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第65話 アスカVS麗艶 最終ラウンド

 三ラウンド目、これが最終ラウンドだ。

 まだ開始三〇秒くらいだけど、局面は大きく動き出している。

 アスカちゃんのジャブが、組みに行こうとする麗艶さんの顔を的確に捕えているのだ。

 三発、いや四発?

 チャンピオンの鼻が赤くなり、出血している。

「イイ感じじゃん! アスカ、やるぅ!」

 愛ちゃんが座ったまま、体をタテ揺れさせている。

「遠い距離からの打撃に作戦を切り替えたのがよかったね」

 でも。

 このまま逃げ切れるとは思えなかった。

 麗艶さんはそんなに甘い相手じゃない。

 どこかで必ず捕まる。

 そのときにアスカちゃんがどうするかが、勝負の分かれ目だ。


 前に出る麗艶さん、下がりながら、回り込みながらジャブで突き刺すアスカちゃんという展開で一分三〇秒が経過した。

 いまのところアスカちゃんが優勢だ。


 麗艶さんも一分三〇秒の間、三回タックルを仕掛けたが、すべてアスカちゃんが防いでいる。

 気持ちの強さは感じられるけど、麗艶さんのタックルの仕掛け方が雑になってきている。

 おそらく五分三ラウンドの三ラウンド目ということで、集中力が落ちかけているのだろう。


 でもそれはアスカちゃんにも言えることだった。

 麗艶さんの前進に対し、下がってジャブを打つ。

 それは問題ない。

 ただ、下がり方が、いままでは斜めに下がったり、回りこんだり、工夫していたのが、単純にまっすぐ下がるだけになり、単調になった。

 集中力の低下と怪我をしている右足が原因だろう。


 そのとき麗艶さんが腕で顔のガードを固めて前に出た。

 打撃を選んだようだ。


 たしかにいままでのタックルの調子では、寝技に持ち込むのは難しいかもしれない。

 と思いきや、彼女は一旦ガードを解除すると、マットの中央を指さし何か叫んでいる。

 対するアスカちゃんは、頷き、こちらもガードを解き、マット中央でお互い立ち止まる。

 

 そして。

 拳拳拳拳拳。

 観客は息を呑んだ。

 ブーイングはやみ、歓声が湧き上がる。

 両者とも、足を止めての殴り合いを選択した。

 当然ながらフットワークでかわすという選択はできない。

 いつもよりパンチをもらう確率が跳ね上がる。


「うっわー! すごっ! 二人ともよくやるわー」

 愛ちゃんは驚きつつ、感心していたが、私はどうしても選手目線で観てしまっていた。

「かなり危険だよ。負けるリスクも、試合の後、ダメージを遺すリスクもある。足を止めての打ち合いはラスト一〇秒くらいで、一か八かでやることが多いんだけど。まだ残り三分もあるのに、麗艶さんがこんな闘い方を選ぶなんて、ちょっと理解できない」


 今のところ、リーチの短いアスカちゃんの拳の方が当たっている。

 小回りが利く分、接近戦はアスカちゃんの方が有利だ。

 しかも打撃の精度もアスカちゃんの方が上。


 麗艶さんの顔が見る見るうちに痣だらけになる。

 それでも、私は麗艶さんに不気味なものを感じた。

 おそらくこのままでは終わらない。


 アスカちゃんのセコンドも、同じように感じているみたいだ。

 何やら必死の形相で叫んでいる。

 でも観客の熱狂にかき消され、よく聞こえない。


「アスカの味方はなんて言ってんの?」

「セコンドの人は、たぶん・・・・・・」

 そのとき観客の声に負けないくらい、喉が潰れるのではと思えるくらい、牧村さんの大きな声が会場にこだました。

「足を使うんだ! 足を使え! 足使えっ!」

 私もアスカちゃんのセコンドだったら同じ指示を出す。

 この距離は、この闘い方は、アスカちゃんが麗艶さんをパンチで倒せる可能性がぐんと高まる距離。

 でも同時に麗艶さんが組みに行ける距離でもある。


 アスカちゃんの大振りのフックをかがんでかわし、そのまま麗艶さんはタックルを仕掛けた。


 タイミング、距離、全てが完璧だった。


 残り三分もあるタイミングでの足を止めての打ち合い。

 パンチに意識を集中させたところでの、不意打ちの両足タックル。

 最初からこれが狙いだったのだ。


 アスカちゃんは腰を引き、重心を下げ、必死で倒されまいと踏ん張るも、組みでは麗艶さんに分があった。

 アスカちゃんの足がマットから離され、タックルで背中をつけさせられそうになる。

 そこに麗艶さんが上からのしかかり、そうして第二ラウンドと同じ展開には・・・・・・。


 ならなかった!


「おお! 上を取り返した! アスカ、すごっ!」

 愛ちゃんがうちわを上に振りながら興奮して言った。

 私も目を見開いた。


 倒される瞬間に、スイープ、寝技で下の選手が上の選手をひっくり返す技術、を使ったのだ。


「間一髪だったと思う。失敗していたら、ガードポジションよりもさらに不利なポジションをとられていた危険もあったよ。でもその危険を冒さなければ、このチャンスは掴めなかった」

 私は、続けて確信を込めて言い切った。

「この試合、アスカちゃんが勝つよ!」


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