第60話 ジュリVSドゥーネ
「おお、次は早瀬さんの試合だね。対戦相手はかなり前に麗艶さんに負けた選手だよね」
「うん。ドゥーネさんは強いけど、タイトルマッチからの復帰戦でも負けてて連敗中。ジュリちゃんも前回の試合で負けてるから、二人とも、今回は何が何でも勝ちたいと思う」
ジュリちゃんが入場すると、会場からは声援半分、ブーイング半分という両極端な声が飛び交った。
ジュリちゃんは歯に衣着せぬ物言いから、ファンと同じくらいアンチが多い。
SNSでも、無視すればいいのに、アンチのコメントに噛みついたり、他のファイターとの舌戦を繰り広げたりしている。
リングインする前の身体チェックを済ませると、セコンドの米田さんと抱擁を交わし、そして米田さんがかがんでジュリちゃんのおでこにキスをした。
大胆だ。
「やっぱり二人が付き合っているってのは本当だったんだ」
私のリアクションに愛ちゃんがよこしまな笑みを浮かべた。
「ニシシ。ひょっとしてヒナ、米田さんのこと好きだった?」
なぜそうなる。
米田さんは容姿はあまり変わっていないが、変わらない良さがあるのはたしかだけど。
鼻筋も整っていて、スマートな体格で、相変わらずハンサムでカッコいいけど。
「そんなんじゃないけどね。けどってなんだろ。まあ、嫌いじゃないよ。でも・・・・・・」
「でも?」
私は言うか迷ったがボソリと小声でつぶやいた。
「アスカちゃん、の方がカッコいいと思うから」
「なるほど。これはまさしくラブですな」
などと話している間に、試合が始まった。
私と愛ちゃんははあわててリングに視線を移した。
互いにグローブタッチすると、二人とも一旦距離をおいた。
最初に動き出したのは、ジュリちゃんだった。
左のジャブで牽制しつつ、ドゥーネの右足に片足タックルを仕掛けた。
ドゥーネは倒れずに、ジュリちゃんの頭を押して突き放しつつ、反対の手で下からアッパー気味のパンチをコツコツ打っていった。
至近距離で腕の筋肉だけで打っているため、ノックアウトされる可能性は低い。
それでもジュリちゃんは、即座にタックルを解除し、離れた。
少しよろけながらだ。
効いているのだろうか?
ワンツーパンチがジュリちゃんに襲い掛かる。
まっすぐ下がりながら、腕で懸命にガードしている。
ロープ際まで追い詰められた。
「まっすぐ下がっちゃダメだ!」
セコンドの米田さんの叫びが青コーナーの下から聞こえる。
ジュリちゃんはたまらず片膝をマットについた。
パンチがヒットした?
いや、ちがう。
低い体勢からの片足タックルを仕掛けたのだ。
ドゥーネの下半身にジュリちゃんがからみつく。
今度は倒せそうだ。
しかしドゥーネも腰が重く、けんけんしながらロープ際まで移動する。
いま、ドゥーネはリングに背中を預けている。
ロープが邪魔をして思うように倒せないジュリちゃんは、今度は引き込んで下になった。
「ありゃ、下になっちゃったよ、早瀬さん」
愛ちゃんの指摘に私は解説をした。
「引き込みという技術なんだけど、自分から下になるのはジャッジへの印象も悪いし、上になった相手にパンチをもらうリスクもあるんだ。あまり良い選択とは思えない」
だが、ジュリちゃんの足が上に伸び、パクリと食虫植物のように、ドゥーネの首を捉えた。
「うわっ! なんかようわからんけど、すごっ!」
「伝家の宝刀、三角絞め!」
思わず叫んでいた。
ドゥーネはジュリちゃんごと腕を持ち上げようとする。
そのまま叩きつけるのだろうか。
すると今度はジュリちゃんの足がパッと開き、くるっと半回転したかと思うと、ドゥーネの左腕がピンと伸びた。
下からの腕十字だ。
ドゥーネはそのままマットにジュリちゃんを叩きつけた。
ものすごい音が鳴ったと同時に、レフェリーが割って入った。
「何? 反則?」
愛ちゃんは何が起こっているのか分からず驚いている。
「おそらく、ジュリちゃんの腕十字が極まってタップしたんだと思う」
スクリーンでスロー映像が再生される。
叩きつけた直後に腕が完全に伸びきっており、ドゥーネがジュリちゃんの足を二回叩いている。
「うわっ! 痛そう。折れてないかな」
「たぶん大丈夫だと思う。完全に折れる前にタップしてたから」
それでも痛むのだろう。
ドゥーネは右腕を押さえている。
対するジュリちゃんは、ロープの上でバランスよく大の字に立ち、勝ったぞとアピールしていた。
そうしてバク宙を披露した。
なんという身体能力。
レフェリーによる勝利者コールを浴びた後、しばらくの間、米田さんに肩車をされてぐるぐるリングの中を回っていた。
「早瀬さんが勝ってよかったわ~」
「うん。短かったけど、いい試合だったよ」




