第70話 手術の結果
いつの間にか周囲が明るくなっていた。
どうやら眠っていたみたい。
ベンチから腰を上げる。
周囲を見回すと、ヒナはまだいびきをかいて眠っていた。
「姫、ようやくお目覚めですな」
愛の目には隈ができていた。
どうやら私は、愛に起こされたらしい。
「お母さん、海鮮どんぶり三人前は食べられないよ~」
寝言を呟くヒナの体を軽く揺すった。
一体どんな夢を見ているのやら。
こんな状況にもかかわらず、思わずクスリと笑えた。
「ああ、お母さん、おはよう」
愛が鋭いツッコミを入れる。
「いつまで寝ぼけとんじゃい」
目を覚まし、状況を理解したヒナは「あっ!」と大声をあげた。
愛と私は「しーっ」と静かにするよう注意した。
ごめんと謝ったあと、ヒナは「新藤先生はどうなったの?」と尋ねてきた。
私は愛を見る。
愛は嬉しそうに笑っていた。
同時に懐かしい声がした。
「迷惑かけたな」
思わず走りだしていた。
父に抱きついた。というより飛びついていた。
長い入院生活で、私の両腕におさまるくらいに父の胴体は細くなっていた。
「お父さん、お父さん!」
涙がぼろぼろこぼれ落ちる。
「痛いなあ。病みあがりなんだ。もう少し気を遣ってくれ」
「ごめん」
慌てて離れると、私は愛とヒナに頭を下げた。
父も頭を下げた。
「私からも礼を言わせてくれ。ありがとう。アスカ一人じゃ心細かったと思う」
ヒナと愛が帰ったあと、医師から話を聞いた。
手術は奇跡的に成功したけれど、運動機能に障害が残るため、今後は激しい運動はできないと言われたらしい。
父はやや厳しめの顔をして言った。
「セコンドに就いたり、指導したりはできるだろうが、いっしょにスパーリングをするのはできないだろう。ミットを持つのは辛うじてできるかもな」
「それでも、こうして生きていてくれているだけで、私は嬉しいです」
恥ずかしそうに言う私の頭に、お父さんは手をおいた。
「愛さんから聞いた。チャンピオンになったそうだな」
「はい」
思わず顔がほころびかけたが、堪えた。
「よく頑張った。と言いたいところだが、まだここで終わりじゃない。RFCで数回防衛したあと、いずれはアルティメットフォースにお前を出させたいと思っている」
まだ、旅は続く。
私は歯を食いしばる。
「押忍」
「だが・・・・・・・」
父はしばし間を置いたのち、言った。
「とりあえず、退院したら、いっしょにメシでも食べに行くとするか」
似合わない笑顔を浮かべる父に、私は「押忍」と弾んだ声で答えた。




