第61話 アスカと麗艶リングイン
ジュリちゃんの試合から三試合挟んだ後、とうとう決戦のときが訪れた。
セミメインだが、私にとってはこれがメインイベントだ。
我らがアスカちゃんと麗艶さんとの女子ストロー級タイトルマッチ。
まずはアスカちゃんの入場だ。
ガウンを羽織ったまま、観客席には目もくれず、花道を突っ走る。
そしてガウンを脱いで、ボディチェックを受けるとそのままリングイン。
「行っけえ! アスカ!」
愛ちゃんも、うちわを掲げながら、声援を送る。
私も必死の声援を送るが、観客席のどよめきにかき消される。
アスカちゃんの耳には当然届いていないだろう。
それでも必死で叫ぶ。
「アスカちゃん、必ず私とタイトルマッチしようね!」
私の必死の思いを乗っけた声援だ。
「絶対にできるっしょーっ!」
愛ちゃんが応じるように大きな声を張り上げる。
そのとき会場のカメラがこちらに向かう。
するとスクリーンに私と愛ちゃんが映った。
声援は少なかったが、どよめきが少し起こった。
「あれって山本ヒナじゃね?」
「誰?」
「ローカル団体で試合してる若手だよ」
後ろの席から観客の声が聞こえた。
まさか私の名前が知られているとは思わなかった。
愛ちゃんがニシシと笑って、人さし指で私を指し示す。
私はというと、カメラに向かってにっこりと笑った後、両拳を握り締め、ファイティングポーズをとった。
やがてスクリーンは別の画面に切り替わった。
RFCでは、大会のときに著名人や有名選手が来場していると、カメラが回されることがある。
けれど、こんな不意打ちは予想外だった。
「なんだか恥ずかしい」
愛ちゃんはうんうんと頷いた。
「私も雑誌に自分の写真を掲載されたときは、嬉し恥ずかしだったよ。なかなか慣れないよね」
つづいて現ストロー級王者の麗艶さんが入場してきた。
こちらは声援とブーイング半々だ。
麗艶さんは勝ったまま引退を望んでいたけれど、不倫相手の奥さんや家族に、数々の訴えを起こされ、裁判で弁護士を雇う費用や慰謝料などなど、積もり積もって莫大らしい。
特に痛手だったのが、RFCの広報をしている広告会社の社員との不倫問題だ。
不倫相手の男は家庭を壊されたあげく、麗艶さんにフラれたという。
その腹いせに、男がいままでのスキャンダルをリークしたため、広告会社の逆鱗に触れ、仕事とスポンサーが一気に減ったらしい。
おそらく麗艶さんはお金を稼ぐためにも、まだ現役を続けるだろうと思う。
そう思うと、どことなく麗艶さんの顔色が優れないように映る。
前日計量も一回目は失敗しているし、コンディションは良くないのかもしれない。
などという、余計な心配は杞憂だった。
麗艶さんはリングインすると、自軍のコーナーに正座し、瞳を閉じた。
数々の行いを悔い改めているのだろうか、それとも闘いにそなえ精神集中をしているのだろうか。
いずれにしても動きの一つ一つに注目してしまう。
やがて立ち上がり、両手を広げ大きく深呼吸をした。
そして肩に掛けていたベルトを頭上に大きく掲げると、ブーイングと歓声が同時にあがった。
三〇を超えているけれど、アマチュア昇竜の応援ではじめて会ったときと変わらない。
いや、あのとき以上に美しさと気品が増している。
「やっぱ華があるね~。妖しく美しい華」
愛ちゃんの賞賛に、私は頷いた。
アスカちゃんにとって、油断できない相手であることに変わりない。
それにアスカちゃんとて逆境はある。
私はチームフェニックスの陣営のコーナーを見る。
そこはいつもよりも寂しかった。
国歌斉唱が行なわれた後、麗艶さんが肩にかけていたベルトを、RFC代表の原田さんに渡し、試合開始となった。




