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第81話 テクニックVSパワー


 私に勝った相手とヒナが勝負する。

 格闘技に三段論法は通用しないのは分かっている。


 それでもヒナがトギシに勝ったら、やっぱり複雑だ。

 でもトギシは好かんし、ここはヒナを応援しよう。

 私は大声を張り上げる。


「ヒナ、ぶちのめしたれー!」

「負けるな、ヒナちゃん!!」

 米田も便乗して大声を出した。


 けど状況が厳しいのは変わらない。

 もともとのパワーが違ううえ、三キロの体重超過。

 さらに前日から当日にかけて、栄養を補給しているから、いまの体重の開きは三キロ以上にちがいない。


 純粋な力比べでは冗談抜きに勝ち目がない。


 ヒナは、フットワークを軽快にしつつ、腕は顔を守るように構えている。

 対するトギシは余裕の表れか、ノーガードだ。


 悠然と進んでいき、作為なしの前蹴りを放ってきた。

 引きを意識していない、ただ蹴り込むだけのヤクザキック。

「トギシの打撃、雑だね」

 米田の指摘に同意した。


 案の定、トギシは前にバランスを崩した。

 ヒナは蹴りをよけると、着地したトギシの足に蹴りを入れた。

 前体重でなおかつローキックをもらったせいで、次の動作への移行が遅れた。

 すかさずヒナは、ワンツーパンチをトギシの顔面目がけて打ち込む。

 届いた。

 トギシの鼻から血が吹き出る。


 けど。

 突如、暴風のような風切り音とともにトギシがブンブンと拳を振るった。

「速いフックの連打。でも、手打ちだ」

 米田はトギシの打撃技術を評価していないようだ。

「それでも体重差あるから、喰らったら危ないと思う」


 ヒナは距離をおかず、ブロッキングで何発かを防いだ。

 総合格闘技のグローブはボクシングと比べて小さいから、腕を折り畳んでブロックするというのがあまり有効じゃない。


 ブロックの隙間からパンチが入る可能性もあるからだ。

 何発か被弾したヒナ。

 ダメージは相当に違いない。

 それでも体勢を崩していない。


「下がらないね、ヒナちゃん」

 米田はヒナのタフさに感心している。

「あいつ、根性あるから」

 私は、トギシとの試合でまっすぐ下がったところに、顎にフックをもらってノックアウトされた。

 でもあんたは下がらず倒れずにいる。

 ヒナ、あんたすごいよ。


 今度は、ヒナが上体をかがめて、タックルに入った。

「やっぱり組み技を選んだか! たしかにトギシのパワーは脅威だからね」

 米田の言葉に頷く。


 私もたぶん、ヒナの立場だったら、自分の得意な寝技に持ち込もうとするだろう。

 でも、トギシがヒナの背中に覆いかぶさるようにして、タックルを切った。

 上から押しつぶされ、ヒナは身動きがとれない。

 四点ポジションからの膝蹴りが認められているRFCでは、がぶった状態から、うつぶせになっている相手の頭部に膝蹴りを叩きこむ展開が多い。

 トギシもおそらくそうするだろう。と思いきや。


 会場からどよめきが湧き起った。

 上に覆いかぶさったままのトギシがヒナを持ち上げ、立ち上がったのだ。

 しかも軽々と。

「単純なパワーが違いすぎる。こんなの反則だ」

 米田が圧倒されている。


 トギシは、持ち上げたヒナに抱きつき、そのまま頭からマットに叩き落した!

 プロレスで言う『パイルドライバー』だ。


 会場からは悲鳴に近いどよめきが起こる。

 というかヒナ、大丈夫なのかな。

 頭からもろに落下したけど。


 レフェリーがヒナの様子をじっと見ている。

 まだ意識はあった。


 それだけじゃない。

 叩き落されてすぐ、ヒナは下からトギシの足に自分の足を絡めていたのだ。


 デラヒーバ?

 総合ではあまり観ないけど。

 上からトギシが殴ろうとしたところで、ヒナが股下にもぐりこみ、トギシの片方の足に抱きつく格好になった。

 足への関節技を仕掛けたのだ。


 トギシはバランスを崩し、前のめりにマットに倒れた。

 その間も、ヒナは必死の形相でトギシの足に体全体で抱きついている。


 足関節は極まるのが早く、逃げられないとわかったら即座にタップしないと膝や足首に重傷を負う非常に危険な技だ。


「ヒナちゃんのタフさには恐れ入るよ」

 米田がまたもや圧倒されている。

「トギシは寝技が得意じゃないから、いけるかも、いや外れたか」


 ヒナの渾身の足関節は無残にも解除された。

 トギシは立ち上がると、手で来い来いとアピールした。


 レフェリーに促され、ヒナも立ち上がる。

「再びスタンドから再開かぁ」

 米田はがっかりしている。でも私はちがった。

「いまの足関節、入り方が不完全だった。足関節は仕掛けた側が不利なポジションをとられるリスクもある技。もしトギシが立たないで寝技を選択していたら、もっと有利なポジションからパウンドを打てていた。そうしないまでも、立った状態からサッカーボールキックや踏みつけも狙おうと思えば狙えた」


 米田は私の言わんとするところを理解した。

「つまり、トギシはそれだけ自分の寝技に自信がないということ?」

「んだ。一ラウンド目の三角絞めと今のデラヒーバからの足関節。この二つでヒナが下からでも動ける選手だと分かった以上、トギシは自分から寝技に持ち込むことはないはず。だからヒナは、打撃だけを警戒すればいい。それに比べてトギシは、ヒナの打撃と組みの二択を警戒しないといけなくなる」


 米田はうんうんと頷いた。

「たしかに組みを警戒しすぎたら、打撃が入りやすくなって、その逆もしかり、だからね」


 この勝負、分からなくなってきた。

 それに……。


 トギシは肩で息をしはじめた。

 パンチのスピードが明らかに遅くなっていた。


「すでにスタミナ切れを起こしているね」

「ここに来て形勢逆転だわ」


 私はヒナの勝負強さに感心していた。

 悔しさや嫉妬はどこかに吹き飛んだ。

 やっちゃって、ヒナ!

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