アリは立った状態で試合が続いたから、そう呼ばれるようになったらしい。


 下になっているヒカリ先生が下から足を伸ばして、私の顔面を蹴り上げようとしてきた。

 一見、ヒカリ先生が不利に見えるかもしれないけど、足が邪魔しているので、下からでも抵抗できる。

 私は身体をわずかにずらして蹴り上げをかわすと、そのままヒカリ先生の頭部にサッカーボールキックを寸止めした。

 ヒカリ先生は立ち上がる。


 一旦休憩だ。

 その間も、私とヒカリ先生はこの度の作戦について話し合っていた。

「RFCとアルティメットフォースはルールが違うわ。アルティメットフォースでは禁止されているサッカーボールキックもRFCでは認められている。そして今回はRFCの試合だから、ルールを活かした闘い方をするということね」

 ヒカリ先生の確認に、私は頷いた。

「お寺でばったり会ったとき、アスカちゃんは試合内容が問われると言ってたんです。あの言葉から推測するに、おそらくアスカちゃんはアルティメットフォースのオファーを受けている。もしそうなら、アルティメットフォースのルールに合わせた練習も始めていると思うんです」

「こちらは、逆にRFCの一点集中というわけね。良い作戦だと思うわ」

 ヒカリ先生の言葉の後に、私は語った。

「私、腹が立ってるんです。トギシさんに、あなたはアスカちゃんに勝ちたいと思ってないでしょと言われたとき、すぐに言い返せなかった自分に。私はやっぱり勝ちたいです。アスカちゃんの隣に立つだけじゃなくて、勝ちに行きたいです」

「そうね。かつて追いかけていた新藤選手の背中を、今度は追い越すぐらいの勢いで行きましょ!」

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