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第64話 うれしくない再会

 第二ラウンド終了と同時に、会場のブーイングがピークに達した。

「一本狙えよ、麗艶!」

「寝かされたら何もできないのか、アスカ!」

「女子格、つまらねえ!」

 などなど散々な言葉が飛び交う。


 観客は、ファンは、ある意味で傲慢だ。

 お金を払っているのだから、観てやっているのだから、何を言っても自由と思い込んでいる人は全員ではないけれど、少なからずいる。

 愛ちゃんの隣の席に座っている二人組みも同様だった。


「せっかく高いチケット買ったのに、セミメインがくそつまらねえ」

 肩に刺青をしたタンクトップ姿の男がぼやいた。

 愛ちゃんの隣に座っているスキンヘッドの男が、便乗して言った。

「女子格闘技、廃止すればいいのにな! どうせ男には勝てっこねえのに」

 刺青の男は頷いている。

「俺なら二人同時でも相手にできるぜ」

 今度はスキンヘッドが下卑た笑いを浮かべた。

「それならベッドの上の方がよくないか? 二人同時によ」

 大きな声で、よくこんな恥ずかしいことが言えるものだ。

 近くの女性客が顔をしかめていた。

 刺青男はニタニタ笑いながら、手を横に振った。

「あんなゴリラ女ども、こっちから願い下げだよ」


 すると愛ちゃんが親指で二人組みを指さし、ひと言。

「なんでこの人ら、こんなに上からなんかな? しかも下品」

 ひそひそ声なので、二人組みにはバレていないだろう。

 たぶん。

 私も小声で答えた。

「言うだけなら誰でもできるから。それに言っていいことと悪いことの区別もつかないなんて。子どもだよね」

 練習で気合いを出すときもあるから、自然と声が大きくなっていたのかもしれない。

 男二人組みは、こちらを睨んできた。


「おい、聞こえてんぞ!」

 私はちらと二人組みを目視した後、リング状に視線を戻した。

「いまのところ一ラウンド目はアスカちゃんで、二ラウンド目は麗艶さんだね」

 リングを見つめつつ、愛ちゃんに向けて言った。

「三ラウンド目が勝負ってわけだね。アスカ~、勝っとくれ~」

 愛ちゃんが指を組んで、お祈りした。


 スキンヘッドの男が席から立ち上がって、怒鳴ってきた。

「無視すんな! お前ら俺らを誰だと思ってる。路上の喧嘩で連戦連勝なんだぞ。舐めてたら痛い目見るぞ」

 さきほどちらっと見た感じでは、三〇歳は超えていそうだ。それで喧嘩自慢って・・・・・・。

 すると見る見るうちにスキンヘッドの頭が、ゆでだこのように真っ赤になった。

「だれが、最高にダサいだと!」

 思っていたことがそのまま口に出たようだ。

「ヒナ、ちょっとまずいって」

 さすがの愛ちゃんも怯えている。

 

 私はもう一度男たちを見る。

 ふと思い出す。

 このデジャブ。

 そうだ。

 かつてアスカちゃんの応援に行ったとき、青田さんの闘いぶりを馬鹿にしていた人たちだ。

 

 悪い意味で時の流れを感じさせない再会だった。

 この二人は顔に少ししわができているぐらいで、中身は何も変わっていない。

 おそらく二人組みは私のことを覚えていないだろう。

 私も三日経てば、この二人を忘れている自信がある。


「さきほどは失礼な発言をしてしまい、申しわけなかったとは思いますけど、次のラウンドが始まるので、静かにしてもらえませんか」

 謝罪したものの、スキンヘッドの頭頂部はまだ赤く、不服そうだ。

「言っておくけど、私、格闘技やってますからね。一応プロです」


 私の言葉に、座っている刺青男が体をビクッと震わせた。

 周りの視線が、私とスキンヘッドに降り注ぐ。


「喧嘩か?」

「あれって山本ヒナじゃない? ブレイブカウっていうリングネームの」

 刺青の男が座ったままスキンヘッドの男のズボンをクイッと引っ張った。

 やめておけという合図だろう。

「フン、ブタ女が」

 捨て台詞を吐いたハゲ男は再び席に座った。


 愛ちゃんは小声でぼそりと呟いた。

「めっちゃ、きまずいんですけど」

 愛ちゃんには申し訳ないことをしてしまった。

 席を替わることにした。

 私はドシンとわざと大きい音を立て、スキンヘッドの隣の席に座った。

 舌打ちをしたスキンヘッドは立ち上がり、状況を察した刺青男も立ち上がり、席を後にした。


 愛ちゃんが深呼吸した。

「ヒナがあそこまで好戦的になるなんてびっくりだよ」

「こわい思いをさせちゃってごめんね。次から気をつけるよ」


 格闘技をそれなりにやってきたからか、気が大きくなりすぎたのかもしれない。

 冗談抜きに気をつけないと、たとえ相手が悪くとも怪我をさせたら、こちらも罪に問われる。

 それにお父さんとの約束を破ることになってしまう。

 最初のときに道場の外で技を使うなと釘を刺されていたのだ。

 そうこうしているうちに、最終ラウンドのゴングが鳴らされた。


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