第74話 ストロングポイント
そしてあっという間に時が過ぎ、チームアナコンダでの出稽古の最後の日となった。
この日の練習も無事終わった。
「ありがとうございました。麗艶さんと拳を交えることができてよかったです」
私の言葉に麗艶さんも嬉しそうだ。
「ヒナさん、あなたは打撃も投げも寝技もできる。まだまだ改善点はあるけれど、少しずつ修正すれば頂点に立つことも夢じゃない。でも、私も負けない。必ずタイトルを取り戻すわ」
いずれ麗艶さんとも闘うことになるかもしれない。
「私も、負けたくありません。何が何でもアスカちゃん、現王者と試合がしたいので」
アスカちゃんの名前が出てきたことで、麗艶さんは笑みを深めた。
「ヒナさん、あなたとアスカは似ている。どちらもストライカー寄りだけれど、打投極のバランスがとれていて、いずれの局面でも闘える。ただ大きく違う点が二つあるわ。それが、あなたのアスカよりも優れている数少ない点」
「大きな違い、アスカちゃんより優れている二つですか?」
私はおうむ返ししていた。
正直なところ、私がアスカちゃんより優れている点はない、と思っている。
でも、もしあるのなら……。
そんな私の思いを知ってか知らずか、麗艶さんはまたもやフフフと笑う。
「当ててみて」
「え?」
戸惑ったが、よし、当ててやる!
「パワーとか」
「若干あなたの方があると思うけど、そこまで大きな差はないわ」
「折れないハート」
「五分五分じゃないかしら。アスカも私との試合で気持ちの強さを見せたわ」
技術的なことだろうか。
「右ストレートですかね? よくフィニッシュしている技なので」
アスカちゃんとのガチスパーで、彼女を一瞬グラつかせた技だ。
「あなたの右も悪くないけど、打撃の精度、スピード、威力、ともにアスカが上回っているわ」
そっかー。さほどショックではない。
グラウンドでのパンチを含めると、アスカちゃんの打撃によるKO率は一〇〇パーセントと驚異的だから。
「寝技とか?」
「違う。セイラとの試合で見せた三角絞めとギロチンの脱出方法、あれは力づくだったし、良くなかったわ。寝技の正しい手順はアスカの方がよく理解しているはず」
痛いところを突かれた。
試合が終わってしばらくして、ヒカリ先生にもダメだしされた点だ。
「すみません。お手上げです」
「ヒントをあげる。私たちは対戦相手と一対一で向かい合う。でも一人で闘うわけじゃない」
なんとなく分かった気がした。
「セコンドの声に耳を貸す力、ですかね」
麗艶さんがポンと手を叩いた。
正解ということだろう。
「そのとおりよ。アスカはたしかに実力はある。でもそれと同じくらいプライドが高く、頑固な面もある。それがもっとも現れたのは、私とのタイトルマッチの二ラウンド目。アウトボクシングを徹底せずに、距離が近くなったせいで、私からテイクダウンを取られているわ」
たしかにセコンドの牧村さんから、何度も距離をとるよう、指示を受けていただろうに。
三ラウンド目はかろうじて修正したから勝てたけど。
「その点、あなたはセイラとの試合で、ヒカリさんの指示を聞きながら、作戦を変更することができた。その素直な性格がアスカよりも優れているところよ」
広島の大会では、序盤はガンガン前に出て打撃で倒す作戦で行ったが、失敗し、すぐに金網に押し込んで動きを封じる作戦に変更した。
それも結局うまく行かず、そこからはもう根性というか、何が何でもノックアウトか一本取らなきゃと腹をくくって、なんとか勝てたけど。
「教えてくれてありがとうございます。でもなかなか指示通りに行かないときもあって」
「まあ、そういうものよね。私の言ったことはあくまでも印象だから」
二点と言われたけれど、もう一点は何だろうか?
「それと、もう一つはなんですか?」
私の質問に、麗艶さんはフフフと含み笑いをした後で答えた。
「ひ、み、つ。ヒントをあげるとすれば、アスカの目標の高さね。それは長所でもあるけど、同時に短所にもなりえるわ」
アスカちゃんの目標。
アルティメットフォースのチャンピオン。
子どものころからのアスカちゃんの夢。
それが欠点?
よくわからなかった。
私が答えあぐねていると、麗艶さんは話題を変えた。
「それとは別に、この前教えたデラヒーバなんだけど……」
そのあとは細かな技術の説明をしてくれた。
こうして麗艶さんとの出稽古はとても有意義なものとなった。




